てつりう美術随想録

美術に寄せる思いを随想で綴ります。「てつりう」は「テツ流」、ぼく自身の感受性に忠実に。

奈良ばしご・第2幕 ― 「正倉院展」のことなど ― (1)

2007年11月21日 | 写真記
 11月10日、土曜日、早朝。まだ夜も明けないうちから、ぼくは奈良へと出かけることにした。

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 これまで何度も書いたように夜勤の仕事をやっているのだが、けっこう日が高く昇るまで残業するのが常である。特に年末は忙しいらしく、「これからの繁忙期に向けて体調を崩さぬよう気をつけましょう」などと書かれた回覧が上司からまわってきた。ぼくはあまりの不条理にあきれはて、その上司に面と向かって「残業に次ぐ残業で睡眠を削りながらも体調を崩さないという奇跡をなし遂げるには具体的にどうしたらいいのですか」と聞いてやろうかと思ったが、何とか腹のなかにおさめた。

 紅葉は少し遅れそうだが、芸術の秋は今まさにたけなわである。行きたい展覧会も山ほどあって、休日出勤などしている場合ではない。そんななか、毎年全国から多くの観客を集めているのが、奈良で開かれている「正倉院展」だ。だが、ぼくは興味を惹かれながらも、これまで一度も観たことがないのだった。

 その理由というのは、ほかでもない。非常に混んでいるからである。展覧会は好きだが、人込みは嫌いだという人はかなり多いのではないかと思うが、ぼくもそのひとりだ。例年この時季になると大きく報道される「正倉院展」の混雑ぶりが、ぼくの足を重くしていたのである。

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 ところがこのところ工芸に深い関心を抱くようになり、正倉院に収められているという天平時代の工芸の遺品を一度は眼にしてみたいとも思いはじめていた。しかし、会期末は迫っている。日曜日なら何とか時間の都合がつくが、人出も多いにちがいない。月曜日の昼間なら動けないこともないが、その日は展覧会の最終日で、これまた大変な混雑が予想される。どうしたものか・・・。

 そうやって思い迷っているとき、土曜日の朝の5時半で、今週の仕事を打ち止めにしてよいという許可がおりた。これを逃したらチャンスはないとばかり、終業のチャイムが鳴るとただちに ― こんな朝っぱらからチャイムを鳴らすのはいい近所迷惑だろうと思いつつ ― 会社を飛び出したわけである。もしその日も残業していたら、今年の「正倉院展」はとうとう観ることができなかったかもしれない。


〔会社の前の歩道橋からの眺め。日の出にはまだ早い〕

 でも、考えてみればそんなに急ぐこともなさそうだ。会場である奈良国立博物館が開くのは、午前9時だからである。だが、念のために30分前には現地についておいたほうがいいかもしれない。・・・そんなことをつらつら考えつつ、南海電車に乗って難波駅にたどり着くと、ようやくしらじらと夜が明けはじめるところだった。

 早朝の難波は人も少なく、見慣れない街みたいだ。思えば、こんな時間に大阪の街中をうろついたことなどない。ぼくは目覚める前の都会のなかを、デジカメ片手にしばらく歩いてまわった。目に触れるものがことごとく新鮮だった。やっぱり、朝はいいものだ。


〔朝日を浴びる難波高島屋〕


〔高島屋前から新歌舞伎座をのぞむ〕


〔しんと静まりかえった高架下〕


〔無人のまま動きつづけるエスカレーター〕

 さて、ぼちぼち腹ごしらえをしなければならない。ぼくはこのところ、家で自炊する時間がまったくないので ― これでも以前はときどき料理をしたものだったが ― 朝食は24時間営業の定食屋ですませることがほとんどだ。今日もご多分にもれず、納豆に卵のついた朝定食を注文する。奈良駅前にはこの手の店がまだほとんどないので、大阪で食べてから出かけることが肝心である。

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 腹もくちくなったところで、いよいよ出発だ。生まれてはじめて「正倉院展」を観にゆくのだ、と思うと、おかしな話だが何だか武者震いするようだった。ぼくはコンビニで栄養ドリンクと ― 途中で眠くなったら大変だからだ ― 開館を待つあいだに舐めるためのキャラメルを買い込み、地下のホームへ向かって長い長いエスカレーターをくだっていった。


〔7時7分発の快速急行に乗り込む〕

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