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高槻成紀のホームページ

「晴行雨筆」の日々から生まれるもの

参加者の感想

2018-12-19 00:21:51 | 報告
今村 航      
いままでやったことがないようなことをいっぱいできてうれしかったです。フクロウのことやネズミの骨のことなどが分かってすごく勉強になりました。「ダーウィンがきた」をみたのでさらによく分かりました。ネズミの骨を見つけ出すということはやったことがなかったので、きちょうな体験ができたと思いました。できたら、ネズミの骨の部分の名前を覚えたいです。このイベントにきてよかったです。

梶尾 祥太  
 ふだんはあまり体験しないフクロウの巣からネズミの骨を探してみるとねずみだけではなくさまざまな物があったのでおどろきました。
ネズミにも種るいがあるのは知っていたのですが、どうやって種類を見わけるのか分からなかったので知る事が出来たので良かったです。

金子 黎美  
 今日の分析作業は、いい経験になりました!!
 一番最初に、土を取って紙皿に入れた時、モグラの手の骨が入っていて自分でも目を丸くしました。そして、なぜかほとんどの骨が大腿骨で、少し上腕骨や下顎骨がまざっていました。鳥の口ばしや、下顎骨から歯を取ったりと、夏休みに行ったイベントと同じくらいにすごく面白かったです。
 先生が1つ1つ丁ねいに教えてくれたり、分からないものがあると、くわしく説明して下さったので、いろんなことがたくさん覚えられました。
 次のきかくがあったら、また応ぼします!!

坂田 雄悟      
 フクロウのすからネズミのほねを取り出すことができてとてもいいけいけんになりました。


清水 小百合      
 たくさんやってもきりがないのでおどろきました。時間を忘れるくらいおもしろいです。骨が出てきてほしいと思った。けん甲こつを3,4回目でようやく1つでてきました。あごの部分が4~5つありました。

関野 椿子
 はじめてさんかさせてもらったけど、高つき先生が、形や大きさをおしえてくださったので、たのしくほねをさがせることができました!!ありがとうございました。とくに、わたしがいんしょうにのこっているほねは、うたうおじさんです。ほんものを見たらほんとうにうたっているおじさんみたいでした♫たのしかったです。

千葉 楓音  
 思ったよりネズミじゃない動物の骨も入っていてびっくりした。鳥やリスの骨がかなりでてきた。ネズミの頭がまるまる1個でてきたときは、ちょっとこわくて、どうしたらそんな風になるんだろうとふしぎに思えた。また、虫の足、虫のさなぎ、ハチの巣まで出てきた。この巣はきょう存しているのかなとも考えた。今回、参加してみてよかったと思えた。

塚原 朋士    
 今日、骨を探す前、小さくて土とまざってわからなかったりして、30分くらいであきるだろうと思っていたけれど、やってみると楽しく2時間があっという間に感じました。
楽しく「頭骨」「肩甲骨」など、いろいろな骨があることを知れました。「すごい」「これを見せてくれませんか」など、ほかの人とも話せたりできて良かったです。
地方、場所、気候などによって、とれるネズミなど、とれるもの、巣立ちの時季はちがうのかとぎもんになりました。今日はきちょうな体験をありがとうございました。またしたいです。

平石 千畝      
 骨集めとネズミの首が出てきたのが楽しかったです。ネズミの首をみていると少しかわいそうに思いました。フクロウは食いしんぼうだと思いました。

美濃部 篤哉       
 今回は骨の形と名前が印象に残りました。P骨は骨に穴が空いているのでP骨になっていたり、尺骨が歌っている人に見えるので歌う人になっていることです。このことをおぼえておき、他の動物にその骨があるかどうか見てみようと思いました。また参加したいです。

目野 朔太郎   
 ぼくは新聞でこのことを知りました。ぼくは自分の中で、「あまり骨はでないかな~」と思ったけど、たくさんできてびっくりしました。またもぐらの手、鳥のくちばしもでてきてとってもたのしかったです。

今村 彩子      
 フクロウのエサのとり方だけでなく、ネズミの特徴や違いも教えていただき、大変興味深いものでした。また、ネズミ以外の色々な動物の骨が出てきたので、多様な世界だなあと感じました。とても小さい骨なのに、先生はすぐに何か判るので、さすが専門家!!と思いました。

今村 剛      
 これまで知らなかったフクロウとネズミの生態を大いに勉強させていただき、またフクロウになった気分で実感することができました。ネズミの骨の小ささと精密さに驚きました。貴重な機会をいただきありがとうございました。

江尻 なな美      
 フクロウと猫のことが良く分かったので、良かったです。
ネズミの骨を間近で見れたので良かったです。私は獣医師をめざしているので、良い参考になりました。
 
江尻 真太郎       
 フクロウの巣からネズミの骨を探し、さらに骨の種類ごとに仕分ける作業はなかなか体験できないことであり、とても楽しかったです。子供にとっても貴重な体験となり、動物の生態や体の仕組みを学べ、良かったと思います。ありがとうございました。

木地本 重徳       
 野鳥観察はよく出かけますが、ペレットの分析ははじめてで、実際のものを目前で見て良い経験でした。こういう作業を続けられるのは大変ですね。頭が下がります。フクロウの姿を見ることは何回かしましたが・・・。

薦田 洋子    
 フクロウに興味があり申し込みました。案内を読んで自分にもできるだろうか?と思いましたが、意外にも多くの骨を見つけることができ、うれしかったです。始めると作業に夢中になり、眼鏡(老眼鏡)を忘れて「しまった!」と思いましたが、ルーペを持っていて役に立ちました。
 ネズミの種類もわかったり(2種類ですが)骨のつながり方も知ることができ、良かったと思います。先週の「ダーウィンが来た!」を楽しく観ましたので、今日とのつながりがあり、とてもよい機会になりました。
ありがとうございました。

坂田 憲一      
 普段それほど気にしていない巣の中にも色々な情報を得ることができるのだと知った。また、機会があればこのような体験に参加したいと思います。

坂田 美幸      
 見ていてかわいいと思っていたフクロウの生態を知るとても良い学びの場でした。ネズミの体の構造を知る機会はこれからもない?かもしれないので骨を見ておどろきでした。子供も集中して1時間以上作業しました。先生をはじめ、皆様に親切にしていただき、ありがとうございました。子供はとても楽しかったそうです。

