tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

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魚佐旅館の閉館・廃業に思う 観光地奈良の勝ち残り戦略(67)

2012年12月31日 | 観光地奈良の勝ち残り戦略
昨日(12/30)の当ブログに「魚佐旅館が閉館、150年の歴史に幕」という記事を書き、Facebookにも転載したところ、大きな反響をいただいた。FacebookにはYさん(元編集者)から《修学旅行生の賑やかな声が飛び交っていた歴史ある旅館が閉まるのは残念です》、Tさん(フリーライター)からは《 えー!私の修学旅行思い出の地です。びっくりしました…。残念ですね》、Tさん(旅館経営者)は《金田さんは全旅連青年部時代の友人、非常に残念であり、ご本人も無念の事と察します。形は変わっても何かの形で、「魚佐旅館」がこれからも続くよう、お祈り申し上げます》。

当ブログには、あをによし南都さんから《歴史のある老舗旅館だけに惜しいことです。猪鍋は絶品でしたし、名宝の数々は老舗ならではでした》、クッキーさんからは《私にとって「魚佐旅館」は、いつも当然にそこに存在するものでした。率川にかかる橋から川の中の石の船をのぞけば、右に魚佐旅館、左に猿沢の池。もの心ついたときからという意味では、興福寺の五重塔と同じような存在でした。金田さんとは一度も直接お話をさていただいたことはありませんが、苦しい経営の後の苦渋の決断であったこと、本当に心が痛みます》。

今朝(12/31)の産経新聞社会面(大阪本社版=トップおよびラストの画像)でも報じられ、私のコメントも紹介された。見出しは《奈良の老舗旅館 廃業へ 小泉八雲ゆかり 老朽・経営難で》。

奈良市の猿沢池のそばに建つ老舗旅館「魚佐旅館」が来月3日、約150年の歴史に幕を下ろす。市内最大規模の旅館だったが、価格競争の激化や東日本大震災の影響などで宿泊客が減少し、資金繰りが悪化していた。

魚佐旅館の正確な創業時期は不明だが、「うをや佐平」の屋号で江戸末期の文久2(1862)年の宿帳が残るほか、小泉八雲が宿泊したという資料も。修学旅行生客を中心に経営してきたが、平成7年の阪神大震災前後から客足が減少。22年に奈良市で開かれた「平城遷都1300年祭」で持ち直したもののが、翌年の東日本大震災で再び大きく減少した。

建物老朽化による設備更新の課題も浮上。採算回復の見通しがたたなかったため、今月中旬に閉館を決めた。同旅館の金田充史専務(49)は「先祖代々の旅館を閉めるのは断腸の思いだが、財産があるうちの廃業を決めた」と話している。

奈良観光に詳しい「奈良まほろばソムリエ友の会」の鉄田憲男事務局長(59)は、「奈良を象徴する老舗旅館だった。最近はインターネットで新たな顧客を開拓し、成果が見えていただけに残念」と惜しんだ。



これら2枚の写真は、楽天トラベルより

金田充史さんは、なら燈花会となら瑠璃絵の立ち上げメンバーで、今も熱心に活動されており、メンバーからは「金(かね)やん」と呼ばれ親しまれている。奈良の旅館としてはいち早く「楽天トラベル」と提携し、インターネットによる予約の受付を開始したり、「なら燈花会」では奈良の旅館業者と組み、楽天トラベルのトップ画面に燈花会の画像を貼り、そこからの誘客を図っていた。

猿沢池の真正面にあり、奈良市内では最大規模を誇る。建物は奈良県庁を模したデザインで、奈良のシンボルともいえる旅館だったのに、廃業は残念だ。私もこんな場面でコメントするとは、夢にも思わなかった。その金田さんご自身が昨日、当ブログにコメントを入れて下さった。タイトルは「涙を呑んで…」である。一部を抜粋すると、

張本人です。年の暮れに、お見苦しいザマを見せてしまいました。閉館は、残念至極でした。

阪神・淡路大震災以後、家族で旅館に泊まって楽しもう…というレジャー形態がアウトドアになり、これが終わると格安施設になり、で、形態が全く変わっていきました。で、この後、当館もリストラを進めていきましたが、前年比がそれよりもダウンを続けて、四苦八苦の状態でしたが、2005年程度から、目処が付いて、ナンとか2008年位から黒字を出せる体制になり、目鼻がついた…と思った矢先に3.11で、また沈没状態になりました。

発端は、冬場の運転資金の融資要請からスタートしているのですが、昨年の決算と今年の試算表が、どうしても赤字決算になり、多分・・多分ですが、これで融資が出せない、との見解が出てしまいました。八方、手を尽くしたのですが、新規ではハードルも高く、どうしても段取りはできませんでした。このままでは、冬場の資金ショートは確実なので、税理士とも相談して、決断に至りました。

