映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

海難1890

2015年12月20日 | 映画(か行)
約束された絆



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この日は「杉原千畝」に引き続いてこの「海難1890」を鑑賞。
いやあ、我が身の危険を顧みず、人のためにつくそうとする。
嫌でも感動が約束されたようなものですね。



1890年9月、オスマン帝国の親善訪日使節団を載せた軍艦エルトゥールル号が
おりからの台風のため、和歌山県沖で座礁。
乗組員618名が荒れ狂う海に投げ出されました。
地元住民の懸命な救助活動により69名が救われ
トルコへ帰還したという実話を映画化したものです。
うならされてしまうのが、この村の人々の
「困った人を助けるのはあたり前」という意識ですね。

もともと漁村なので、海で遭難した人はとにかく無条件で助けなければならない、と、
そのような意識が代々伝わっていたようなのです。
荒れ狂う海で人を救うというのも、自分自身が海に引きこまれてしまう可能性も大きい。
そしてまた救助した人の医療とか、食料。

どう見ても自分たちが食べるのにやっとそうな貧しい村で、
それでも村の人々は惜しげなく手を差し伸べるのです。
なかなか、このようにはできないなあ・・・。





そしてまた時を経て1985年。
イラン・イラク戦争で緊張高まるテヘランに取り残された日本人215人。
サダム・フセインが、まもなく空港への無差別テロを開始すると予告しているのですが、
日本から乗り入れている航空機がないため、足止めを食ってしまったのです。
そんな時トルコ機が最後の出航をしようとしていて・・・。



両時代の登場人物に同じ忽那汐里とケナン・エジェを充てたのが
素晴らしく効果的だったと思います。
双方の国が手を差し伸べ合う場面に登場する二人。
何やら始めから約束されていた絆のように思える、
運命的なこの二人の出会いが、感動を更に盛り上げてくれました。
いい話はやっぱりここち良いものです。
まずは手放しで感動に浸ればいい。



「海難1890」
2015年/日本・トルコ/132分
監督:田中光敏
出演:内野聖陽、忽那汐里、ケナン・エジェ、アリジャン・ユジエソイ、夏川結衣
歴史発掘度★★★★☆
感動度★★★★☆
満足度★★★★☆

百日紅 Miss HOKUSAI

2015年12月20日 | 映画(さ行)
私たちが思っていてよりも“自由”な江戸の町人たち



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漫画家であり、また江戸風俗研究家でもあった、
杉浦日向子さん作品のアニメ化作品。


浮世絵師葛飾北斎の娘・お栄は、父と同じく浮世絵師として暮らしています。
そんな彼女を取り巻く江戸の四季、盲目の妹・お猶、そして父北斎のことなどが描かれています。



最近読んだ杉浦日向子さんの「一日江戸人」の中で、
江戸時代、武士は様々な制約に苦しんでいたけれど、
町人は実に気ままで自由だったというようなことが書かれていました。
なるほど、本作中のお栄は、絵師として自立できていたためかもしれませんが、
実に自由な精神の持ち主。
それは、今だからこそそんな風に勝手な想像でそういう女性像が描けたのだ、
と思われるかもしれません。
でも、実はそれができた時代、それが江戸時代なのだという気もしてきました。



気が強くて口が悪い。
そんなお栄だけれど、彼女の描く「春画」は、すごくうまくてきれいだけれど、色気がない、などと言われてしまいます。
それというのも、実はまだ彼女が未経験だから。
それが悔しくて彼女はある店へ行きます。
また、彼女は密かに想いを寄せている人がいるのですが、
普段べらんめえ調で男性と話すことなどなんとも思わないのに、
その人の前では何も言えなくなってしまう。
そんな彼女のギャップがとても楽しい。



本作はまた、ちょっとした怪談と言っていいくらい、
「怪異」のシーンも多いのです。
お栄はある人に頼まれて地獄絵を描くのですが、
そのできがあまりに良すぎて、
その家の奥方が夜な夜な絵から抜け出た亡者に襲われ、病を得てしまう。
父、北斎はいいます。
「まだまだ未熟だな。こういう絵にはちゃんと仕上げをしなけりゃダメなんだ。」
と、絵にあるものを書き加えるのです。
ああ、なるほど・・・と思いますね。
科学などというもののなかったその昔。
世の中には怪異と日常が混然として当たり前にあったのだろうなあ・・・。



盲目の、まだ幼い妹・お猶のエピソードには泣かされます。
絵師というその「目」がすべてのような父の子が盲目というのもなんとも皮肉なのですが、
本作ではそのことに北斎が負い目を感じているように描かれています。
自分があまりにもものを見る「目」の力を持ちすぎたために
そんなことになってしまったのではないか・・・というような。
だからちょっぴり疎遠な父娘関係になってしまっているのですが、そんなところも切ない。
夜、真っ暗闇の部屋でお猶は、「蚊帳の上に何かいる」と訴えます。
お栄が調べてみるとそこには一匹のカマキリがいたのでした。
たった一匹のカマキリの息遣いまでをも感じ取ってしまう繊細な妹。
それは盲目である故ではありますが、
そうまで繊細だからこそ、長くは生きられないのか・・・。
せつなくて、辛い。
だからこそ、両国橋の雑踏の中で聞いた人々の息吹や、
船から身を乗り出して触れた川の水のこと・・・
つかの間の生が光ります。



そうそう、それから北斎の家に住み着いているワンちゃんが可愛くてステキ!
こんな風に、弟子の善次郎と全く同じしぐさのシーンは笑ってしまいます。
でもリアルな犬の動きなので・・・うまいなあ。


・・・ということで個人的にはすごく満足度の高いアニメでした。
声は豪華俳優陣が務めていまして、
その本人のイメージが浮かんでしまうのがやや難点ではあります。
でも杏さんのお栄、悪くはないです。

百日紅~Miss HOKUSAI~ [DVD]
杏,松重豊,濱田 岳,高良健吾,美保純
バンダイビジュアル


「百日紅 Miss HOKUSAI」
2015年/日本/90分
監督:原恵一
原作:杉浦日向子
出演(声):杏、松重豊、濱田岳、高良健吾、美保純
江戸の風景★★★★★
満足度★★★★★