新藤 はるな      
 どういう場所に何ネズミがいるのか解説を聞くことで楽しく骨を探せました。フクロウの巣箱をしかける活動にも関心がわきました。実物をさわる貴重な体験をさせて頂き、楽しかったです。また、こういう講座がありましたら、参加したいです。ありがとうございました。

関野 貴之       
 高槻先生が様々な背景や根拠を示してくださったので、大変興味深く参加させていただきました。先生がおっしゃったように、実物に触れることが子どもたちには大事だと思います。短い時間ではありませんでしたが、娘も集中して、かつ細部まで観察をしておりました。先生には多様な質問にも快く答えていただき感謝しております。ありがとうございました。また次回も参加したいと思います。

千葉 千絵    
 今日は初めてワークショップに参加させて頂きました。青森のりんご畑で、フクロウの住む木を切ったら、ねずみが増えてしまったが、フクロウが再び住めるようにしたら、またねずみが減り、農家と動物が共存できるという事に嬉しい気持ちになりました。ヒトとフクロウとねずみが良いバランスで生きていける世の中になったら良いなと思います。骨の分類もとても勉強になりました。色々なものが出てきておどろきました。なかなかこういう機会はないので、興味深かったです。ありがとうございました。

塚原 朋子   
 フクロウの食性をよく見ることができて、とても面白く興味深かったです。もっと長時間でじっくり分類できても良かったと思います。リンゴ畑のフクロウとの共生については、とても素晴らしいと思います。
<博物館:ありがとうございます。子供さんの参加があったので2時間以上は難しいと判断しました。>

檜山 幸子  
 ネズミのこと大変参考になりました。いつもながら骨の分別になると判断迷うことが多く、まわりの方と「これ何~」とききながら楽しくできましたが、習得までは仲々~。ありがとうございました。

平石 康久    
 色々な骨が出てきて大変楽しかったです。森ネズミとハタネズミの違い、森を狩場とするフクロウと牧場を狩場とするフクロウの戦略の違いも興味深かったです。

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小平市民奨励学級

2018-12-06 19:46:33 | 報告
小平市民奨励学級というものがあり、そこで玉川上水の動植物についての連続講座をすることになったそうです。私にはタヌキの話をして欲しいという依頼がありました。

 そこで津田塾大学のタヌキを調べているのでその話をしました。正確にいうとタヌキの話ではなく、タヌキがいることで関連する他の生き物とつながり(リンク)を持つことの話です。
 まず玉川上水は細長い緑だということ、そのことは周辺の孤立緑地と比較すると、センサーカメラによるタヌキの撮影率が2倍以上高かったことでタヌキにとって良い生息地であることが確認できたということから始めました。


玉川上水と孤立緑地でのタヌキの撮影率


以下要点を書きます。
 玉川上水は細いが、まとまった緑地が接していると幅が広くなるので、そういうところにはタヌキがいる確率が高いはずだと思って、代表例である津田塾大学にセンサーカメラをおいたらすぐに撮影されました。そしてタメフン場が見つかったので、食べ物を定量的に調べました。それでわかったのは、春と夏は昆虫、秋と冬は果実、冬は相対的に哺乳類と鳥類が増えるというものでした。こちら


津田塾大のタヌキの糞組成


ここで2つの気づきがありました。
 ひとつは、タメフン場にたくさんの芽生えがあり、タヌキが種子散布をしていることが確認されたことです。このことから、動物は自分が果実を利用しているつもりだが、実は植物が動物を利用して種子を散布させているということがわかります。
 もうひとつは津田塾大学のタヌキが食べるギンナン、カキ、ムクノキ、エノキはいずれも高木であるが、これは関東地方の里山に住むタヌキでヒサカキ、キイチゴ、ヤマグワなど明るい場所に生える低木が多いのと違うということです。


津田塾大学のタヌキがよく食べる果実の種子(上)と里山のタヌキがよく食べる果実の種子(下)


それは津田塾大学のキャンパスの植生と関係があるはずなので調べたら、90年前に防風林として植えたシラカシが育って鬱蒼とした森林になっていることを反映したものだということがわかりました。

 タヌキの糞分析ということから少し横道に逸れました。それは仙台の海岸が2011年の3.11大震災で津波に襲われて壊滅的被害を受けたのに2年度にタヌキが「戻って」来たことです。その糞を分析したら、海岸に生えるドクウツギとテリハノイバラがたくさん食べられていました。


3.11大津波のイメージ


仙台の海岸に「戻って」きたタヌキの糞から種子がよく出てきた海岸低木


 これらは地上部が破壊されても地下部が残っていたので、2年後には開花結実したのです。この他ヨウシュヤマゴボウなどの外来種、コメやムギなどの農作物なども食べていました。このような融通性のおかげでタヌキは激変する環境でも生き延びているのだと思います。

 我が家には各地のタヌキの糞が送られてきます。家族は呆れ顔ですが、実は天皇陛下が皇居のタヌキの糞分析をして立派な論文を書かれました(こちら)。それ以来、私は「こんな地味で誰も興味を持たないような作業をしている人がもう一人ある、それは天皇陛下だ」と胸を張るようになったということを紹介しました。



そして陛下と美智子皇后様の生き物に関する短歌を紹介しました。

 玉川上水のタヌキにもどります。タヌキがいれば糞を利用する糞虫がいるはずだと思って調べたら、コブマルエンマコガネという糞虫がたくさんいることがわかりました。これは私の新発見です。このようにタヌキがいることは様々な生き物と関わりを持っていることがわかりました。

 この勉強会には子育て中のお母さんも来ると聞いていたので、こども観察会のことも紹介しました。こども向けの観察会のうち、糞虫の観察会をしたときの様ことです。まずトラップをかけたらうまく糞虫が採れたこと、それを観察して、スケッチしてもらったら素晴らしい作品ができたことを紹介しました。


