滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

スイスより暑中お見舞い申し上げます

2010-07-11 17:30:32 | その他
暑中お見舞い申し上げます。
先週末に、2週間の日本滞在からスイスに戻ってまいりました。
短いながら日本の(私にとっては)気持ち良い蒸し暑さと豊かな自然、食事、家族、友人、同志との時間を満喫することができ、とても幸せでした。

戻ってみるとスイスには1ヶ月の夏休みシーズンが到来し、村も町もリラックスモードです。そして、日中は30度以上、今日など35度近い暑さが続いています。干上がるような感じの暑さで、連日のように大気中のオゾン含有値が制限値を上回っています。オゾンは粘膜を刺激しますので、そのせいかスイスに戻って以来、花粉症のようなクシャミに悩まされています。

今回の日本滞在中でも、日本の大自然の豊かさに心を打たれました。
岐阜県の加子母にある、伊勢神宮の材を育てている美しい国有天然林に訪れた際には、ツキノワグマの子熊やカモシカに出会いました。(加子母の森林ツアーについては後日報告します)。また、日光那須国立公園では、真っ白なシーツを広げたような満開のヤマボウシや巨大なモミ、五葉ツツジやモミジ、林縁にはマタタビやヤマアジサイなどの多様な種の森が広がり、植物好きには狂喜したくなるような場所でした。

ヨーロッパの中でもスイスは小さな面積の中に、高度差が大きく、複雑な地形があり、様々な気候帯が入り混じっているため、自然の多様性は豊かな方です。しかしスイスと比べても日本には、里山や奥山に圧倒的に豊かな多様性のある自然があります。

ただ東京周辺に関しては、日常に近い自然の質が貧しいことを、今回改めて痛感しました。日本滞在中は千葉県船橋市の実家から東京に通う生活をしていました。便利ですが、移動時間が長く、そして緑の絶対量と興味深い緑地や自然があまりにも少ないのです。社会人も子供も日常的に、一般常識であるべき、普通の自然体験を得ることができません。

スイスの自宅に戻ってきて、そんな普通の自然体験がスイスの生活の質であると感じます。首都から鈍行電車で20分の我が家では、朝にはヒバリやズアオトリの歌声が聞こえ、ベランダに出れば家の前の農地に立つ木にアオゲラ(緑色のキツツキ)のカップルが実をつつきに飛んできます。歩いて10分ほどのブナの森に涼しい空気を吸いに行けば、林業の現場が目の前にあります。また休日に近くの湖に泳ぎに行けば、葦林に縁取られた浅瀬の澄んだ水辺に何千、何万もの小魚が群れ泳いでいるのを観察することができます。 日本でも田舎では当たり前な環境ですが、町に近い場所で、ちょっと良い自然が身近にあることが、スイスではとてもありがたいことです。

さて、おしゃべりが長引きましたが、スイスに帰ってきて、目に留まったニュースを以下にアットランダムに挙げます。

●日本ではほとんど報道されていないのが不思議でしたが、スイスではほぼ毎日、アメリカ史上最悪の環境汚染事故として、メキシコ湾の石油流出事故の経過や処置、現地社会の様子が報道されています。

ベルン州電力は送電と発電設備の更新の資金づくりのために、電気代を6%高くする予定だそうです。同社は新しい原発を建てて、そこでできた電力を西スイスに売りつけたいので、このような投資を必要としているのです。しかし、西スイスの州はベルン州電力が計画している高圧電線新設計画を住民投票で・否決しています。

●7月7日~8日にかけて、スイスのソーラー飛行機「ソーラーインパルス」が26時間の昼夜飛行テストに成功しました!!!翼に設置された太陽光発電パネルで日中に上空で発電し、電池に貯めた電気で、夜間飛行するのです。2013年には大西洋横断を目指します。ソーラーインパルスは一人乗りであり、この技術が本当に実用化できるのかは疑問ですが、エネルギーを自給するソーラー飛行機の夢への一歩は踏み出されました。

●スイスの大手の新聞「ターゲスアンツァイガー誌」は、7月8日の朝刊で「サステイナビリティ」という付録号を配布しました。その中で編集記事として、新築ではパッシブハウスやミネルギー・Pを勧め、省エネ改修が元が取れることを解説しています。一般読者向けの新聞でも、こういったテーマが日常的に扱われる時代になったことを実感します。ちなみに本文記事の方でも、チューリヒに竣工した2000W社会対応型の木造5階建て賃貸住宅が紹介されていました。

●7月9日には、スイスの環境・交通・エネルギー・通信省を担当する大臣モリッツ・ロイエンベルガーさんが年末をもっての退職を表明しました。環境派、脱原発、再生可能エネルギーへ転換を主張する社会民主党出身のロイエンベルガーさんは、15年間も大臣職を務められています。継続性を持ってサステイナビリティを軸とした環境・交通政策が実践されてきたには、彼の功績です。「貨物を道路から鉄道へ」というモーダルシフト政策が代表的な仕事です。環境・交通・エネルギー・通信省の管轄には、道路や鉄道政策やエネルギー政策、あるいは原発問題なども含まれているため、後継者のポストを巡って、各政党の間で既に様々な画策が計られています。

●7月1日にスウォッチ・グループの会長であるニコラス・G・ハイェック氏(82歳)が亡くなりました。スイスの時計産業を立て直したカリスマ経営者として有名な同氏は、人と技術を大切にする企業哲学から、金融危機にあっても1人として解雇せず、ものづくりの国としてのスイスにこだわりつづけました。最後の日まで現役で働き続けたハイェックさんが、スイスの労働組合の新聞に語った最後のインタビューには、彼が携っている最新プロジェクトについて触れられています。それが、水素燃料電池、効率40%の太陽光発電パネル、1万フラン(83万円)の価格で車を700km走らせられる高効率バッテリーの開発を全力で進めているとのこと。同グループのエネルギー分野での今後の活動が楽しみです。

●スイスソーラー連盟が2009年度のスイスのソーラー市場の成長を発表しました。前年度比で太陽熱温水器市場は29%成長しています。うち3分2が一戸建てに設置され、3分1が集合住宅に設置されています。太陽光発電市場については前年比で139%成長しました。ですが2009年度のドイツの1人頭の太陽光発電の設置出力はスイスの10倍だそうです。それは、スイスのフィードインタリフがドイツの制度と比べると効力の薄いものに終わっているからです。

帰国後のブログ第一号の報告はとりとめがないものとなりましたが、これからもマイペースで更新していきますので、時々クリックしてみて下さい!
それでは皆さんも良い夏をお過ごし下さい。

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