tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

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日本林業に救いはあるか

2011年03月04日 | 林業・割り箸
日本林業はよみがえる―森林再生のビジネスモデルを描く
梶山 恵司
日本経済新聞出版社

昨日(3/3)は、当ブログで阪口製材所の取り組みを取り上げた。ちょうど月初(3/1)の日本経済新聞「春秋」が、スギ花粉症から林野行政の話に言及していたので、ここで紹介しておく。

《きょうから3月。このところ暖かくなったかと思えば寒さがぶり返し、皮膚感覚ではなかなか春本番とは言い難い。だが目と鼻のかゆみが、何よりも雄弁に春の到来を告げている。そう、現代の「国民病」とも呼ばれている、花粉症だ。患っている日本人は2000万に達するともいう。古来、春を待ちわびるのは大方の人情だろうに、かくも多くの人が不愉快な気分で春を迎えているとすれば、花粉も罪作りではないか。もちろん、花粉たちには罪はない。スギやヒノキの植林を過剰に推進した戦後の林野行政をはじめ、人の作為が根っこにある》。

《とはいえ、過去の植林政策を弾劾するばかりでは、一面的にすぎるようだ。戦後復興とそれに続く高度成長で木材需要が爆発的に増え、日本の森林資源は一時、危機に陥った。その回復を目指した努力がスギなどの植林だった。おかげで山々はかなり緑を取り戻したという(梶山恵司「日本林業はよみがえる」)。つまり、花粉症の蔓延(まんえん)は戦後復興と高度成長の副産物らしい。問題は、国民病といわれるようになってからも、花粉の量を抑える対策が大して進んでいないこと。回復したとされる森林資源を活用するうえでも、科学的データを踏まえたスギなどの間伐が必要なはず。花粉症が問うのは、何より現在の林野行政だ》。

梶山恵司著『日本林業はよみがえる』(日本経済新聞出版社)は、《日本林業は地域の重要な成長産業になる! 国家戦略室審議官として民間任用され、林野庁の「森林・林業再生プラン」草案を執筆したキーマンが、日本の林業の問題点と再生のための数々の具体策を提示する》(版元の紹介文)という本である。

Amazonのカスタマーレビューには《林業は欧米先進国(フィンランド・ドイツ・オーストリアなど)と比較することで、日本は再興しうる森林資源大国として位置付け直している。この30年ほどの退潮については戦後森林資源を一挙に濫費した反動として快刀乱麻を断つ姿は痛快である。日本の林業の課題は戦後の林業バブル期の反動として林業経営技術(人的資源・機械・会社規模・林道整備)の遅れがあるだけとして、日吉町森林組合や中国木材という木材産業の存在の指摘は希望を抱かせる》。

いま里山が必要な理由
田中 淳夫
洋泉社

田中淳夫氏(生駒市在住)も、「森林ジャーナリストの『思いつき』ブログ」で同書を紹介されている。《帯文には、50年ぶりのチャンスがやって来た! と今後に期待を持たせるが、実は一読して感じるのは、いかに日本の林業がだらしなかったか、ということである。そして、本当に、日本林業は救われるの?とさえ感じさせる。そして、極めて正統派のビジネス、産業になるべきだというのであるが、私とは目のつけどころが違う。面白いのは、私の林業ダメ論と彼の林業ダメ例は、あまり重ならないことだ。つまり、日本の林業のダメさ加減は、私ら二人でも語り尽くせないほどあるということか(笑)》。

《今の欧米を真似た日本の機械化戦略などは、意外なことに批判的だ》《どこでもそこでも作業道を入れて大型機械で伐採搬出すればいいわけない。ヨーロッパでは、ケースバイケースで架線も取り入れているし、森林や林業技術の知識がフォレスターや現場作業員に行き届いているのに対して、日本はうわべだけ真似ているからだろう。それも自己流なのである。その点からも、現在の林業の機械化を推進して、日本では先端を行っているつもりの林業事業体も、この本を読んで反省点を見つけるべきだろう》。

森を歩く―森林セラピーへのいざない (角川SSC新書カラー版)
田中 淳夫
角川SSコミュニケーションズ

田中淳夫氏も、林業についての著作を準備中である。《私の現在進行形の出版は、4月になりそうである。ここでも、日本の林業ダメ論と今後の展開を描いている。なんのことはない、同じテーマなのである。でも、ここまで事例を含めて発想が違うのか、ということを比べてみると面白いと思うよ》。

日本林業の問題点には、根深いものがある。Wikipedia「林業」も《日本の林業は国際競争の激化による木材価格の低下から競争力を失い、森林の手入れも充分ではなくなっているために、森林の保全が叫ばれている。日本森林の荒廃は、水源涵養機能や表面侵食防止機能などの公益的機能を低下させ、その損害は周辺の住民全体が被ることになる》と指摘している。

奈良県は県土の約78%が森林である。これは、世界第1位の森林王国・フィンランドの約76%より高い。かつて「吉野ダラー」と称されたように、林業は奈良県最大の地場産業であった。『日本林業はよみがえる』と田中氏の新著は、ぜひ併読して、どうすれば日本の、そして奈良県の林業を復活できるか、じっくり考えてみることにしたい。
コメント
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