子供達による糞虫のスケッチ


 この時に、発泡スチロールでタヌキの人形を作ったり、糞虫の粘土作品を作って解説したことなどを紹介しました。



最後に犬の糞と糞虫をプレゼントしたら、あとで「森には動物がいて糞をするから臭いはずだけど、糞虫が分解してくれるから臭くありません。だから糞虫は大切です」という意味の手紙が来たことを紹介しました。

 これに続けて、アイヌのミソサザイの民話を紹介しました。その中に「相手のことを知らないで見下してはいけない」、「神様はこの世に無駄なものは1つもお創りにならなかった」という言葉があることを紹介しました。それから、R. カーソンの「沈黙の春」の中に書かれている「地球は人間だけのためにあるのではない」という言葉を思い起こしてもらいました。これと同じ言葉はアイヌの民話の中にもあります。

 そのあとで道路の話をしました。市街地を流れる玉川上水は連続していることに大きな意味を持つが、現実には道路が横切っており、その程度によっては孤立緑地と同じようにタヌキが住めなくなる可能性が十分あります。最近の調査で、府中街道をタヌキが横切っている証拠をつかみました。交通事故の犠牲者もいるはずです。タヌキにとって最後の砦のような玉川上水が厳しい環境になってるようです。私は小平にタヌキがいること、そのタヌキが交通事故にあっていることを市民に知ってもらうための動きをしたいと思っています。


タヌキが道路を横断していることをアピールするためのイラスト

 私たちが都市に住むということは自然に迷惑をかけるということです。それは避けられないことではありますが、それを前提としたとしても、さらなる大きな道路が本当に必要であるか、道路が持つ、人にとってのプラス面と、道路をつけることで起きる自然破壊というマイナス面との折り合いをどうつけるかということは十分に考える必要があると思います。
 
 少し早く終わったので、司会のリーさんがご自身のエピソードを紹介しました。私がおこなっている観察会で訪花昆虫の記録をした後で、朝ごはんの時にパンにハチミツをつけようとして、今までなかったことだけど、その蜜を吸うミツバチの姿や動きが見えるようだったそうです。彼女は知識として知ることも大事だけども、実体験することで生き物との距離が近づくということを伝えたかったのだと思いました。
 それから、参加者から質問を促しました。具体的なタヌキの性質などに関するものや、どこどこでタヌキを見たという話が多くありました。おそらく「タヌキの話をする」と聞いた人は、私をタヌキそのものをよく知っている人と予測したのだと思います。しかし私は -- もちろんタヌキのことも一通りは知っていますが -- 興味の中心はそこにはなく、自然界におけるタヌキの存在の持つ意味にあるのですが、そのことはわかりにくいのだろうと思いました。
 タヌキのことではなく、人間と動物がどう共存するかということについて意見がないかと私が聞いたとき、ある男性が「自分であればもっとラディカルに主張するが、先生(高槻)は調べてわかった客観的事実を伝え、穏やかに話したのが印象に残った」という発言がありました。これに対して私が答えたのは、
「私は70年代の学生運動が盛んだった頃に大学に入りました。政治活動がありましたが、イデオロギーだけに基づく運動は真の力にならないという思いがあります。そうではなく事実に基づいて客観的に事実を伝える、動植物については素晴らしさを伝える、そうすれば、それを破壊するのは良くないと言わなくても、伝わるのだという確認のようなものがあります」ということでした。私が言いたかったのは、人が都市に住んで利便性を追求するのは当然のことかもしれない、しかしこの土地は人間だけのものではないという気持ちを少しは持ったほうがいいということです。

 玉川上水を横切る道路建設の反対運動をしている水口和恵さんは「この話をもっと多くの人に聞いてもらいたいと思いました」と言ってくれました。そして、後でメールで「人間の利便性だけを優先する人たちに聞いてほしいです」と伝えてくれました

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柵をした後の乙女高原の訪花昆虫 - 2018年8月 -

2018-08-20 19:39:38 | 報告
柵をした後の乙女高原の訪花昆虫 - 2018年8月 -

高槻成紀・植原 彰


乙女高原ではシカの影響により虫媒花が減少し、ススキが優占していた。2015年に草原全体を囲う柵(以下「大柵」とする)が作られ、虫媒花が回復した。植物が変化すれば、それを利用する動物も変化するが、虫媒花の場合は訪花昆虫が直接的な影響を受ける。
 高槻は柵設置前に学生を指導して訪花昆虫に関する2つの調査をおこなった。
1)2013年に乙女高原の草原部分と深林部分にルートを決め、そこを歩いて左右2m幅内で観察された虫媒花と訪花昆虫を記録したところ、訪花頻度は1000mで66回であった(加古, 2015)。
2)2010年5月に実験的に設置した小型柵(以下「小柵」)の内外で2014年に訪花回数の定量的な調査をおこなった。このうち8月のデータでは柵内ではおよそ4m2の訪花数は9.9であったのに対して柵外では2.6に過ぎなかった(大竹、2015)。
 これらの結果が大柵を作って3年後の2018年にどの程度回復したかを調べることにした。以下の2点が予測された。
1) 森林では変化はないが、草原では訪花頻度が増加(回復)するであろう。
2) 小柵での訪花頻度は違いが小さいが、柵外では増加(回復)し、両者の違いは接近するであろう。
また、2018年のデータから、花のタイプと訪花昆虫の組み合わせを整理した。

方法
 大柵においては遊歩道に沿ってゆっくり歩き、左右1m程度の範囲で虫媒花にとまっている訪花昆虫を発見したら時刻とともに花の名前と昆虫(目レベル)を記録した。このうち草原部分の730mを解析した。
これらの虫媒花を花の形態から皿状、筒状、「その他」に分けた。皿状はシシウドやオミナエシのように花が皿状で浅く、ハエ・アブのように棍棒上の吻をもつ昆虫でも蜜を得やすいもの、筒状はアザミ類のように細長い筒状花であるため、チョウやハチなど特殊な吻をもつ昆虫が吸蜜しやすいものである。「その他」としたのは、アザミ類などに比較すれば筒が太いツリガネニンジン、あるいはヤマハギのような蝶形花で、皿形花のように蜜が得やすくはないが、筒状花ほど得にくくはないと考えられるものである。

