滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

スマートグリッドに備えるバイオガス発電

2010-12-14 20:12:14 | 再生可能エネルギー

バイオマスエネルギーのシンポジウム

ベルン市の国会前広場には、LEDのイルミネーションを纏った高さ14mのクリスマスツリーが飾られ、クリスマスの市場が賑わいを呼んでいます。スイスのお店は普段は日曜休業ですが、クリスマス前の四週末だけは特別に開業。冬至が近い日々の暗さを、クリスマスで吹き飛ばそうとしているような季節です。

少し時差があるのですが昨11月末に、東スイスで開催されたバイオマス・シンポジウムに行ってきましたので、今日はその様子をお伝えします。国内外から100人の関係者が集まった会の主催は、国から湿性バイオマスエネルギーの促進を委託されているバイオマスエネルギー協会。テーマは「一緒にヴィジョンを描こう」で、湿性バイオマス資源の今と未来が語られました。

湿性バイオマスとは、スイスの場合、生ゴミ、緑のゴミ、農業の収穫残物、家畜の屎尿、食品産業ゴミ、下水汚泥など。こういった廃棄物資源を嫌気性発酵させて得られるバイオガスを用いて、コージェネにより電気と暖房熱を作ったり、ガス車の燃料とするのが、スイスでは一般的な利用方法です。

2030年にヨーロッパではバイオマスエネルギーが30%

シンポジウムでは、まずヨーロッパからのゲストスピーカが大きなビジョンを語りました。ユトレヒト大学のDr.André Faaij A.Faaij教授は、2030年にはヨーロッパでは持続可能な方法で作られるバイオマスエネルギーが、エネルギー需要の30%を担うことができる、と発言。農業不適切地での世界的なエネルギー作物の増産や、国際取引による途上国の農業促進に期待する彼の意見には、バイオマスエネルギーの地産地消を唱える参加者からの疑問の声も上がりました。

また、ドイツのエコインスティチューツの研究者Uwe R.Fritsche氏も、温暖化防止にバイオマスエネルギーは欠かせない一要素であるという意見です。今日はコージェネ利用が一般的ですが、2030年ごろには主に物流交通と飛行機に使われるようになる、と発言。今日の移動や輸送の規模が大幅に縮小されない限り、私の頭ではちょっと想像できないビジョンでしたが、世界は確実にその方向に向かっていると同氏は言います。またバイオ燃料に関しては国際的に最低限の社会的基準が合意されたところだ、と話されていました。

嫌気性発酵技術がまだしばらく続くだろう

技術的に発展に関する発表では、ハイドロサーマル炭化技術(HTC)技術によるバイオ石炭の製造や、同技術を用いた木質バイオマスからのバイオ天然ガス(SNG)の製造。あるいは藻からのバイオディーゼルやバイオエタノール等の製造プラント、そしてバイオマスから薬品や素材を作るバイオ精製所(Biorefinery)のビジョンなどについて、研究者たちが語りました。とはいえ、これらの技術は効率やコストの面から、まだ実用の目処が立っていないという結論です。

スイス国内に目を向ければ、エネルギー庁副長官Michael Kaufmann氏が、2020年までにバイオマスエネルギーは、スイスのエネルギー消費量の10%を、省エネルギーが進めば消費量の20%を担えると話していました。ちなみに、現在バイオマスは最終エネルギー消費量の5%を担っています(木質バイオマスを含む)。徹底した省エネを語らずして、バイオマスのポテンシャルは語れず、という口調でした。Kaufmannさんによると、現在の技術でも暖房・家電・ガソリンの分野だけで、スイスのエネルギー消費量を-66%減らせるそうです。

またスイスでの将来的な湿性バイオマスの利用に関しては、気候・地形・国土的に農業生産力の乏しいこの国では、エネルギー作物ではなく廃棄物利用が今後も中心であり続けるだろうこと、そして当分は発酵によるバイオガス利用の時代が続くだろうことを、バイオマスエネルギー協会は予測していました。

スマートグリッドでの調整電源としての役割

スイスやドイツの動きとして特に面白かったのが、スマートグリッドにおけるバイオガス発電の待機電源としての役割に関する報告です。今日のバイオガス発電設備は、固定価格買取制度や、一般市場での売電とグリーン電力証書の組合わせにより収入を得るのが普通です。でも、将来的には別な収入や運営の可能性に期待する事業者もいます。

その1つが、調整用電源になることです。太陽光発電や風力の発電量の上下に合わせて発電したり、発電所の故障時に稼動する電源。あるいは過剰供給が予想されるときには発電装置のスイッチを切る役を引き受ける電源です。燃料を貯蔵でき、臨機応変に出力の調整ができるバイオガスの発電設備は、調整電源に適しているとのこと。系統運営会社からの15分おきの要望に応じて運転される調整用電源への報酬は高く、経済的に興味深いといいます。

