滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

エネルギー農家④~木のエネルギーで起業する農家

2010-09-16 15:12:44 | 再生可能エネルギー

村の霊園に植えられている萩が見事な季節になりました。遠い昔に日本からヨーロッパに来たこの秋の花を見ると、何となく故郷が懐かしくなります。そして、いつまで今日のように石油を大量に消費して飛行機で日本に帰れるのかな、とふと考えてしまいます。先週は日本の自治体で働かれている方々と、スイスの自治体の交通政策の視察しました。皆さんハードなスケジュールにも関わらず、とても関心が高く、勉強熱心で居られて驚きます。

講演や視察の折に、日本の方から時々寄せられる素朴な質問に次のようなものがあります。一人頭CO2排出量1トンを目指す自治体や、建物の省エネ化政策について話すと、「何が最大の目的でそこまでする?気候温暖化?」という疑問です。気候温暖化は確かに大きな問題ですが、最大のモチベーションはスイスが依存しているウランや石油資源が、いつかは枯渇するということかと思います。

遅かれ早かれ起こる大幅な価格高騰を考えたときに、国として、地域としてどう生き残るか、また市民にどう一定の生活レベルを保障するかということではないでしょうか。また、自治体であれば、エネルギー自立により、エネルギーの安定供給と地域の競争力を高め、地域の税収を増やし、住人や企業へのサービスが充実した自治体を作ることに繋がります。あるいは建物を省エネ改修しなければ、灯油価格が高騰したとき、それらの不動産価値は低下し、現在のような生活の質も保つことができません。

さて、今日は先延ばしにした木のエネルギー農家の話をしましょう。
最近ブログでも紹介したようにエネルギー起業家としての農家が増えています。太陽光発電設備やバイオガス発電が多いのですが、中には木のエネルギーの分野でも、これまでとは違った一工夫加えた事業に乗り出す農家が少なからずあります。

農家型地域暖房というモデル、メルヒナウ村の場合

一つは居住地から遠くない農家からチップボイラーで地域暖房するというモデル。
農家の敷地にチップのサイロとボイラー施設を作り、そこから地域暖房網を引っ張って行って、近くの公共建築や商業建築、集合住宅などに熱を販売します。地域暖房の契約の雛形は木質バイオマス協会が提供していますし、エンジニアが農家をサポートしますので、農家でもできます。農家の強みは場所があること、そして自身が管理人で、どちらにしても自宅で働いていること。もちろん自分で森林を持っていることもあり、経済性が高い設備ができるそうです。

何件かの農家が団結しているケースもあります。例えばメルヒナウ村。
村の小さなチーズ工場の灯油熱源の交換にあたって、地元の4件の農家が団結して簡単な組織を立ち上げ、地域暖房センターを2009年に運転開始しました。この冬見に行きましたが、すごい人たちです。農家の組合が所有するチーズ工房の敷地の一部を99年の借地契約で借りて、そこに地域暖房センターを建設。計1.7kmの熱供給網の埋設工事の1部は、農閑期に自ら行いました。


写真:メルヒナウ村のチーズ工場の敷地に建てられた地域暖房センターの建物。建物の手前にチップサイロの蓋が見える。


 熱供給するのは、チーズ工場のほか、学校、団地、高齢者ホーム、幼稚園、銀行、レストラン、集合住宅、一戸建てなど30棟。資金作りが問題でしたが、お金の少ない農家ということもあって、CO2オフセット団体「マイクライメート」が10年間に渡りCO2削減量を買い取ってくれることになり、さらに州から助成金が得られて無事実現に漕ぎ着けました。

写真:地域の農家組合が運営するメルヒナウ村の小さなチーズ工場。左端に地域暖房センターが見える。



写真:メルヒナウ村のチーズ工場の中のチーズ売り場。エーメンタールチーズが特産。

地域暖房センターの運営者であるハンス・ドゥペンターラーさんは、農家の人とはいえチップボイラーの制御コンピュータを操り、機械技師の息子さんと一緒に設備の運営をこなしており、熱販売はビジネスとしても興味深いと言います。

この地域暖房センターの屋根は70㎡のソーラー温水器で覆われていて、夏の間のチップ消費量の節約に貢献しています。ソーラー温水器の資金は住民から、一㎡1000フランの出資を募り、実現。面白いのはこの資金の払い戻しがチーズで行なわれるという点です。出資者は12年間に渡り、毎年、村のチーズ工場の商品券100フラン分を受け取る、という農村ならではのユニークな発想です。


写真:地域暖房センターと隣接するガレージの屋根には70㎡のソーラー温水器が設置されている。年3500ℓの灯油に相当する熱をソーラーで節約。チップボイラーからの熱と組み合わせて使っている。

