映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「南極風」笹本稜平

2015年06月26日 | 本(その他)
山の自然より厳しい、人の世・・・

南極風 (祥伝社文庫)
笹本 稜平
祥伝社


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ニュージーランドの名峰アスパイアリングで起きた遭難事故が、
森尾正樹を奈落の底に突き落とした。
登山ガイドの彼は悪天候のなか瀕死のツアー客を救出し一躍英雄となるが、
突如、保険金殺人の容疑で逮捕されたのだ。
冤罪を主張するも検察の取り調べはあまりに作為的で―
眺望絶佳な山の表情と圧巻の雪山行、
そして決して諦めない男の法廷対決を描く愛と奇跡の感動作。


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私、自分で登山をしたりはしないのですが、
山岳小説は嫌いではありません。
峻烈な自然とそれに対峙する生死をかけた人間のドラマ。
つい、夢中になってしまいます。
本作の主人公はニュージーランドの名峰アスパイアリングで登山ガイドを勤める森尾。
特別危険な山ではないのですが、
日本からの登山客を無理なく山頂まで導くことで定評のあるツアーを企画しています。
しかしこの時のツアーは、
体調を崩した登山客がいたため日程がずれ込み、
落石というアクシデントと、
さらに天候の急激な悪化で最大級の危機に瀕してしまう。
しかし森尾は、持ち前の責任感と粘りで、
全滅してもおかしくなかった状況から、死者も出たものの、多くを救い、
奇跡の生還を遂げたのです。
・・・ところが彼の行為が、
保険金を狙った「未必の故意」による殺人であるとの告発があり、
突如逮捕され、検察の底意地の悪い取り調べを受けることとなる・・・。


その時の山の出来事と、検察の取り調べの様子が交互に描かれていきます。
私は、山の出来事の方はすんなり読めましたが、
逮捕後の部分はあまりにもヒリヒリした感じで、
正直読むのが辛かった・・・・。
あくまでも「犯罪ありき」で、真実を見極めようともしない、
悪意としか思えない検察。
そもそも彼を告発したのは誰なのか? 
この冤罪を受けて、森尾がよく頑張れたな・・・と感心してしまいます。
もっとも、それこそが常に山の危険と向かい合い、
自分に挑戦し続けた森尾の頑張りどころではありますが・・・。
山よりも人の世のほうが厳しいというのが、私にはキツすぎる・・・。
それでいて、ラストの湯沢検察官の懺悔めいた告白のくだりは、
ちょっとやり過ぎという気もしましたが・・・。

「南極風」笹本稜平 祥伝社文庫
満足度★★★☆☆