これ以外にも、設備の修理や改修で建物の維持管理費が、年々増大している事、また、対処療法的な処置しか出来ていないので、同様のトラブルが多々発生し、解決していない事、ウチの子供が、女二人の為に、継がせるには、男子に来て貰わないといけないのですが、今の状態のままでは、どうしても自信を持って継がせられないと感じた事、また、社員も高齢化して、客室係…つまり女中さんを十分確保する事が難しくなった事、等々、いろいろな要因が、背中を押しました。

無論、先祖からの商売でしたので、決断には相当の勇気が必要でした。しかし、先祖は、旅館という業態が儲かる商売で面白く、また地域性も有る、との判断で、子孫にこれを残してやれば安泰であろう、との判断で残してくれたモノと思っていますが、今、これを子孫に残すと、大変なモノ以外のナニものでもありません。

また、法令も年々きつくなり、見えない経費と云うのが、バカにならないのです。例えば、空気環境、水、消防、等々だけでも、年間150万円程度のカネがかかり、こんなのは、宿泊料への転嫁の出来にくいモノです。こんなのは、先祖が考えた時では想定外で、こんなのが、どんどん増えていきます。

先祖から貰った土地を守るには、どうしたら???を考えた結果だと考えてください。若し、続けたかったら、商工ローンや民間融資会社などへ行けば、即日で融資して貰えるでしょうが、こんな事をしても解決にはならないどころか、それこそ破産確実です。無論、債務も残っていますので、これを精算する術が、今後必要になってきます。その事業スキームも考えないといけませんので、今これをじっくり探している所です。

親友の旅館経営者から電話がありました。今までの旅館は…ウチも含めての事ですが、「のれん」があまりにも重すぎて、その重さに耐えられなかった為に、結果として何も残せなかった。しかし、金田は、その「のれん」をいとも簡単に???…簡単じゃ無いぞ!!!下ろしてしまった。で、結果として、土地・建物は残せた。今の奈良の旅館は、同様の事を、皆感じている。皆のれんを守りたいのだけれど、これで苦しんでいる、と申していました。

旅館は、今や、大変な岐路に来ています。これは、自分は、奈良県が、観光都市として成立するか、若しくは住宅地としての機能でしか無いのか、の決断も同時にしないといけない時期にも来ている、とも思っています。私は、まだまだ居ますし、これからは、どこかで働かないといけませんので、今までのノウハウを生かした仕事ができれば、と考えていますので、今後共、よろしくお願いいたします。




産経に「財産があるうちの廃業を決めた」とコメントされていたのは、この「結果として、土地・建物は残せた」ということであろう。金田さんがお書きのポイントを整理すると、

①レジャーの多様化による旅館離れ
②バブル崩壊と東日本大震災のダブルパンチ
③売上げ減による資金繰りの悪化
④建物老朽化に伴うメンテナンス費用の増加
⑤法規制の強化による「見えない経費」の増加
⑥後継者難、社員の高齢化


ということになろう。金田さんのご親友の《「のれん」があまりにも重すぎて、その重さに耐えられなかった為に、結果として何も残せなかった》というのは、「廃業してはならない」とムリして頑張っているうちに累積赤字がどんどん膨らみ、結局、土地も建物も手放さざるを得なかった、という話だろう。旅館業を「家業」として経営しているところが多いから、「先祖代々の生業(なりわい)を自分の代で絶やしてはならない」と、ムリしてしまうのである。

現在、旅館業界は様々な経営問題を抱えている。「旅館業界・日本旅館の現況」(あかつき鑑定法人株式会社のHP)によると

○量の面(市場規模と経営動向)
旅行形態の変化、市場規模の縮小等の影響を受けて、旅館業界は厳しい経営を迫られているところが多い。特にバブル崩壊後、企業関係の旅行関係支出の圧縮、旅行費用の低価格化等の影響を受け価格競争により体力を疲弊した中小旅館が多い。バブル崩壊後、旅館数並びに客室数ともに減少傾向にある。

軒数、客室数ともに減少傾向にある反面、1軒当たりの平均客室数は増加している。これは、中小旅館が減少し、体力に余力がある規模が大きい旅館が生き残っていることを示しているものと思料される。

○旅館経営状況(国土交通省、観光白書より)
旅館にとって、客室利用率も重要であるが定員稼働率はより重視される数値である。旅館の客室は、シングルユースを想定しておらず、団体旅行向けに5人宿泊を前提としている旅館が多い。この客室を2人で使用するのと5人で使用するのとでは、売上高、利益率が圧倒的に違う。定員稼働率が、ここ数年40%弱で推移しているのは、5人部屋を2人程度で宿泊する客が多い(5人×40%=2人)ものと思料される。

○赤字旅館の割合
平成14年 47.3%、平成15年 34.0%、平成16年 39.6%、平成17年 39.9%
景気回復が謳われていた年度にもかかわらず、赤字旅館の割合は、約40%弱という高水準にある。

