映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「想像ラジオ」いとうせいこう 

2015年06月14日 | 本(その他)
死者たちのことばは、思いの外優しい

想像ラジオ (河出文庫)
いとう せいこう
河出書房新社


* * * * * * * * * *

深夜二時四十六分。
海沿いの小さな町を見下ろす杉の木のてっぺんから、
「想像」という電波を使って「あなたの想像力の中」だけで聴こえるという、
ラジオ番組のオンエアを始めたDJアーク。
その理由は―
東日本大震災を背景に、
生者と死者の新たな関係を描き出しベストセラーとなった著者代表作。


* * * * * * * * * *

本作は、キノベス!2014第一位を始めとして
様々な賞を受賞したベストセラーです。
というのも、あの3.11東日本大震災に由来するストーリーで、
確かに私達日本人にとって大切な物語なのです。


・・・こんばんは、ただ今草木も眠る深夜二時四十六分です。
いやあ、寒い。
凍えるほど寒い。
ていうかもう凍えてます。



・・・と、軽妙な語りで始まるものの、
このDJアークのおかれた状況というのが異様なのです。
街を見下ろす小山に生えている杉の木のてっぺんに
仰向けになって首をのけぞらせたまま町並みを逆さに見ている・・・。
そんな悲惨な状況で身動きもできず、
ひたすらラジオのDJを流しているという・・・。


つまり、彼は地震のあとの大津波にのまれ、
この樹のてっぺんに引っかかったまま、
実は亡くなっているのです。
そうして、このラジオのリスナーとして、メッセージを寄せているのも
同じくこの震災で亡くなった人々。
物言わぬはずの死者たちの語りはしかし、
死の苦しさや恨みつらみではなく、
生前のふとした日常の思い出話や家族の安否。
優しさと切なさが交差します。
それは癒やしであり、祈りでもあるような・・・。


そうではあるのですが、
DJアークがいつまでもこんなところでDJを続けているのは、
やはり何か心残りがあるようなのです。
夜と朝の間の静寂、
そんな時に彼のラジオを聞いてみたい気がします。


本作にはまた、被災地に集うボランティアたちの話も描かれています。
ボランティアという言葉の裏にふとにじむ「偽善」的なもの。
それは被災者のためではなく、自己満足のためなのではないか・・・。
そんなことを言ったらボランティアがいなくなってしまう!! 
つまりはそのように自問することができているのなら大丈夫、
そんな気もします。
答えのある問いではありません。
でも常に問い続けて行くべきことなのかもしれません。

「想像ラジオ」いとうせいこう 河出文庫
満足度★★★★☆