滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

大型ガス発電にCO2税を免除、その代わり100%のCO2オフセットを義務化

2010-12-02 20:43:25 | 政策
毎朝の散歩の日課が、雪かきにとって代わられました。
初めからこんなに降り続く冬は、私の住んでいるベルン市近郊でも珍しいものです。
外の最高気温はゼロ度以下ですが、一週間もすると体が随分と慣れてきて、ゼロ度くらいなら寒いとは感じなくなりました。
(とはいえ、家の中は20度の全館暖房ですが。。。)

さて、今日は大型ガス発電の話です。
この数年、大型ガス発電をどう扱うかでスイスの議会はもめにもめてきました。山国スイスの電力生産は、55%が水力。40%が原子力。2%が新しい再生可能エネルギーです。つまり発電からのCO2排出量がほとんどないことになっています。 ですが、2020年には3基の原発が廃炉となり、フランスとの原発電力の購入契約も切れます。それにより生じる「供給の隙間」を、「埋める」選択肢の一つに大型ガス発電が上げられてきました。

もちろん、再生可能な電力と節電の徹底した促進により、この隙間を埋めるという、別の選択肢もあります。 ただ出力の制御が簡単で、建設期間も短いガス発電は、100%再生電力時代までの安定供給のかけ橋となる技術として捉えられる傾向にあります。大手の電力会社は原発を更新したいと考えていますが、それが国民投票で認められるかどうかは不確定な要素です。そのため彼らも大型ガス発電というオプションを重視しています。

しかし、大型ガス発電を新設すれば、発電分野からのCO2排出量が増えます。それをどう増やさずに、かつある程度経済性のとれるガス発電設備を可能にするのか、というのがスイスの政治的な問題でした。
具体的に議会で議論されてきたのは、2008年から導入されているCO2税を大型ガス発電にはどう適用するのか、という点。現在、スイスでは化石燃料に対して、CO2排出量1tあたり36フランのCO2税が課せられています。

ちなみに、この議論の対象となっている大型ガス発電所とは、発電効率が60%近いコンバインドサイクル発電と呼ばれる高効率な設備です。

今年の6月18日にスイスの議会は、ガスコンバインドサイクル発電所に対してCO2税を適用しないことを決定。その代わりに、発電業者にはCO2排出量を100%相殺することが義務付けられました。相殺(カーボンオフセット)とは、CO2が排出される場所とは別の場所で、同じ量のCO2を節約することです。

そして先週の11月24日に連邦閣僚は、この義務を具体化する「CO2相殺政令」を発表しました。その中で、CO2排出量の70%は国内プロジェクトにより相殺(オフセット)すること、30%は国外プロジェクトでも良いことを定めています。事業者は環境省と契約を結び、再生可能エネルギープロジェクトからの排出権を購入することにより、相殺は行なわれます。

70%が国内相殺というのは、事業者にとっての経済的なハードルが高いということです。
同時に、ガス発電から国内の再生可能エネルギー生産事業に大きな金が流れることも期待されています。

またこの政令の中では、総エネルギー効率にもハードルが設けられています。新しい火力発電設備(ガス発電設備)には、総エネルギー効率が62%以上であることが求められます。つまり、発電と熱利用の両方を行なう設備であることが前提となります。 しかし、例外も設けられています。それは、既存の発電所のある場所に火力発電所が建設される場合には、総エネルギー効率を58.5%以上としている点。既存の発電所の周辺には熱利用者が少ないため、排熱利用を義務化しないというものです。

こういった例外を設けて、国内でのガス発電所をなんとか可能にしようと閣僚は画策したようです。実際に、ハードルの高いスイスではなく、ハードルの低い隣国イタリアでガス発電の建設を進め、そこからの電気を輸入しているスイスの大手電力会社もあるからです。

この 「CO2相殺政令」は2011年1月から施行されます。果たして、スイスにはいくつの大型ガス発電設備が実現されることになるのか。住民の反対も少なくないので、規模にも寄りますが、片手で数えるほどではないかと思われます。

ちなみに、小型のガスコージェネで熱源として使われる設備には、このルールは適用されません。そのような設備では、通常の化石熱源と同様に、CO2税が適用されます。

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