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タイヤとコーナリング<3>タイヤの構造(下)

(95年型GPZは前後ラジアルだが、当時すでに180サイズのリヤが主流だったなかで170サイズを履くなど、ツアラーとしてのバランスを考えたものだった。それにしてもホイールの幅はバイアスに比べて広い(5インチある)。)

では、続いてラジアルタイヤの構造と特性に行きましょう。
何せ、このラジアルタイヤの登場によってバイクの性能は飛躍的に高まりました。
一般の市販車にラジアルタイヤが出てくる直前、1980年代の中頃には、もうこれ以上の性能はタイヤが支えきれないといわれていたものです。
四輪車ではかなり前から一般化していたラジアルタイヤ、バイクで遅れたのには理由がありました。

前回の記事で、バイアスとラジアルの違いは、タイヤの補強材、カーカスの貼り付け角度の違いだといいました。
バイアスはミカンのネットのように斜めにタイヤを包んでいるのに対して、ラジアルは放射状でしたね。



たったそれだけのことで、タイヤの性格がそんなに変わるのでしょうか?
それが、変わるんです。
下の図をご覧下さい。ラジアルタイヤの構造の概念図です。



ラジアルタイヤでは、タイヤ全体に巻かれるカーカスがラジアル方向、つまり放射状になるように貼られます。
そしてトレッド部には、「ベルト」と呼ばれるプライが巻かれることになります。

一般的にバイアスタイヤはカーカスが2~7プライ。設定荷重が大きくなるほどプライ数(カーカスの枚数)を増やして剛性を上げねばなりません。すると、タイヤはサイドウォールも含めて全体が重く、硬くなります。

対しラジアルタイヤは放射状のカーカスは1枚から2枚。その代わりに周方向にがっちりした「ベルト」を貼り付け、これでトレッド部の剛性を稼いでいます。

つまり、ラジアルタイヤの特徴は、タイヤの場所ごとに硬さを自在に設定できることにあるのです。
ラジアルタイヤの特徴は、路面に接するトレッド部はバイアスよりもかなり剛性を持たせ、サイドウォールは同じ荷重設定のバイアスよりもかなりしなやかに作れることです。

トレッド部が硬いということは、変形が少ないということ(変形はサイドウォール部が受け持ってくれるのです)。変形が少ないということは、発熱量が少なく、形状も安定しているので、トレッドに使うゴムは、バイアスよりも柔らかめにすることが出来ます。つまり、よりグリップのいいゴムを使用できます。
また、トレッド部の変形が少ないので、転がり抵抗が減り、燃費もよくなります。
高剛性にするときもタイヤ全体を厚くしなくてもいいので、軽量化にもつながります。軽く出来るのです。ばね下の軽さはサスペンションの負担も減らしますし、ハンドリングも軽くなり、ブレーキの効きも若干向上します。

つまり、いいことだらけなのですね。

ではなぜ、車のラジアルタイヤは70年代に大いに進行したのに、バイクの場合は80年代の後半まで待たねばならなかったのか。
それは、製造が難しいからが1つ。
もう1つは、ラジアルの特性を活かすには、タイヤの形も、ホイールの幅も、今までのバイクから大きく設計変更しなければならなかったからです。

なぜ、製造が難しいのか、これもとても面白い話なのですが、今日は飛ばします。
バイクのタイヤは直進時は立っていますが、コーナーでは傾いています。接地面がラウンドしているわけで、この形状のラジアルタイヤの製造はとにかく難しいのです。技術的にかなり進歩した現在でもバイアスに比べ製造コストがかかるため、二輪用ラジアルタイヤはバイアスに比べて値段が高い。これはこの辺にしておいて…。

もう1つの理由、ラジアルタイヤの特性上、タイヤの形もホイールも変えなければならなかったという話です。

  

ラジアルタイヤの特徴、それはがっちりしたトレッド部としなやかなサイドウォール部。
しかし、もしも今までのバイアスタイヤと同じ断面形状でラジアル化すると、長いサイドウォール部が柔らかすぎて腰砕けになり、とても怖くて乗れたものではありません。しかし、サイドウォールを固めてしまっては全体が重く硬くなり、わざわざコスト高のラジアル製法にする意味が失われてしまいます。

ラジアルタイヤの特性を活かすには、柔らかいサイドウォール部を短くすることが必要でした。そのためにはタイヤの断面形状(プロファイル)を扁平にし、それに合うようにホイールの設計も変える必要がありました。
ラジアルタイヤの登場初期には、まだ車体側がそうした設計になっておらず、ラジアル本来の良さを発揮することが難しい場合もありました。
現在では、ラジアルタイヤ装着車は始めからラジアルタイヤを前提に車体が設計されており、ラジアルのメリットを十分に発揮できるようになっています。

ここでラジアルタイヤの性質について簡単にまとめておきましょう。

1 タイヤのトレッド部は剛性を高く、サイドウォール部はしなやかに出来ており、タイヤ各部が役割を分担することで、グリップ力、高荷重・高速性能など、多くの性能に優れている。

2 製造上、扁平で幅広、サイドウォールが長すぎないことが性能を発揮する上で必要。扁平率はバイアスが100から80程度なのに対して、70~50程度と、かなり扁平。

3 構造がシンプルで軽量に製作できる。軽さはハンドリング、サスペンション、加減速などに好影響を与える。

4 トレッド部のカーカス構造が硬く、釘の踏み抜きなどのパンクに対してバイアスよりも強い。

5 転がり抵抗も少ないので燃費もいい。タイヤ寿命にも有利。

6 弱点としては、製造コストがかさみ、値段が高い。トレッド部の硬さから、乗り心地はタイヤ全体で吸収するバイアスの方がいいと言われている。


ここでもう一度、函崎さんのお手紙に出てきたFZ1とV7クラシックのタイヤの形を比べてみましょう。
V7はバイアス、FZ1はラジアルを履いています。
(写真出典は前回以前と同じ。左2つはここ、右2つはここです。)
 
モトグッチV7クラシック、フロント100/90-18、  ヤマハFZ1、フロント120/70 ZR17
  
モトグッチV7クラシック、リヤ130/80-17、   ヤマハFZ1、リヤ190/50 ZR17。

バイアスタイヤは全体がドーナツ型に近く、サイドウォールが長い。
対してラジアルタイヤは扁平で、リム幅が広く、サイドウォールが短いことが分かると思います。

荷重を受けたタイヤのしなりかたも、バイアスが全体的にしなるのに対し、ラジアルはトレッド部は比較的しならず、サイドウォール部でしなりを受け持つ構造です。

これらのタイヤが写真のように傾いた状態で遠心力を受けたライダー込みの車体の荷重を受け、かつ、アクセルを開けての駆動力(トラクション)を受けたとき、どのように働くか、そして、タイヤの違いは、コーナリングにどのように影響していくか…。
次回、いよいよバイアスとラジアル、コーナリングの違いにアプローチして行きましょう。

**<<注>>***********************
本記事に使用したイラストは樹生が鉛筆書きしたものですが、作成にあたっては前記事同様に各タイヤメーカーのHP、雑誌等に載ったタイヤの広告、また、以下の2冊の本などを参考にしました。
和歌山利宏著『タイヤの科学とライディングの極意』(2003年グランプリ出版)
馬場孝司著『ドライバーのためのタイヤ工学入門』(1989年グランプリ出版)
特に和歌山氏の著作には多くを学んでいます。

ライテクインデックスⅢへ。
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