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朗読劇「バイオーム」配信

2022-06-14 22:08:33 | 見る
朗読劇「バイオーム」
脚本は宝塚を退団して驚かれた(ファンに嘆かれた)上田久美子、演出は「麒麟がくる」「精霊の守り人」の演出家・一色隆司。主演・中村勘九郎。
 私は配信で見ました。勘ちゃん主演だから見たのですが、ほかの出演者も一人残らずよかったの、全員がいい!ってめったにないこと。

 現代の日本、代々政治家の家、庭にむかしからあるクロマツの大木が舞台の中心にある設定で、その前でお話が展開していく。引退した大臣である支配的な父(野添義弘)、その父の娘として、また優秀な婿養子(跡継ぎの政治家)の妻としての役割しか認められていない娘(花總まり)、誠実に見えて不倫に逃げている婿養子(成河)、娘の友人であやしげなスピリチュアルな治療をする女(安藤聖)、家政婦で乳母の老女(麻実れい)、その息子の庭師(古川雄大)。勘ちゃんはこの家の孫、8歳の男の子。と、彼が見ている幻のお友達である女のコ。勘ちゃんはこの二役をその場で声と所作で演じ分ける。勘ちゃん以外の人は全員、人間の役と、庭の植物の役の二役を演じる。
 朗読劇となっているが、全然朗読劇じゃなかった。最初はみんな台本持ってて、いかにも読んでるふうだけど、あれだけ動きながらでは、読んでないよね?途中からはその台本も出てこなくなるし。普通に芝居してる!しかもかなり激しい感情の爆発もある!だから、スペクタクル・リーディングなんとかと銘打っている。衣装もちゃんと役に合わせてるし。要するに、台本を持っていたり、台に置いていたりするのも「小道具」なのだ。ここは植物として発言していますよ的な。
 愛憎もぐるぐる渦巻き、実は娘の母親は乳母だったのだ!とか、実は婿は秘書と不倫中とか、自暴自棄になった娘は庭師と寝てしまうとか(それを告白するのもあけすけなセリフなので、上田久美子先生は宝塚では使えなかった言葉や設定をばぁーん!と入れ込んだらしい)、崩壊していく家族のようすを、8歳の勘ちゃんが木に登っていて全部見てしまうという、痛い痛い哀しみ。
 家で配信で見ていた私は、うーん、こりゃしんどいなぁ、途中まででやめようかしらと思いつつも、結局じーっと最後まで観ました。見ちゃった。見させてしまう力があった。
 学校になじめない、上手に生きられない、求めても両親の愛も理解も得られない、幻の幼なじみだけが友達という少年を演じた主役・勘九郎さんも見事でしたが、壊れてしまう娘・妻・母の花總まりさんが凄かった。ミュージカルで見たことはあったが、ストレートプレイで見たのは初めてで、最初、この女優さんは誰?と思っていた。そのほかの配役もみんなよかった中で、特にすばらしかったのが麻実れいさん。忠実な家政婦の老女の演技と、この作品全体の中心であるクロマツの大木の演技を行ったり来たりするのだが、クロマツの大きなあたたかい包容力を感じさせる声!
 この作品は音楽劇ではないが、非常に音楽的で、生演奏の音楽と出演者の声(コーラス?)がずーっと鳴っている。その音楽の使い方も魅力だった。
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