結果
1) 大柵
 2013年8月22日の乙女高原の草原部分で記録された訪花回数は66回(1000mあたり)であったが、今回は328.8回であり、5.0倍も増加していた(表1)。内訳をみると、特に大きく増加したのはシシウドとオミナエシで、2013年には全く記録されなかった。またノハラアザミとシラヤマギクの増加も大きかった。増加したものの中ではタムラソウ、マルバダケブキ、ヤマハギは2倍程度以内で柵設置前にもある程度あったものである。

表1 大柵設置前(2013年)と設置3年後(2018年)に乙女高原の草原部で記録された訪花回数(1000mあたり)



図1 大柵設置前(2013年)と設置3年後(2018年)に乙女高原の草原部で記録された訪花回数(1000mあたり)を花のタイプごとに分けて示した図。左の1群は皿状花、中の1軍は筒状花、右の1軍は「やや筒状」。詳細は本文参照


 これらの虫媒花を花の形態から皿状、筒状、「その他」に分けたのが図2である。これを見るといずれのタイプも2018年に増加しているものの、増加の程度は皿状花がもっとも著しいことがわかる。具体的にはシシウドとオミナエシの増加によるところが大きい。筒状花は2013年にもある程度あり、ノハラアザミ、タムラソウ、ヨツバヒヨドリなどがそれに該当する。ノハラアザミは植物体にトゲがあるためシカが食べにくく、ヨツバヒヨドリはシカが食べないことが知られている。また「その他」のヤマハギも2013年にある程度訪花回数が多かった。ヤマハギは低木であり、刈り取りやシカの採食を受けてもある程度回復力があるため、柵設置前にも生育していた。


図2 大柵の2013年と2018年の訪花回数を虫媒花のタイプ別にまとめたもの


2) 小柵
 小柵では設置4年後の2013年に柵内での訪花回数が9.9回(プロットあたり)、柵外では2.6回であった。当時の「柵外」は現在は「柵内」となった。
これに対して、2018年には柵内で28.2回(2.8倍)、「柵外」で10.2回(3.9倍)であり、いずれも増加したが、増加の程度は柵外の方が大きかった。

 2018年の柵内外の違いを種ごとに見ると、柵外で最多であったのがヤマハギで、これが後述する「その他」の値を引き上げていた(図3)。柵外(大柵の内側)では調査区にヤマハギは見当たらなかったが、その周辺にはヤマハギはあった。オミナエシ、ツリガネニンジンも柵外で多かったが、オミナエシは柵外にも柵内の半分程度はあった。ツリガネニンジンは柵内外の違いが大きかった。これらに比べれば、ヨツバヒヨドリ、ノハラアアミは柵内が多いとはいえ、柵外にもかなりあった。ヨツバヒヨドリはシカが食べず、ノハラアザミは棘があってシカは好まないからもともと柵外に残っていたことは納得できる。また柵外のほうが多いものとしてはイタドリ、ホタルサイコ、ハンゴンソウなどがあった。これは調査区数が少なかったため、偶然の要素が大きいと推察される。
 

図3 2018年の小柵内外の花あたりの訪花回数


次に花のタイプ別に年次比較すると、柵内では、すべてのタイプで2018年に増加したが、皿状と筒状は2013年にもある程度あり、大きく増加したのは「その他」、具体的にはヤマハギであった(図4a)。


図4a 小柵内での花タイプ別訪花回数の年次比較


 柵外では皿状が大きく増加した。筒状は2倍以上増加したとは言え、2013年も2回程度あった。「その他」では増加が小さかった。これは偶然の要素が大きいと思われ、調査区にではヤマハギがなかったが、調査区の外にはヤマハギはあった。


図4b 小柵外での花タイプ別訪花回数の年次比較


3) 花と昆虫の組み合わせ
 2018年のデータをもとに、虫媒花と訪花昆虫の組み合わせをまとめてみた。
① 大柵
大柵では730mで220の訪花が記録された。それを花のタイプ別に分けると、皿状ではハチ・アブが非常に多く、筒状ではハチが非常に多かった。「その他」への訪花数は少なく、ハチが最多であった(図5a)。

<
図5a 大柵草原部における花のタイプ別訪花回数(730mあたり)


同じデータを昆虫別にまとめると、チョウ・ガは低頻度で、訪問しているのは筒状の花が多く、ハチは筒状、ハエ・アブは皿状の花を高頻度に訪問していた(図5b)。


図5b 大柵草原部における花のタイプ別訪花回数(730mあたり)


 特殊化した長い吻をもって蜜を吸い上げるチョウ・ガ、ハチが筒状の花を訪問し、短い吻を持って蜜を舐めるハエ・アブが皿状の花を訪問したのは合理的なことである。

② 小柵
同じまとめを小柵で行うと、皿状の花にハエ・アブが多く、筒状にハチが多いという点は大柵と同様であった(図6a)。ただ「その他」(ヤマハギの貢献度が大きい)が非常に多い点が違い、訪花昆虫としてはハチが多かった。これも合理的なことである。


図6a 小柵とその周辺における花のタイプ別訪花回数(10分あたり)


昆虫別にまとめると、大柵同様、ハエ・アブが皿状で多かったが、ハチは大柵では筒状(ノハラアザミが最多)であったが、小柵では「その他」が最多であった(図6b)。これはヤマハギがあってそこにマルハナバチが非常に多かったためである。チョウ・ガは少なく、その中では筒型が多いという大柵と同じパターンであった。


図6b 小柵とその周辺における花のタイプ別訪花回数(10分あたり)


 まとめ
 乙女高原を柵で囲って3年が経過した。訪問者は口々に「花が増えてよかった」という。そのことを訪花昆虫を指標にして確認しようとしたわけだが、2013年当時と比べて5倍ほど増えていた。特に大幅に増えたのはオミナエシやシシウドのような皿状の花で特にハエ・アブが多かった。2010年に作られた小柵の2013年の調査では、柵外より柵内に訪花昆虫が多かったが、それよりもさらに3倍ほど増え、柵外では4倍になった。増加の程度がさほどでもなかったものに、ヨツバヨヒドリ、マルバダケブキ、ノハラアザミ、ヤマハギなどがあった。ヨルバヒヨドリとマルバダケブキはシカが食べないし、ノハラアザミも棘のためシカが食べにくい。またヤマハギは低木であるため、シカの採食を受けても枝を再生するので、シカの影響下でもある程度開花していた。
 虫媒花の類型のうち、ツリガネニンジンとヤマハギは「その他」としたが、内容としては両者は違う。ここでは皿状とキク科の筒状花に該当しないもので、季節によってはこのタイプの多くなるので、虫媒花の類型は授粉の実態を踏まえてさらに工夫をする必要がある。

