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コロナも落ちつき、これからが観光シーズン、ぜひ奈良に足をお運びください!

今、観光まちづくりが求められるこれだけの理由(by 藻谷浩介氏)観光地奈良の勝ち残り戦略(66)

2012年12月18日 | 観光地奈良の勝ち残り戦略
話はさかのぼるが、7月3日(火)、近畿運輸局は地域の魅力増進による旅行商品流通促進のため、地域へアドバイスなどを行う「近畿観光まちづくりコンサルティング事業」に関するセミナーを行った。そこでベストセラー『デフレの正体』の著者・藻谷浩介氏(日本総合研究所調査部主席研究員)が「今、観光まちづくりが必要なこれだけの理由」と題する講演をされた。その概要が、トラベルニュース(9/11付)で紹介された。
※トップ写真は、柿崎明二「政治劣化考」(47NEWS 6/17付)より

 デフレの正体 経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)
 藻谷 浩介
 角川書店(角川グループパブリッシング)

講演の冒頭、31年ぶりに貿易赤字に転落した日本が再び黒字化する問いを参加者に投げかけた。ともすれば震災の影響で輸出が減ったと思いがちだが、藻谷さんは国が公表しているデータを示しながら「対米、対EU、中国との貿易は黒字です」という。ではなぜ赤字なのか。「アラブから原油を買っているから」。だから答えは、節電省エネを徹底すること。

貿易赤字の原因を景気やものづくり大国の不調に求めるのは勘違い。どんどんエネルギーを使って製造業にまい進すると、輸出額と輸入額のバランスが崩れるだけ。また原発を再稼働しても使用済み核燃料の最終処分が決まっていない以上、コスト的にいずれは破綻をきたすと指摘する。



※イラストはすべて「イラストバイブル」(Moonpocket)より

藻谷さんは「製造業の技術開発支援や製造業の誘致というと格好がいいけど、油を使わずに外貨を獲得できる方法があるでしょ。それが観光まちづくりなんです」。貿易で大赤字のアメリカがやっていけている理由は、旅行収支で世界一黒字が多いこと。日本もモノを売るだけから、観光客誘致で黒字に転換することを勧める。

国内的にも現役世代が減って、モノに興味がない年寄りばかりが増えている。だからこそ「訪日観光が本格化しているアジア人に来てもらい、減りゆく日本の人口を補って、日本のモノを買ってもらいましょう。うまく取り込めたところは大チャンスですよ」と藻谷さんは話すのだった。


これは確かに正論で、私は「さすが藻谷さん!」と思わず膝を打ったが、もう少し詳しく知りたいなと思っていた。すると最近になって、NPO法人スマート観光推進機構の星乃勝さんが、メーリングリストに詳細を書いてくださった。テープ起こしでもされたのだろうか、細部にわたってきちんと書かれている。そこで、そのキーポイントを抜粋して以下に紹介する(同じ内容がブログ「関西観光応援団」に4回に分けて掲載されている)。なお太字は私がつけた。



日本の貿易収支が赤字になっているのは、中国や韓国の工業化が進んだためと思っていないか。貿易収支統計による実態は、日本の黒字はどんどん拡大している。観光における貿易収支はトントンだ。日本人の海外旅行は1800万人、訪日外国人観光客は856万人。それでいて輸出超過にならず収支が均衡している。今後、訪日観光客が増加すると、さらに黒字が増加する。

韓国で観光の貿易収支が均衡ということは、日本の半分である韓国の人口を考えると、日本の倍、韓国の消費があることになる。さらに人口の少ない台湾は、観光の貿易収支は黒字である。人口が1/25のシンガポールでさえ収支は均衡している。インドの貿易収支は急拡大している。インド人は日本が大好きなので、観光も拡大基調に向かっている。ただ、インドはベジタリアンが多い。これらの対策も必要になる。欧米の貿易収支は縮小している。観光においても輸出超過で赤字になっている。欧米諸国の観光需要より、アジア諸国に眼を向けなければ貿易収支で効果は期待できない。



日本経済は、90年度(バブル期)の輸出額は41兆円、06年度は72兆円である。「海外にモノが売れなくなった」のではない。それに引き換え、国内消費は、90年度(バブル期)141兆円、06年度に135兆円と4%減少している。明らかに輸出超過である。「儲かっているのにモノを買わない」は、これまでの世界経済になかった現象である。06年度の貿易収支は、20兆円の黒字で個人所得も14兆円増加。にもかかわらず豊かになっていない。儲けた金を消費せず、マネーゲームに使っている。日本の高齢富裕層はお金を貯めることを楽しんでいるだけだ。

今、日本で起きていることは「少子化・高齢化」ではない、「人口構造の変化」である。05年→15年の人口予測の変化を見ると、関西2府4県における14歳以下の子供の人口は48万人減少し240万人(▲16%)、15歳~64歳の就労人口は154万人減少し1240万人(▲11%)、65歳の高齢者人口は48万人増加し540万人(+36%)、高齢者のうち75歳以上の人口を見ると86万人増加して260万人(+49%)になる。少子化・高齢化の「率」でなくて、高齢者の「数」が急速に増加し、子供が減少し、就労に携わる人口が減少する社会が迫っているということだ。



これは全国で起きている現象だ。首都圏1都3県を見ると、14歳以下の子供の人口は50万人減少し390万人(▲11%)、15歳~64歳の就労人口は147万人減少し2250万人(▲6%)、65歳の高齢者人口は269万人増加し840万人(+45%)、高齢者のうち75歳以上の人口を見ると154万人増加し460万人(+63%)になり、日本で一番高齢者が多い街になる。75歳以上の高齢者が増えることで、さらに自治体負担が増えてくる。

