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社会を変えるお金の使い方

2010年12月25日 | Weblog
「社会を変える」お金の使い方――投票としての寄付 投資としての寄付
駒崎弘樹
英治出版



社会生活をおくっていていると税金を納めるだけではなく、母校をはじめ、いろんな団体、神社やお寺、地域の社会福祉協議会や日赤などの寄付の依頼がおしよせてくる。
寄付と聞くと自分に直接役に立つわけでもないし、どう使われているかも分からないし、税金がそれで安くなるわけでもない。
やりたい人が勝手にやっている事に対して何故で寄付をしなくてはいけないんだと感じられ、払う場合もしぶしぶであった。

しかしその一方で自分も関わっているNPOの運営資金に関してやはり寄付に頼らざるを得ない現状もあり、どうやってそれを集めるのかという問題がまさに突きつけられていた。

そんなときにタイムリーに自分の前に現れたのがこの「「社会を変える」お金の使い方。」であった。

副題は「投票としての寄付、投資としての寄付。」

ふむ。

著者の駒沢弘樹氏は、若手の社会起業家でフローレンスという病児保育を行うNPOの代表だ。
学生時代から起業し、これまでの著書には「社会を変えるを仕事にする」「働き方革命」などがあり、同世代でこんなに活躍している人がいるのをみて自分も頑張らなくてはと刺激を受けてきた。
この本の前半は、一人親の貧困問題からフローレンスの「ひとり親パック」が生まれ、それを寄付(企業、個人)を利用してつくっていく過程が語られている。

そして寄付についての言説が述べられる。

「ビジネスの基本は見返りを求めず与えること、そして寄付は無条件で与えることを気軽に練習できる。「自分は余裕だ、周りに与えられる。」という良いラベリングを自分に対してできて、自己肯定感を蓄積できる。そしてそれは自分に底知れない自信とパワーをあたえてくれる。」

「また、ある運動をおこなっている団体にとって、寄付をマーケティングすると言うことはそのイシュー(問題)をマーケティングするということにつながるんだ。」

ふむふむ。


この本の中心テーマであるが、著者は寄付税制の改正を提言している。
まさにここが社会を変えるたえめのブレイクスルーポイントになりうると分かる。

日本の寄付税制は所得控除であり控除額が少なく寄付へのインセンティブが少ない税制だ。
一方で欧米では税額控除であり、「税か寄付か」の選択という思想が反映された税制だ。
この仕組みがあれば、公共を支える自治体や国に「税」として治めるか、公共を支える民間主体であるNPOに「寄付」として社会投資できるか市民が主体的に選択できる。
これにより市民は納税者(タックスペイヤー)としての意識を強く持ち、寄付がきちんと機能しているのか、と同時に税金がきちんと使われているのか、という感覚を強くもち、ひいてはそれが国家をきちんと監視し、意見を述べていく参加する民主主義への建設へつながっていくのだという主張だ。

ある問題が起きても、政府はすぐに対処することができない。制度化となれば何年もかかる。そのあいだに誰かがその新しい問題に対処しなくてはいけない。そんなときに欧米のように寄付が集まれば、国民が自律的に、かつ迅速に社会問題に対応できるだろう。

ふむふむふむ。

こういった主張を携え、著者は鳩山首相の肝いりの新しい公共円卓会議にも参加し、公式資料に「税額控除」が明記された。

しかし鳩山内閣の瓦解とともに脆くも崩れ去ったのではあるが・・・・。

キリスト教文化が根底にある欧米など違って、日本では寄付という文化は根付かないというような人もいるかもしれない。
しかし、歴史をひもどけばそんなことは無いという。大仏にしろ勧進という寄付を集めて建てたものであるし、江戸時代の寺子屋、明治期の孤児院や児童施設、それから慶応義塾大学などの私立の大学、同愛会などの医療機関にいたるまで寄付は根付いていた歴史がある。いろんな組合だってそうだろう。

そして、この本のクライマックスは第6章。「もし寄付が当たり前の社会であったなら。」だ。

ここでは寄付が当たり前となった社会の様子が活き活きとえがかれている。
地域にはNPOの数が増え、活気にあふれる。お金だけではなく自分の技術やノウハウというかたちでの寄付(プロボノ)も盛んになり、いくつもの視座を得ることができるようになる。NPOと競合することになる行政もうかうかしていられず、よりよく機能する。
政治家も全国からの個人の小額寄付が活動を支えるようになり、インターネットで発言や活動実績が調べられてしまうようになり、もっと働きだす。また世界中の不公平に国民が自ら立ち向かえるようになる。

第8章では、それぞれの立場でわれわれが「社会を変えるために」できることを紹介している。寄付はお金だけではないとも・・。

巻末の「寄付先のご紹介」は余計なお世話だが・・・。

この本を読んで、NPO、税制、寄付、新しい公共などのキーワードでモヤモヤしていた部分がすっとつながり見渡せたような気がした。

日本国民はNPOに対する理解が低いというが、実際のところ制度がNPOが活躍できるようにできていない。一言で言うと国が国民を信用していないのだ。
通常のNPO法人への寄付は控除すらできない。(認定NPOのみ)福祉系のNPOは資金あつめに苦しみ、制度でガチガチに縛られた活動しかできなかったり、行政の廉価な下請けにならざるをえない現状がある。そして全国どこでも似たようなNPOしか生まれない。
しかし税金として強制的にあつめたお金を、皆に選ばれたはずの政治家が方針を立て、優秀な官僚が実務をにない真面目な公務員が着実に使うという理屈は「42兆円の税収に対し、94兆円の支出」と言う現状を見ても破綻していることが分かる。
寄付税制改革とそしてベーシックインカム。これらが実現できれば本当に社会は良い方向へ変わっていくだろう。

一年の最期に本当に良い本にであった。是非、一人でも多くの人に読んでもらいたい本だとおもう。