 このように、シカの採食で減少していた虫媒花が柵で囲うことで回復しつつあるが、この回復が今後も続くか、回復しながらも花の種類やタイプの増加の程度に違いが見られるか、など関心が持たれる。さらに継続調査をしたい。

謝辞:調査では井上敬子様にご協力いただきました。


ヨツバヒヨドリとアザギマダラ


マツムシソウとアブ


マルバダケブキとオオマルハナバチ


ノハラアザミとトラマルハナバチ


ツリガネニンジンとトラマルハナバチ


シシウドとハナカミキリの1種

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アファンのフクロウの食べ物

2018-06-01 02:56:51 | 報告
アファンの森にはフクロウがすんでいて、架けた巣箱に営巣し雛を育てます。


巣箱にネズミを運んできた親フクロウ(2012年撮影)


 一つの巣で育つ雛の数は大抵2羽ですが、今年は4羽も巣立ちました。


今年最初に巣立ったフクロウの雛(2018.5/16, アファン の森財団提供)


 私たちはこの巣に残されたフクロウが食べて吐き出したものを調べています。その分析試料を確保するため、6月14日にアファンの福地さんが巣箱まで登って回収してくださいました。アルミ製のハシゴで巣箱まで登って巣の底の巣材を取り出してくれました。これを持ち帰って少しずつ小骨を取り出します。




巣材を取り出すアファンの森の福地さん


 フクロウはネズミを食べることに特化した猛禽類で、巣に残されたものもほとんどはネズミなのですが、ときどき鳥の羽や骨、ヒミズ、ヤマネなども出てきます。
 おもな食べ物であるネズミには、森にすむアカネズミ、ヒメネズミのタイプと草原や牧場などにすむハタネズミのタイプがあります。この2つのネズミは歯の形がまったく違うので、下顎骨が出てくれば識別ができます。




 これまでの調べで、アファンの森のフクロウが利用するネズミの数のうち、アカネズミ系は比較的安定していますが、ハタネズミは年によって大きい変動があり、アカネズミ系を大きく上回る年があるかと思えば、それより少ないこともあることがわかっています。ハタネズミのようなネズミは年により数の変動があることが知られており、同じ仲間のレミングが爆発的に増えることがあります。「ハーメルンの笛吹き」という童話で、ネズミが笛を吹く男に導かれて川になだれ込むという描写がありますが、この「ネズミ」はハタネズミ系のものだと考えられています。
 さて、持ち帰った巣材はもともとはチップ材ですが、その形で残っているものは少なく、分解して粉のようになっています。そこから適量を取り出してバットに広げ、少しずつ点検しながら、丁寧にピンセットで取り出します。


バットに取り出した巣材


 取り出されるネズミの骨にはさまざまなものがあります。わりあい目につくものとしてPの次のような形をしたものがありますが、これは寛骨、つまり腰の骨です。これにもいくつかタイプがあるので、ネズミの種類によって違うものと思われますが、私には区別はつきません。それから大腿骨もわかります。これは付け根に「骨頭」と呼ばれる球状のコブのようなものが付いていて特徴的なので区別できます。人間でも大腿(太もも)は360度どの角度にも曲げることができますが、それはこの構造があるからです。大腿骨の下には膝の骨である「脛骨」があります。多くの動物では脛骨と腓骨が並行に走っていますが、ネズミの場合、脛骨と腓骨は上下の部分で癒合し、ちょうどバイオリンの弓と弦の関係になっています。


検出されたネズミの骨


 前脚の方では上腕骨が特徴的な形をしており、中央の少し上に人の鼻のような突起があります。上腕骨は上で肩甲骨につきますが、肩甲骨はあまり出てきません。薄いので、おそらく消化されてしまうのだと思います。上腕骨の下には尺骨と腓骨がありますが、腓骨細長いだけで特徴がありません。消化されてしまうのか、小さすぎて見つからないだけなのかわかりません。尺骨は上腕骨との関節部が半円形にくびれているのでわかります。
 こういう四肢骨のほか、頭部が割れたものも出てきます。


ハタネズミの頭骨


 この分析で一番重要なのは下顎骨です。これはアカネズミ系とハタネズミではっきりと違います。



 最大の違いは歯で、アカネズミ系の臼歯は普通の哺乳類によくある歯根がありますが、ハタネズミの臼歯は変わっていて、縦筋がいくつもある洗濯板のような特異なものです。



 下顎骨全体の形も違い、写真ではわかりにくいですが、ハタネズミの方が厚みがあります。

 この違いはネズミの食性と関係しており、アカネズミは主に果実など栄養価の高い植物質を食べますが、ハタネズミは繊維質の葉や地下部なども好んで食べます。そういう食べ物は歯を摩滅させますから、ハタネズミの板状の歯は伸び続けます。これに関連してハタネズミはよく発達した盲腸を持っており、ここで繊維質の食べ物を発酵させて利用します。

 これらのどれにも該当しないひょろ長い骨があり、鳥の脚の骨だと思われます。クチバシも出てきます。

 さて、アカネズミとハタネズミの下顎骨の数をグラフにすると下図ようになりました。これを見ると、アカネズミは比較的安定しているのに対して、ハタネズミはそれよりやや少ないことが多いのですが、2016年は飛び抜けて多くなっています。同じようなことは2002年にも記録されました。


アファンの森のフクロウの巣に残されたアカネズミとハタネズミの下顎骨の数の推移


 詳細はわかりませんが、ハタネズミが何らかの理由で急に多くなることがあるようです。アファンの森にはアカネズミ系のネズミが多いのですが、周りに畑や牧場があり、ハタネズミはそういう場所にいるので、フクロウは、ハタネズミが増えた年には少し遠出をしてハタネズミを捕獲するものと思われます。