日本経済は、個人所得が伸びているのに小売り販売額は横ばい。国内貨物量が減少し、新車販売数も減少している。これらは、就労人口減少により、モノが売れなくなっていることを示している。「売上=数量×単価」である。高度成長時代は大量生産により数量拡大で売上げが増加した。現代はモノが売れなくなり、数量が減少しているので、売上げを上げるためには単価の上昇、すなわち高付加価値が必須となる。

日本経済は、現役世代の減少、消費者の不足、商品の供給過剰となっているので、低価格大量少品種から高価格少量多品種へと向かわなければならない。フランスやイタリアはブランド品で対日貿易黒字になっている。高付加価値にするためには、「ここでしか作れない」「ハイセンス」「少量生産」の「地域ブランド商品」にしなければならない。また、高齢者の貯蓄、アジアの中上流層の所得を狙ったモノやサービスを売る構造にならなければならない。



「観光」を欲求5段階にあてはめれば、生存欲求段階は「物見遊山に行く暇もない」から、帰属欲求「人並みに旅行したい」、被認知欲求「人が行った所は自分も行ってみたい」、優越欲求「人が憧れる場所で高価なものを楽しみたい」、自己実現の欲求「自分自身の感性に合う生活文化を味わいたい」となる。現代は、優越欲求から自己実現欲求の段階に入っているといえる。

大量生産消費時代の安価なツアーから脱却しなければならない。関西は歴史文化に恵まれた資産が数多くある。しかし、お客さま目線で洗練されたものになっていない。観光の方向性は、個人客対応、クチコミ重視、長期滞在型(連泊客に食事を変える等)への脱皮が必要である。「一度、当地に来たかった人」と、「何度も当地に通ってくれる人」への対応を考えなければならない。



入込客数の増加ではなく、客単価を増加させて、売上げが増加する工夫が必要となる。(行政は直ぐに入込客数の数字を問うが「利益」を上げなくては意味がない)(TDRのオープン時の入場料は3900円だったが、現在5400円である。コンテンツ充実により付加価値を高めている)。中高年男性中心の観光から女性主導の観光への転換が重要となる。

客にとって観光地は「沢山ある選択肢の一つ」にすぎない。あえて当地を選んでもらう理由を与える知恵を出さなければならない。関西にしかないユニークなものを売ることである。大阪には1時間でワイナリーに行ける場所がある。関東にはない。そのワイナリーで食事とワインを愉しむのは、ユニークな観光の一例である。「気持ちよくお金を使いたい」と思う客がいる。そのような客に、「お得だ」と思える仕掛けが必要である(発泡酒では利益がでない。プレミアムモルツは高価でも売れている)。



欧州の「観光」が主要産業の一つである理由は、自分たちの「生活文化」「街」そのものが集客資源になることと、収益効果の大きい産業だからである。ユニークな「生活文化」そのものがリピータを呼んでいる。「文化財」や「観光施設」は必ず飽きられる。「自然景観」も一部の熱烈なリピーターを呼ぶが、収益性は高くない。国内最大の「生活文化」観光地は、東京や大阪等の都会である。都会人のように「歩き」「買い」「食べ」「住む」ことに憧れている。先進国の人間は日常に飽きている。「憧れのライフスタイルを疑似体験したい」、でも「面倒はイヤ」。地元民が楽しそうに生活する場所に集まろうとする。

賑わいを殺すような道路拡幅はやめ、狭い路地裏に雑踏を作ろう。食の名物を洗練させよう。街中に溶け込んだ小型の宿を増やそう。生活がブランドになるような街を形成していこう。独自の景観を再生させ、その景観を守るための自主ルールを作ろう。「非日常」ではなく「過ごしたかった日常」こそ、お客さまの求めるものである。



外国人富裕層を魅きつける条件は、日本らしい都市景観、泊食分離、笑顔で誠実なもてなしだ。在住外国人のクチコミが客を呼ぶ。「あそこは礼儀知らずの庶民が泊まる場所」と思われてはいけない。観光地の自立と持続のためには、①景観が年々よくなる ②クチコミによる客、リピータ客が増加 ③やる気のない事業者が淘汰されること が必要である。

主要ターゲットは、爆発的に増えている関東の中高年層を取り込むことにある。食文化、芸術文化、歴史に金を遣わせることである。
そのためには、福祉サービスの充実も重要になる。子供の減少、高齢者の増加は、世界中で進行している。いかに付加価値の高い産業構造を作るかに日本の進路がかかっている。




話があちこちに飛んでいるが、趣旨は把握できた。キーワードも散りばめられている。曰く、
関西は歴史文化に恵まれた資産が数多くある、しかしお客さま目線で洗練されたものになっていない。
観光の方向性は個人客、クチコミ、長期滞在型への脱皮。
入込客数ではなく客単価を増加させて、売上げが増加する工夫が必要。
中高年男性中心の観光から、女性主導の観光へ。
「文化財」や「観光施設」は必ず飽きられる。
「自然景観」も一部の熱烈なリピーターを呼ぶが、収益性は高くない。
「非日常」ではなく「過ごしたかった日常」こそお客さまの求めるもの。
観光地の自立と持続のためには①景観が年々良くなる②クチコミによる客・リピーター客が増加③やる気のない事業者が淘汰されること。
関東の中高年層を取り込むこと、食文化・芸術文化・歴史に金を使わせること…


奈良観光振興に向け、素晴らしいヒントをいただいた。これらキーワードを十分に咀嚼して、ツアーの組成などを考えてみたい。星乃さん、丁寧なご紹介を有難うございました!
コメント (6)
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