原子力政策 国民の信頼からは程遠い (2014年9月28日午前7時35分)
「事故は起こる」「機械は故障する」「人間は過ちをおかす」という大原則を日本の当事者たちは忘れていた―。東京電力福島第1原発事故を検証した国会事故調査委員会の黒川清委員長はそう総括し、「事故は人災」とまで踏み込んだ。
福島事故から3年半、「事業者の虜(とりこ)」を教訓にした原子力規制委員会が発足して2年。経済最優先の安倍政権は原発再稼働を急ぐが、国民に丁寧な説明もなく、世論は過半が「脱原発」である。日本の「安全文化」がいまだ見えてこない。
■リスクゼロはない■
規制委は10日、九州電力川内原発1、2号機(鹿児島県)について、新規制基準に適合するとの審査書を正式決定。避難計画も政府があっさり了承した。
事故は起こらず、人間は過ちを犯さないだろうか。原子力を含めリスクゼロ「100%安全」はない。しかし、問題が起こり得る確率を客観分析し、それに備えることで一定の「安全・安心」が醸成されていく。
原発など巨大技術のリスク分析専門家であるウディ・エプシュタイン氏は▽政策決定者に理にかなった論拠を提出すること▽社会に対しては明快で実際的な説明をすること―の2点が専門家の役割と述べている。この論法でいけば、原子力政策に一元的責任を有する国は、国民に対して理にかなった論拠を提示し、明快で実際的な説明をする責任を負うべきである。
■国の押しつけ政策■
川内原発は今冬にも再稼働の可能性がある。手続きで注目されるのは10月9日からの住民説明会だ。県は7日間、原発から半径30キロ圏内の5市町で開催。県民限定でネット中継はしないという。混乱防止か、これでは閉鎖的すぎないか。約1万7千通寄せられた意見も規制委がどう反映させたかは不明だ。
規制委の審査に、噴火リスク判断の甘さを突く学者もいる。事故時の避難計画の実効性を懸念する声は強い。そもそも困難な避難計画策定を自治体に押しつけている国に問題がある。
審査は設計自体に手を付けていない。欧州の原発に義務づけられている「コアキャッチャー」と呼ばれる原子炉内の装置が備わっていないという指摘もある。溶融した炉心燃料を受け止める装置で、海外の設計思想ではメルトダウンは想定内だ。
これが安倍首相の言う「世界一厳しい基準」による安全対策なのか。政治家の断定的な発言が国民の不信感を増幅する。
■安全の保証どこが■
現規制委委員で国会事故調委員だった大島賢三氏は、福島の教訓に(1)安全文化の再構築(2)防災、危機管理体制の強化(3)「国の責任」のあり方見直し(4)国際的に開かれた体制と政策―の4点を指摘した。規制委設置法は「国民の生命、健康、財産の保護、環境の保全」を明記する。国際原子力機関(IAEA)も深層防護対策で防災・避難対策を重視しており、国民の安全に不可欠な避難計画を再稼働の条件に入れない規制委のあり方は大きな政策矛盾といえる。
こう見れば、安全を保証すべき「国の責任」を全うしていない現状が露呈する。規制委も自治体などとの対話が足りない。地元の信頼なくして原子力政策が進まないのは自明の理だ。
西川知事は「規制委と政府は国民の理解を得るためにも責任を押しつけ合うことなく、国民に原子力の安全性と必要性を明確にする必要がある」と訴えている。核のごみ処理など課題山積の中で、電源構成のエネルギーベストミックスも示さず、先送りしている国の緩慢な原子力政策には理念がない。
防災対策も後手後手。自治体の批判を受け、政府は10月に防災の専従体制を整備強化するという。これで思惑通り再稼働が円滑に進むかは疑問だ。国民理解の努力と手法を見いだせない現状は原発の「アベノリスク」ではないか。