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都市における鳥類による種子散布の一断面

2018-04-01 08:35:43 | 報告
都市における鳥類による種子散布の一断面
 
* 文献は こちら
 
■はじめに
 森林の動態はきわめて複雑であり,その解明は容易ではない(例えば中静 1994).樹冠を形成する樹木は果実を生産して更新を図る.風散布をする植物もあれば,動物による散布をする植物もある.堅果類は動物によって貯食され,多肉果は動物に食べられることで散布される.複数の植物種がそれぞれの果実を生産し,複数種の動物によって移動されるため,その動きは複雑になる.多肉果の場合,しばしば鳥類が重要な種子散布者であり,ある多肉果樹木が結実すると,その果実が落下すると同時に,飛来した鳥類が採餌のために滞在して消化した種子を排泄したり,口から吐き出したりする.その種子には当該樹の種子だけでなく,その樹木に飛来する前に採餌した樹木の果実も含まれる.多肉果の散布では鳥類が有力な散布者ではあるが(小南 1993:Kominami et al. 2003),テン(ホンドテン)やタヌキなども散布するから(高槻 2017, 2018),種子の動きはさらに複雑である.このように森林の多肉果の散布動態は極めて複雑であると推察される.
 現象そのものが複雑である上に,実際に森林で調査をする上でも樹冠が隣接したり,重なり合っていれば,どの樹冠から落下したかの区別が困難であるし,低木・草本が生育し,リターなどもあるため,種子の発見・回収にも困難が伴う.
 このような複雑な現象を捉えるために大規模で長期的な調査を行うことで重要な成果も得られているが(例えばNaoe et al. 2018),同時に小規模な事例の蓄積も重要であろう.この点,都市緑地は単純な系であり,孤立木を対象にできるし,しばしば樹下がコンクリート舗装面であり,種子を発見・採集しやすい.そのような例として,唐沢(1978)は1970年代に都市鳥類を調べる過程で鳥類による種子散布を詳細に調べたが,その後は調査事例が少ない(ただし故選・森本 2002など).
 以上の背景から本調査の目的は複雑な森林生態系における種子散布の理解の参考にするために,都市緑地の単純な系を利用することで,鳥類による種子散布の実態を解明することを目的とした.
 
■方法
 調査は東京都の多摩地区北部にある小平市で行なった(図1).小平市は人口約20万人で,農地,公園などの緑地が比較的多い.
 
図1. 調査地の地図.ただし調査地Cは範囲外.Google Earthをもとに作図.
 
調査地A:小平霊園のトウネズミモチの木の下(北緯35°44’ ,東経139°29’)で種子を採集した.小平霊園は65ha,1948年に開園され,面積は65haであり,園内にはケヤキ,ソメイヨシノ,トウネズミモチ,アカマツなどが植栽されている.調べたトウネズミモチの下にコンクリートの歩道がある.
 

小平霊園のトウネズミモチ(2018年1月)
 
調査地B:小平市大沼公民館のクロガネモチの下(北緯35°44’ ,139°29’)で種子を採集した.樹下はアスファルト舗装されている.

小平市大沼公民館のクロガネモチ(2018年1月)
 
調査地C:青梅街道駅近くのある駐車場の電線の下(北緯35°43’ ,139°28’)で種子を採集した.駐車場はアスファルト舗装されている.
 
 種子は調査地Aと調査地Bは2018年1月4日,調査地Cは1月7日に,幅1m,長さ5mの帯状区を調査地A, Bでは樹冠下に,調査地Cでは「止まり木」の下にとって丁寧に拾いあげた後で,箒で掃きとった.被食されないで落下した果実も多数あったが,これらは対象外とした.
 
■結果と考察
落下種子集団
 
 被食種子は母樹由来の種子が多く,調査地Aでは合計1845粒で,トウネズミモチが大半の1770粒(95.9%)を占めた.調査地Bでは合計1535粒で,クロガネモチの種子が1277(83.2%)を占めた(図2).「止まり木」の下である調査地Cの種子数は727粒と少なく,トウネズミモチが638粒(87.8%)を占めた.
 
回収された種子
 回数された種子は20種が同定され,3種は識別不能種だった(表1).数が多かったのはトウネズミモチとクロガネモチで,この2種は前述のように母樹からの落下が大半であった.
 

図2. 小平市の3カ所において鳥類に散布された種子の母樹由来とその他の数.母樹は調査地Aがトウネズミモチ,調査地Bがクロガネモチ,調査地Cは母樹なし.
 
 外部から持ち込まれた種子としては,調査地Aではイヌツゲ,ケヤキ,ナンテン,調査地Bではトウネズミモチ,タチバナモドキ,調査地Cではトウネズミモチ,エノキなどが多かった(表1).
 
表1 外部から持ち込まれた種子の数

 
果実のタイプ
 20種の果実のタイプをみると,ほとんどは「多肉果」であり,堅果はケヤキ,乾果はウルシ属(Toxicodendron)の1種にすぎなかった.ケヤキは果実をつけた枝が数枚の葉を利用して風散布するから(星野 1990),回収されたケヤキ種子は風散布したものかもしれない.鳥類がケヤキを食べるという記録は著者が検索した限り発見できなかった.なおニホンザルはケヤキの果実をよく食べる(辻・中川 2017).

ケヤキの枝先.果実は枝先全体で風で散布される

 乾果であるウルシ属の1種はヤマハゼであるかハゼノキであるか識別が困難であった(付図1.1-8).ウルシ属の仲間は種子の外面に脂質に富んだ物質があって鳥類が好むことが知られている(ヌルデRhus javanica var. chinensis:桜谷2001,ウルシ科:佐藤・酒井 2001;上田・福居 1992,ヤマウルシ:原田・上田 2005;桜谷 2001).
 そのほかの多くは多肉果であり,鳥類が食べやすい直径10mm以内の球形のものが多かった(唐沢 1978;濱尾ほか2010).ただし,カラスウリは果実が例外的に大きく,鳥類は果肉をついばむことは知られていたが,著者が検索した限り,鳥類が種子を食べたという情報は一般書(多田 2017)以外,発見できなかった.なお,哺乳類では,タヌキでは報告例がないが,テンでは九州で同属のキカラスウリとモミジカラスウリが食べられたことが報告されている(荒井ほか 2003;足立ほか 2016).本調査によって鳥類が種子を散布することが確認された.
 