○質の面
今日、旅館業の代表的な課題を示す4つのキーワードがある。
1.事業再生
高度成長期からバブル期まで、旅館業は旅行代理店との蜜月関係にあったといっても過言ではなかった。旅行代理店の営業力により獲得した企業の団体旅行の受け入れ先として旅館があり、遊行場所としての旅館の大型化が進行した時代であった。この時代、団体旅行の増加による甘い将来予測に基づいて大型の設備投資が盛んに行われた。

バブル崩壊後、企業の団体旅行はなくなり、個人旅行さえも控えられた時代が続いた。バブル期の過重な設備投資が経営に重く圧し掛かってきている。 今日、消費者の旅行需要が団体から個人・小規模グループ化し、売上が思ったように伸びず、過重な債務が経営に暗い影を落として、経営が立ち行かなくなった多数の旅館が問題となっている。

2.旅館商品の差別化
高度成長期後期からバブル期にかけて温泉街・旅館商品を表すキーワードは、遊行の場、和風、数寄屋、おもてなし、温泉、精進料理等であった。日本全国どこに行っても同じ金太郎飴という印象を消費者に植えつけてしまっている。

3.マーケティング
旅館業は、高度成長期から今日まで旅行代理店の送客に営業を依存している。インターネットが発達して、インターネットによる旅行客需要の開拓が叫ばれているが、やっとホームページの開設が緒についた状況にある。自ら温泉街の魅力の情報を発信し、顧客獲得の必要性が叫ばれているが、中々進展していない。旅行代理店への送客手数料が、受注金額の15%程度にもなってしまう状況下では、利益がとれず財務内容の改善も覚束ない。

4.訪日外国人客の受入れ
観光立国の実現に向けたビジットジャパンキャンペーン等の取り組みにより、今後さらに見込まれる訪日外国人旅行者の受け入れのための体制整備が重要な課題である。

「旅行代理店への送客手数料が、受注金額の15%程度にもなってしまう」とあるが、確か金田さんから「20%になることもある」と聞いたことがある。だから金田さんはネットエージェントと組んだのであるが、ある程度の成果は上がったものの、その収益で赤字を埋めるまでには至らなかったのだろう。

特徴のある宿泊プランの提案や、インターネットの利用による手数料負担の軽減は、焦眉の急である。しかし景気の閉塞感が続くなか、日本人の宿泊旅行(回数・日数)は増えないし、結局はパイの取り合いになる(過当競争→価格破壊)。そこで最後の砦として期待のかかるのがインバウンド(訪日外国人客の受入れ)ということになるが、そのためには国を挙げての誘致が必要だし、宿泊施設側の受け入れ体制も整備しなければならない(スタッフへの教育、外国語表示の充実など)。

旅館をとりまく環境は八方ふさがりの状況に見えるが、客室数を減らし高級感を出して成功している例や、逆にB&B(1泊朝食付き)に特化して、多くの外国人観光客を引きつけている事例もある。

奈良県の宿泊者数は全国最下位である(客室稼働率も定員稼働率も、全国最下位)。魚佐旅館の閉館・廃業で、また宿泊者数が減ってしまう。この状況を打開するイノベーター(革新者)よ、来たれ!

※1/21追記
もちいどのセンター街の鹿鳴人さんは、ご自身のブログに、次のように書かれている。《春秋の季節の良いとき、奈良に宿泊しようとすれば、すでに予約でいっぱいということ多いのが現状です。基本的に絶対数は足りていません。一方、奈良市内でも思いつくだけでも修学旅行の中心の旅館ホテルは、ここ十年二十年三十年、住吉旅館など三条通の旅館、ならや、あぶらや旅館、好生館、猿沢ホテル、大文字旅館、都ホテル、魚佐旅館など、閉館しています。有名な日吉館、大和山荘、聖都、ドリームランドホテル、三笠温泉群、や高円山のうえの宿泊施設なども閉館していっています。共済会館やまと、など公営の宿泊施設も減っています》。

《「奈良らしい」宿泊施設が多く提供されるのはとても良いと思います。ただしそれには、それぞれが採算ベースにのるようなビジネスモデルが必要ではではないかと思います。そのビジネスモデルを行政および商工会議所、民間はリードして検討すべきだと思います》。

※1/22追記
金田専務は当ブログの「魚佐旅館は、名門・国学院栃木ラグビー部の定宿だった!」という記事に、以下のとおりコメントされた。《土地・建物は、金田の所有ですが、当館から見える景色は、特定の人々の独占になるのではなく、もっと広く見ていただく必要が有ると思っています。だから、マンションなどは論外。外国人の人々にも見て頂きたいし、無論、日本人が見ても素晴らしい景観だと思っています》。

《で、今後は、この景色をもっと楽しんで頂ける様な業界に来て頂ける様な業種を、行政や関係する会社と共に考えていきたいと思っていますので、また、相談に乗っていただけますよう、よろしくお願いいたします》。

コメント (2)
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