リマインドと想起の不一致(25)
教室でウトウトした状態から目を覚ますと、おしゃべりが達者な同級生がいつものように自説の披露に酔っている声が聞こえてきた。
「キリストっていうのは、ヤクザの親分と同じで、子分の失敗とか、子分がした悪さとかを全部、引き受けたという男気で、自分に酔い痴れていたんだよ。お前らの失敗を買い取ったとか言って」そう主張する彼も相変わらず自身の能弁さに酔っていた。甘美に。
「でも、現実は下っ端が肩代わりして刑務所に入るんだよ」冷静に分析する相の手もある。
「その後でも身元ぐらいは引き受けるんだろう? 何年後かには」
「救世主は、授業中に居眠りさせてくれる、あいつだよ」とある先生の名を言うと。みんながどっと笑った。
ぼくはトイレに向かいながら救世主という漠然としたものに形ちを与えようとしている。それは、何度くり返してもひじりの姿になる。ぼくは意味合いを間違えて考えているのだろう。アイドルとか偶像とか、畏敬とかそういうものの総合体でもあり、同時に断片でもあるものを集めて固めたのがその名に相応しい。
さっき、名を勝手に使われた教師が黒板に文字を書いている。不信な五十ぐらいの数の生徒が彼から出る言葉を聞いている。どこといって取り柄のなさそうな大人である。生意気な若者から見れば、ほとんどの大人がこの範疇に入る。教師も親も、友人の親も、警察官もこの部類だ。数人の先輩という存在だけが、この無言の冒涜から無視される。すると、キリストの弟子というのも高校球児のように、数年上の先輩の活躍に一喜一憂する無邪気な若者たちかもしれなかった。高尚なものでもなくて。
放課後になり、ぼくは春風に吹かれ帰ろうとしている。運動部は直ぐに止めた。能力が無限にあるひとが無数にいた。自分の良さは、その方面では突出していないことが、暴力的な真実さで理解できた。ぼくの引き出しには健気な努力という防腐剤は入っていなかった。
ひじりはある店で週に何度かバイトをはじめた。救世主など金銭を重要なことと思わないのかもしれない。ぼくの偶像はおしゃれをして、甘い食べ物に興味がある。ぼくらは途中の駅で待ち合わせをした。二人とも、一歩家を出れば連絡したりする通信の手段がない。ゆえにどちらかが待ち、どちらかが遅れてやって来る。それだからか時間はのんびりと過ぎた。
ぼくがひじりと認識している姿は、新しい制服姿として更新される。彼女は矢継ぎ早に新しくできた友人たちの話をする。今度、そのうちの一人の家に誘われているそうだ。とても広い家に住んでいるらしい。ぼくは、ぼくの家しか面積や体積を想像できない。感性が乏しいのだろう。出会うことがなければ救世主もありがたい人か、悪童なのかも感覚的に分からないものだった。
教室でウトウトした状態から目を覚ますと、おしゃべりが達者な同級生がいつものように自説の披露に酔っている声が聞こえてきた。
「キリストっていうのは、ヤクザの親分と同じで、子分の失敗とか、子分がした悪さとかを全部、引き受けたという男気で、自分に酔い痴れていたんだよ。お前らの失敗を買い取ったとか言って」そう主張する彼も相変わらず自身の能弁さに酔っていた。甘美に。
「でも、現実は下っ端が肩代わりして刑務所に入るんだよ」冷静に分析する相の手もある。
「その後でも身元ぐらいは引き受けるんだろう? 何年後かには」
「救世主は、授業中に居眠りさせてくれる、あいつだよ」とある先生の名を言うと。みんながどっと笑った。
ぼくはトイレに向かいながら救世主という漠然としたものに形ちを与えようとしている。それは、何度くり返してもひじりの姿になる。ぼくは意味合いを間違えて考えているのだろう。アイドルとか偶像とか、畏敬とかそういうものの総合体でもあり、同時に断片でもあるものを集めて固めたのがその名に相応しい。
さっき、名を勝手に使われた教師が黒板に文字を書いている。不信な五十ぐらいの数の生徒が彼から出る言葉を聞いている。どこといって取り柄のなさそうな大人である。生意気な若者から見れば、ほとんどの大人がこの範疇に入る。教師も親も、友人の親も、警察官もこの部類だ。数人の先輩という存在だけが、この無言の冒涜から無視される。すると、キリストの弟子というのも高校球児のように、数年上の先輩の活躍に一喜一憂する無邪気な若者たちかもしれなかった。高尚なものでもなくて。
放課後になり、ぼくは春風に吹かれ帰ろうとしている。運動部は直ぐに止めた。能力が無限にあるひとが無数にいた。自分の良さは、その方面では突出していないことが、暴力的な真実さで理解できた。ぼくの引き出しには健気な努力という防腐剤は入っていなかった。
ひじりはある店で週に何度かバイトをはじめた。救世主など金銭を重要なことと思わないのかもしれない。ぼくの偶像はおしゃれをして、甘い食べ物に興味がある。ぼくらは途中の駅で待ち合わせをした。二人とも、一歩家を出れば連絡したりする通信の手段がない。ゆえにどちらかが待ち、どちらかが遅れてやって来る。それだからか時間はのんびりと過ぎた。
ぼくがひじりと認識している姿は、新しい制服姿として更新される。彼女は矢継ぎ早に新しくできた友人たちの話をする。今度、そのうちの一人の家に誘われているそうだ。とても広い家に住んでいるらしい。ぼくは、ぼくの家しか面積や体積を想像できない。感性が乏しいのだろう。出会うことがなければ救世主もありがたい人か、悪童なのかも感覚的に分からないものだった。