 
カラスウリ果実

 ケンポナシは形態学的には果肉でなく果柄部分が肥厚したものであるが,生態学的には「多肉果」として機能している.哺乳類はケンポナシをよく採食するが(高槻 2018),鳥類による採食の記録はこれが初めてだと思われる.

ケンポナシの「果実」

 またジャノヒゲの種皮は青くつやがあって多肉果のように見える.

ジャノヒゲの種子

野生植物・栽培植物
 回収された20種を野生植物であるか栽培植物であるかで分けると,栽培種は5種に過ぎなかったが,9種は野生植物だが植栽されることが多く,植栽されない野生植物は6種であった(表1).そして種子数は野生種が調査地Aでは77.0%であり,栽培される野生種が調査地Bで75.2%,調査地Cで93.5%であり,いずれにおいても野生種の種子数は0.1から13.1%に過ぎなかった.このことは調査地が都市環境であることを反映していると考えられる(表2).
 
表2. 種子の類型と種子数

 
持ち込まれた種子
 調査地Aには11種が外部から持ち込まれた(表1).とくに多い種はなく,イヌツゲ(23.0%),ケヤキ(18.0%),ナンテン(18.0%)が上位を占めた.ケヤキは風散布の可能性が大きい.調査地Bでは13種の持ち込み種子があり,種子数はトウネズミモチ(48.4%)とタチバナモドキ(26.4%)が多かった.調査地Cでは持ち込み種子種数は10とさほど違いはなかったが,種子数の大半はトウネズミモチ(88.4%)であり強い偏りがあった.
 
まとめ
 都市緑地の単純な系を利用することで都市の多肉果をつける樹木や「止まり木」の下には,10種あまりの種子が鳥によって持ち込まれることがわかった.3カ所に共通していたのはトウネズミモチが多いということであった.東京都で行われた調査(唐沢 1978)でも同様の結果が得られている.トウネズミモチは明治時代初期に導入された中国原産の樹木で,東京圏の公園,庭,墓地,道路などに植栽されている.吉永・亀山(2001)によれば,トウネズミモチは1960年代から東京の公園などに大量に植栽され,1970年代以降,実生による繁殖によって分布を拡大しているという. 
 本調査では鳥類の調査はしていないが,断片的な観察ではヒヨドリが多かった.唐沢(1978)も東京都内での調査でヒヨドリが最も多かったとしているし,吉永・亀山(2002)もトウネズミモチに飛来して果実を採食したのはヒヨドリが最も多かったとしている.したがって,現在の東京圏のヒヨドリは冬の食物として外来樹であるトウネズミモチに大きく依存し,種子散布をしていることになる.京都府で鳥類の種子散布に注目した樹木調査をした故選・森本(2002)も京都府の鳥類ではヒヨドリが多く,その種子散布によってトウネズミモチは分布を拡大しつつあることを示した.このことは都市緑地の植栽樹によって鳥類の食性と種子散布が大きく影響されることを示唆し,さらに他の都市でもこの種の調査が行われることが期待される.
 調査したのは単純な系とはいえ,母樹由来の種子を除いた種子集団は調査地AとBで大きな違いがあり,その説明は容易ではない.散布者である鳥類の種類が違う可能性があるが,この点は不明である.鳥の種によって食べる果実は違い(唐沢 1978;平田ほか2009;小南・青木 2015),今後は鳥類調査を含めた調査が必要であろう.またこの調査は冬だけしか行わなかったが,原田・上田(2005),田中・佐野(2013)がおこなったように,そのほかの季節も調査することが望ましい.
 
■摘要
 1.東京郊外の小平市の3カ所で鳥類による種子散布を調べたところ,トウネズミモチとクロガネモチの樹下にはそれぞれの母樹由来の種子が多かったが,それ以外に持ち込まれた種子が10種あまりあった..
 2. 母樹由来以外の外部からの持ち込み種子は,トウネズミモチの樹下ではイヌツゲ(23.0%),ナンテン(18.0%)などが,クロガネモチの樹下ではトウネズミモチ(48.4%)が多かった.
 3.「止まり木」になっている電線の下にはトウネズミモチの種子が88.4%と多く,全体としてトウネズミモチが多かった.
 4. 鳥類が散布する種子はトウネズミモチを代表として栽培植物が多かった.
 5. 都市緑地の単純な系と舗装地面を利用することで鳥類散布の一面が明瞭に示されることを指摘した.
 
 
付図1.1 鳥類によって散布された種子.1.イヌツゲ,2.クロガネモチ,3.ヒヨドリジョウゴ,4.トウネズミモチ,5.ネズミモチ,6.ヘクソカズラ,7.アオキ,8.ウルシ属.,9.マンリョウ,10.アメリカヤマボウシ(ハナミズキ),11.ツタ ,12.ブドウ属.格子間隔は5mm.
 

付図1.2 鳥類によって散布された種子.13.センダン,14.カラスウリ,15.エノキ,16.ケンポナシ,17.ケヤキ,18.タチバナモドキ ,19.ナンテン,20.ジャノヒゲ ,21.シロダモ.格子間隔は5mm.
 

