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精神科医師のブログ。
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病院での障害者就労支援事業(食器洗浄編)

2010年03月18日 | Weblog
JA長野厚生連安曇総合病院で精神障がい者の病院内の仕事での就労支援事業がこっそりとはじまり約1ヶ月が経った。

精神科ディケア部門ではこれまでも様々な形で就労支援を行って来たが、就労支援(し得ん)プログラムだったり、段階式就労支援(すごろく就労支援。すぐ振り出しに戻る)であったりでなかなか安定した就労には結びつかなかった。

昨今の不況でなおのこと障害者をやとおうとする会社は少なく先日、松本で行われた障害者対象の合同就職説明会にはハローワークへの義理で参加した8社の企業に対して150人もの人が集まるような状況である。
なかなか上手くいく実感を持てない中でスタッフもメンバーも歯がゆい思いをしていた。

そんな中で院内にたまたま定年退職者が3人でたことで外部委託も検討されていた食器洗浄の仕事を使っての就労支援室が動き出した。
ささやかだが未来につながる大きな一歩である。

院長は「病院をあげて障がい者雇用を推進し100年後はドイツの「ベーテル市」のような地域を目指す。」と宣言している。
食器洗浄の部門のあとにはスタッフのユニフォームを洗濯する洗濯場の計画も控えている。
病院トップの肝いりだから動きは速い。

食器洗浄の仕事に就いたのは精神のディケアに通っていたメンバーが中心だが、ハローワークで独自に応募して来た人もいる。
いづれも精神保健福祉手帳の保持者で統合失調症や気分障害、アルコール依存症の人などさまざまだ編成。
多少、障害年金をもらって生活し、病院には自力で通ってこられるくらいの人たちだ。
朝昼連続で3人のチームと、夜だけ3人のチームを交代で仕事をおこなう。
朝昼勤務→夕食後勤務→休みの交代の勤務のシフト性。
今後は夜のみのパートで人手をもう1人増やして4人でやる計画だそうだ。

結局、3人(+α、調理とも兼務)の職場から12人の仕事がうまれた計算だ。(ジョブコーチもいれると16人)

患者を使って働かせて上手くやっているのだろうなどという批判もでるかもしれないが全く逆である。
病院としてはディケアのメンバーだった人が働くことでディケアの利用はその分減る。
福祉の対象者として仕事に就かせない方が支援者の仕事はあるというパラドックスを打ち破らなければならないのだ。

これは、まさに「プロジェクトX」なみの事業だ。

食器洗浄は病棟の地下で365日行われている仕事で、多くのスタッフの目に触れることはないが大切な仕事である。

病院中から下膳車を回収し残飯を分け、食器を大まかにわけて水槽に入れる。
水槽に浮かんだ食器がベルトコンベアで次々と流れてくるのでお皿を伏せた形にして食器洗浄機にながす。
食器洗浄機を通過した食器を種類ごとにステンレスのアミカゴに回収し乾燥機付きの棚に入れる。
そして環境整備をする。

とても大変な仕事だ。

今は支援者が交代で朝9時~夜の9時まで貼りついて一緒に仕事をしている。
支援者として入るのはディケアのスタッフであった看護師、作業療法士、精神保健福祉士の4人。
4日に1度のローテーションで週末も含め支援者として入っている。

初めてコーチをおこなうスタッフも最初は要領もわからず、栄養科の職員と一緒になり仕事に入って毎日クタクタだったそうだ。
配膳車の配置なども大きく分かりやすい番号をふったり下膳車の動きが分かるようにマグネットボードで工夫したり、お皿の種類ごとの写真をラミネートして棚に貼付けたりと環境も試行錯誤で徐々に構造化した。
そしてマニュアルを作っては改訂をくりかえした。
栄養科としても職人芸化して当たり前になっていた職場の環境が分かりやすくカイゼンされ構造化されたというメリットがあった。

「いままで仕事をこんなに丁寧に関わって教えてくれたところは無かった。」とある当事者スタッフの感想。

食事をとったりする休憩室のことで悩んでいたら栄養科の職員が「一緒に使えば良いじゃないか。」といってくれた。
そして職場には職員全員の顔写真と名前がラミネートされて誇らしげに貼られている。
1ヶ月ほどたって、やっと軌道に乗って来てジョブコーチの手も徐々に離れてできるようになりそうとのこと。

採用された人の中には手の遅い人、疲れやすい人もいる。
10人の中でもっともテキパキと動き活躍している若者もホームセンターに就職した時は仕事が覚えられず一週間しかつづかなかったという。
手の遅い人はチームから排除する動きになるかと思ったが、そうはならずチームの中でカバーする雰囲気になったそうだ。
調子を崩したりして穴をあけることも心配され、それに対する対策も考えられていたが今のところ穴をあけることもなく十文以上にやれている。

しかし現場から離れたどこからか、そんな人は雇うなという声がきこえてくる。
しかしそれで排除してしまうのでは障害者雇用の意味が無い。
動き方を工夫したり、人を増やしたりして乗り越えていくべきだろう。

安定して働けることが分かると長期的な保証などが課題となってくる。
こういったノウハウはさらにいろんな就労支援を展開していく上で役に立つに違いない。

地域で暮らすメンバーの誰もに「医・職・住・友・遊」を・・・。
そしてSociety for All!へむけての運動を。
すこしずつだが着実に前進している実感がもてた。
自分がこの病院組織に所属していることを本当に誇らしく思う。

長野厚生連の病院では一年間で病院内でもっとも活躍した人または団体に対して病院賞というのが贈られる。
今年は「就労支援室と食器洗浄チーム」を推薦したい。


奇跡の医療・福祉の町ベーテル―心の豊かさを求めて

橋本 孝
  西村書店

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病院の障害者雇用支援事業 -

障害者の社会参加促進は閉塞した組織や社会を変える突破口になる。

医・職・食・住・友・遊

まずは病院が社会的企業でなくては!