スイスの送電網を運営するスイスグリッド社に調整用電源として登録するためには、一定規模の発電出力が求められます(スイスの場合5MWから)。しかし、それは必ずしも一箇所の設備である必要はありません。各地にある複数のバイオガス発電をネットで繋いで、一定の出力のある、遠隔操作できる「バーチャル発電所」としても登録できるそうなのです。

固定価格買取制度と調整用電源を併用

バイオガス発電を行なう農家の連盟「エコ電力スイス」では、会員の設備をネットワークで繋いだバーチャル発電所を既に形成しており、調整用電源として稼ぐ時代に備えます。15分単位での稼動テストも順調に終了しました。また、ヨーロッパのエネルギー会社のネットワークTrianelでも、調整用電源グループ形成を行なっています。

ただスイスの場合、バイオガス発電事業者には、調整用電源と固定価格買取制度の併用が法律で許されていません。そのため、「エコ電力スイス」の農家は実際にはまだ、調整用電源として登録していません。対してTrianel社のDr.Jörg Strese氏によると、ドイツでは固定価格買取制度を受けながらも、調整用電源として登録することが可能なのだそうです。この2つの制度の間を15分おきに「乗換え」できるという話を聞いて、とても驚きました。

「エコ電力スイス」のStephan Mutzner氏は、プレゼンの中でスイスのエネルギー庁に上記のような併用を可能にする制度の変更を求めていました。家畜の屎尿と生ゴミを合わせて発酵させる農家型バイオガス設備は、スイスでは固定価格買取制度を受けても、経済性が低い設備が多いのが現状です。そのため、農家の側から積極的に行政に働きかけて、より経済性を上げるための仕組みづくりの工夫が重ねられていることが分かりました。



短信

● 固定価格買取制度、2011年から太陽光発電の買取価格-18%
スイスでは2011年1月から、固定価格買取制度の太陽光発電(PV)の買取価格が、18%下げられる。同時に買取予算に占めるPVの割合限度が、現在の5%から10%に拡張される。PV電力の買取価格は2010年1月に-18%されたばかり。今回の価格低下は、発電コストが予想以上に下がったことが理由だ。またエネルギー法には、PV電力の市場電力に対する割高額が50ラッペン(約42円)以下になった場合、買取予算に占める割合が増えることが定められている。これにより2011年から年50~70MWのPV設備が設置できるようになり、今ある7000件のウェイティングリストが2013年までには消化できる予定だ。 ドイツの制度と違いスイスの固定価格買取制度には、買取予算全体の上限と、予算に占めるエネルギー源別の割合という二重の「蓋」が付いている。それが再生可能電力の増産スピードにブレーキをかけている。


● デザイン学校で「ピークオイル」のポスター展
州立ベルン・ビールデザイン学校では、NGOスイスエネルギー基金の協力を得て、グラフィックデザイン科4年生の授業枠内で、「Peak Oil, The Ende of Cheap Oil」というテーマの大型ポスターを作製。現在、一般公開されている。学生達にエネルギーという社会的に差し迫ったテーマをビジュアル化させるのが、このプロジェクトの目的だ。第一位は「石油無くして日常崩壊」というコピーで、日常的要素がドミノのように崩れるモチーフ。第二位は「石油から逃げろ、石油に逃げられる前に」。第三位は「石油。革命~大人が俺達を依存させた、残るは禁断療法」というコピー。既にピークオイル後世代の目線が感じられる。
http://www.energiestiftung.ch/aktuell/archive/200/12/09/plakatausstellung-zu-peak-oil-the-end-of-cheap-oil.html


● スイス在住者にお勧め1マルティン・フォッセラーさんが本出版
スイスの医師で環境活動家のマルティン・フォッセラーさんが、この10年間に実行したソーラーエネルギーのための環境冒険の旅行記を、2つの本にまとめた。エッセイ風の美しい文章と水彩画でまとめられている。スイス在住の方には、クリスマスプレゼントにお勧め。
一冊目Der Sonne entgegenはスイスからイスラエルまでの徒歩の旅。

二冊目“Mit Solarboot und Sandalen „はスイスからニューヨークまで、ソーラーボートで大西洋を横断した冒険と、アメリカの徒歩横断の旅。

http://www.emu-verlag.de/index.php/cPath/71 (出版社サイト)


● スイス在住者にお勧め2:映画「第4の革命~エネルギー自立」がDVD発売
カール・A・フェヒナー監督作、主演は昨10月に亡くなったドイツの政治家へルマン・シェアー氏。石油でも原子力でもない、100%再生可能な社会への転換が進む「第4の革命」の初まりにある世界を捉えるドキュメンタリー映画。ドイツ語版がDVDとして発売開始された。環境やエネルギーに興味のある方にはお勧めの一枚。
http://www.amazon.de/Die-4-Revolution-Energy-Autonomy/dp/3898673669/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1292344731&sr=1-1


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