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タヌキの糞からドングリ

2018-03-18 19:20:26 | 報告
ちょっと意外というか、不思議に思っていることがあります。クマはドングリが大好きで秋の糞びはドングリがいっぱい入っています。ドングリはでんぷん質だから、脂肪に変えて冬眠に備えるわけです。津田塾大学にはシラカシがたくさんあって大量のドングリが落ちています。それを同じ食肉目のタヌキが全く食べません。私は去年100個以上の糞を分析しましたが、全く出て来ませんでした。だから論文に次のように記述しました。

津田塾大学の森林で最も優占するシラカシや個体数が少ないので調査区には出現しなかったコナラやスダジイなどは大量の堅果類(ドングリ)を実らせ,林床に多数落下するにもかかわらず,タヌキの糞からは検出されなかった.タヌキがドングリの種皮・種皮を食べないで,種皮を除いて子葉部だけを食べるとか,飲み込まれた子葉部が完全に消化されて糞に出現しないとは考えにくい.したがって,津田塾大学の森林での供給量の豊富さを考えれば,タヌキは実質的にドングリ類を食べていないと考えられる.ただ,東京都八王子市でのタヌキの糞分析例では少数例で,微量のドングリの種皮が検出されたことがある(Takatsuki et al., in press).ほかにも皇居でシイ・カシ類の種子片が出現しているが,出現頻度は8.8 %にすぎない(酒向ほか, 2008).そのほかの多くの分析事例ではドングリは検出されていない.これらの情報から,タヌキはドングリが豊富に供給されても,ごく少量を低頻度にしか利用しないと思われる.このことは,同じ食肉目のツキノワグマUrsus thibetanusがドングリ類を好んで採食すること(橋本・高槻, 1997)を考えれば,興味ある現象である.例えば,コナラ属の堅果の出現頻度は,秩父山地のツキノワグマの場合, 25 %(1993年)または67 %(1994年)であったし(Hashimoto, 2002),岩手県では95 %〜100 %であったし(坂本・青井, 2006),中国山地では85 %(9月),28 %(10月),47 %(11月)であり(大井ほか, 2012),いずれもタヌキよりもはるかに高頻度であった

 その結論は変わらないのですが、今年はマーカーのチェックのために、分析はしませんが、ふるいで水洗しています。すでに50個以上は調べました。そうしたら3月2日に回収した糞の中の1個からドングリの破片が出て来ました。中身(子葉)が一部欠けた状態で、外側の殻もありました。ほとんど未消化の状態なので、どれだけ栄養になっているかわからないし、150個以上見た中のわずか1個ですから、「ほとんど食べない」という結論は変わりませんが、ごく稀には食べることがあるという「小さな発見」があったということです。林には今でも大量のドングリが落ちています。


津田塾大学のタヌキの糞から検出されたドングリ。上は殻の破片、下の2つが中身(子葉)。格子間隔は5mm

以上の報告を書いた後、1月10日に拾っていたタメフン3と読んでいるタメフン場の大量の糞を3月10日に全て水洗しおわりました。潰れたり、くっついたりしていてどれが1個かわからなくなっているので、およその量しかわかりませんが、60個くらいです。たくさんのカキとブドウの種子が出てきましたが、その中に1個だけ、シラカシのまったく未消化なドングリが出てきました。同じ結論ではありますが、「タヌキはドングリを食べないわけではない、ただしほとんど未消化だ」ということです。


タヌキの糞から出てきたシラカシのドングリ

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奥多摩軍畑のタヌキの糞からシカの毛が出た

2018-03-12 22:47:36 | 報告
奥多摩軍畑のタヌキの糞からシカの毛が出た

高槻成紀

日本各地でシカが増加しており、植物に強い影響を及ぼすようになった。そのことは波及効果として、植物を利用する小動物などにも影響するし、植物がなくなったために表土の流失が進むなどの間接的な影響も起きるようになった。一方、シカがいることで糞が供給されて糞虫が増えるとか、死体が供給されてシデムシ類が増えるといったこともある(高槻, 2015)。シカの死体は冬から春にかけて多くなるが、それは食肉目が最も食料が得にくくなる時期でもあり、食肉目は当然、利用すると推察されるが、これまで情報が乏しく、ヒグマ(Sato et al. 2004)と九州のテン(足立ら, 2017)における事例しか知られていない。
 私は野外でタヌキやキツネの糞を見て、おそらくシカであろうと思いながら、サンプリングまではしないでいたが、最近そのことが気になり始めた。そんな時、2018年1月に御岳レンジャーの福田真司さんから、御岳ビジターセンターの宮田浩さんを通じてタヌキの糞8個が送られてきた。0.5mm間隔のフルイで水洗し、検出物を確認したところ、6例からシカの毛と思われるものが検出された。DNAによる確認をしているが、まず間違いないので、その意味などを考えてみたい。

 奥多摩には過去20年くらいでシカが増加し、ワサビや植林木に被害が発生している。シカの分布は拡大傾向があり(御手洗, 2014)、現在八王子の高尾山や埼玉県の飯能などでも確認されるようになった。古くからシカが生息し、高密度でもある奥多摩では冬から春にかけてシカの死体が供給され、それを食肉目が利用することが予測される。
 検出物は表1のようであり、8例中6例でシカの毛が検出され、しかも4例では非常に多量であった。このほかマンリョウとスゲ属の種子が検出された(表1、図1)。

表1 奥多摩のタヌキの糞からの検出物頻度(n = 8)



図1 奥多摩のタヌキの糞からの検出物


 サンプル数が少ないとはいえ、冬に当地のタヌキがシカの死体を高頻度に利用し、かなりのサンプルではシカの毛が優占していたということは、タヌキの冬の食性に大きな変化が生じていることを示唆する。
 福岡県のテンは10年ほどの継続調査により、シカの増加とともに、糞中に占めるシカの出現頻度が高くなったことが知られており、同様なことが奥多摩で起きていることは十分にありえる。
現状では、これが少数の特例であるかどうか判断ができない。奥多摩から東にかけてもさらに多くの場所で分析が行われることを期待したい。

文献
足立高行・桑原佳子・高槻成紀. 2017.福岡県朝倉市北部のテンの食性−シカの増加に着目した長期分析.保全生態学研究,21: 203-217.
御手洗 望.2014. 多摩川・秋川流域の低山丘陵地におけるニホンジカの分布拡大についての研究.公益財団法人とうきゅう環境財団報告, 217. こちら
Sato, Y., K. Aoi, K. Kaji and S. Takatsuki. 2004. Temporal changes in the population density and diet of brown bears in eastern Hokkaido, Japan. Mammal Study, 29: 47-53.
高槻成紀. 2015. シカ問題を考える. ヤマケイ新書

付記:タヌキ糞の情報
採取日時:2018年1月9日
採取場所:高水三山の惣岳山から軍畑駅方面へ下る平溝尾根
緯度経度:北緯35.81735 東経139.19323
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