映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分

2015年12月07日 | 映画(あ行)
映像は単調だけれど、濃密な86分



* * * * * * * * * *

高速道路を走る車の中、主人公ただ一人が出演者という
ワンシチュエーションのドラマです。



アイヴァン・ロック(トム・ハーディ)は、妻と二人の息子がいて、
仕事は周りからの信頼も厚い工事の現場監督。
順風満帆の生活でした。
大規模なプロジェクト着工を翌日に控えたその夜、
彼は車の中で、ある電話を受けます。
以前出張先でたった一度関係を持ってしまった女性が妊娠し、
今まさに破水して病院に入ったという知らせ。
彼は直ちに病院へ駆けつけると約束をしますが、
家族とテレビでサッカー観戦をする約束や、
明日の大規模なコンクリート打ちの仕事はどうするのか・・・!!



ひっきりなしにかかってくる電話と、こちらからかける電話。
ひたすら夜のハイウェイを走る車と主人公だけの映像でありながら、
その焦燥感がビンビンと伝わってきます。
リアルタイムの86分が本作そのままの長さです。
これで仕事を投げ出してしまうのはどうなのか、
と実のところ私も始め思いました。
しかし、彼はクビを宣告されてもなお、とにかく仕事だけは無事にやり遂げようと思い、
彼の部下に電話で指示をし続けます。
その部下は、プレッシャーでお酒を飲み始める始末だったりするのですが・・・。



そんな中アイヴァンの一つのセリフにグッと来てしまいました。

「コンクリートの質がほんの少しでも違ったら、やがて狂いが生じる。
ほんの一センチの狂いでもそこから亀裂が生じてビルが崩壊する。」

これぞ現場を預かるものが常に胸に置くべきことですよね。
これこそがプロだ。
つい、杭打ちデータ改ざんなどという
最近のけしからぬ出来事を思い浮かべてしまったのでした。


このたった86分の間に、彼の家庭も、仕事のキャリアも崩壊・・・。
特別に愛しているというわけでもない、たった一人の女のためにそうまでしなくても
・・・と、思ったりもするのですが、彼の決意は変わらない。
というのも、ほんの束の間、電話のない一時に、
彼はすでに亡くなった自分の父親に向けて悪態をつくのです。
家庭生活も仕事も全くダメだった彼の父。
彼は父親を反面教師として、これまで生きてきたことが伺えます。
実直に、誠実に。
それだからこそ得た現在の平和な家庭、仕事の地位であったのに。
しかしその実直さと誠実さが今は彼の首を絞める。
う~ん、切なくて厳しい。



けれど最後に、状況が大きく変わるわけではないけれど、
なんだか少し救われる気がするラストが、後味の悪さを消し去ります。
不思議ですが、彼の家族の様子や、現場事務所の様子、病院の妊婦の様子が、
まるで映像で見たような感じで印象に残っています。
濃密な86分でした。

オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分 [DVD]
スティーヴン・ナイト,スチュアート・フォード,デヴィッド・ジョーダン,スティーヴン・スクランテ
アルバトロス


「オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分」
2013年/イギリス・アメリカ/86分
監督:スティーブン・ナイト
出演:トム・ハーディ、(以下声のみ)オリビア・コールマン、ルース・ウィルソン、アンドリュー・スコット、ベン・ダニエルズ

焦燥感:★★★★☆
満足度★★★★★