ペレット製造に進出する農家、ベストペレット社の場合

もう1つの例は、私の住む村に近いビュージンゲン村の農家シュノイブリさんです。この人は森の木からペレットを生産、販売する会社「ベストペレット」を2003年に起業したパイオニアです。スイスではペレットは通常、製材所のおがくずを原料としており、森林材からペレットを作るメーカはこの農家を含めて2つしかありません。
www.bestpellet.ch

地元の森の木を使ったペレットを生産する際に、シュノイブリさんは一切接着剤を使わない生産方法を開発。またペレット原料のチップを乾燥する際には、100%再生可能エネルギーを使っています。乾燥には二重になった納屋の屋根裏に集まる熱くなった空気を利用します。悪天候の日には自宅のチップボイラーの熱で乾燥させています。そのためペレットの中でも輸送距離と生産エネルギーの小さな、環境性の高い製品になっています。また 樹皮入りペレットながら、最高品質のスイスペレットの規格に合格しています。

シュノイブリさんのベストペレット社は、地元30km圏内で十分な顧客を持ち、スイスでは唯一黒字を出している森林ペレットメーカです。 このシュノイブリさんは現在、パートナーの農家と共同で、家畜の屎尿を発酵させるバイオガスのコージェネ設備を建設中。生じる電力は売電、熱は地域暖房とペレット用のチップ乾燥に使います。夏の間の熱需要が少ない時には、ペレット原料の乾燥をフル稼動で行う。冬の熱需要の多い時には、熱をより高く売れる工場に売るという計画です。バイオガス発電設備の90%は電力会社の出資ですが、熱の販売会社は100%農家たちの出資です。

エネルギー起業家としての農家の実力、底力、ポテンシャルを見せ付けられます。



短信

●スイスのカーシェアリングの会員数が93700人へ
スイスのカーシェアリング組合「モビリティ」の会員数が93700人になった。今年上半期だけで3.2%増えたことになる。上半期の売上げは4.9%伸び、3180万フラン(約26億円)。順調な成長に応じて、共有車の数を50台増やした。現在モビリティが共有する車の数は2350台となり、それが1200箇所(450の立地)に配車されている。上半期で利用者数が20%も増えているのが、駅から利用する「クリック&ドライブ」サービスだそう。これは会員以外でもスイス国鉄の駅から簡単に1時間単位でレンタルカーとして、モビリティの共有車を利用できるサービスだ。また、企業によるビジネスカーシェアリングの顧客数も半年で8%増加。モビリティ社では、会員カードを利用して、ドイツ鉄道のカーシェアリング社の1500台を利用することもできるようにした。また、オーストリアのレンタルカー会社DENZELとと共同出資した会社により、オーストリアの25駅に進出している。
www.moblility.ch

●ドイツの脱原発延長をスイスから見ると・・
先週ドイツの脱原発延長のニュースがスイスでも大々的に流された。脱原発のスケジュールが遅れるのは残念で、すぐに嘆願のサインを集めるメールがドイツのどこからの団体からかスイスの私にも届いた。自然エネルギーへの供給構造の転換を妨げるという理由から、脱原発延長の決断に対して大きな反対運動が各地で準備されているという話しもドイツの同僚から聞く。ただ、原発更新を考えているスイスの方から見ると、たとえ延長されたとしてもドイツの意識とスイスの意識は天地の差。第一に、ドイツは脱原発することには変わりなく、新設など考えられず、核燃料税により原子力が高くなり(安いエネルギーではなくなり)、寿命延長期間はスイスが古い原発に許している延長期間よりも短い。

●スイスのCO2オフセット団体「マイクライメート」が日本進出
6月末に自発的なCO2オフセットNPOのマイクライメートが日本に進出した。現地パートナーとなるのは、2008年より日本でオフセット販売を行なっているeconos社。マイクライメートとの協力により、日本でも質の高い、持続可能なオフセットプロジェクトを認証する「ゴールドスタンダード」印のオフセットが販売されるようになる。これで9カ国目の進出となる。今後、どのような企業がマイクライメートのオフセットサービスを利用していくのか、楽しみだ。
www.myclimate.ch

●映画「第四の革命~エネルギー自律(Energy Autonomy)」がスイスでも公開
ドイツでは3月に公開されたカール・A・フェヒナー監督の映画である。「エネルギー自立する地域。100%再生可能エネルギーによる世界は可能であり、経済的であり、クリーンである」というメッセージの作品だ。資金集めも分散型で、数多くの個人や企業といったサポータたちの募金により作られたというユニークな背景を持つ。スイスでは公開が遅れに遅れ、9月13日にヴィンタトゥールで初上映。スイスでの上映が遅れているのは、この映画の放映を促進する会社「Energy Autonomy-DerFilm」の社員の話によると、明確に脱原発の立場を採る映画であるため、スイスの映画館が経済界・電力会社からの圧力を恐れているということが一因だという。
http://www.4-revolution.de/


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