滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

センパッハ鳥類研究所の木造&省エネ新オフィス

2010-07-20 14:48:25 | 建築
スイスもまだ暑い日が続いています。日中は暑い空気を室内に入れないために窓を閉めているため、涼しい風の入る夕方が待ち遠しい毎日です。夕べには窓からコオロギの声と牧場で眠る牛のカウベルの音が聞こえてきて、スイスの夏の風情を感じさせます。

先日、中央スイスのナーサリーに植物を選びに行った帰りに、センパッハ鳥類研究所のオフィス建築に寄りました。この建物は、ルツェルン州で初のミネルギー・P・エコ認証を受けたオフィスビルで、木造プレファブパネル構法の三階建て。昨年の秋に竣工しました。

中庭を囲むようにL字型に2つの真っ赤な箱を並べた形をしています。 5000㎡の室内は、大空間オフィスやカフェテリア、ラボ、セミナールーム、図書館、倉庫などに利用されています。木造3~4階建てのオフィスや集合住宅はスイスでは珍しくはなくなりましたが、ミネルギー・P・エコの木造高層オフィスはまだ多くありません。

センパッハ鳥類研究所は80年の歴史を持つNGOで、80人の研究員のほか、数多くのボランティアと共に、鳥類の研究や調査を行なっています。スイスでは知名度も、評価も高い団体です。その研究所が次の100年に備えて新築したこのオフィスでは、2000W社会のビジョンを追求すべく、「ミネルギー・P・エコ基準」が選ばれました。



「ミネルギー・P・エコ」とは、スイスの省エネ建築基準の「ミネルギー・P」と、エコロジー建築基準の「ミネルギー・エコ」の両方を満たす建物のことです。今のところ「ミネルギー・P・エコ」は、スイスでは最も高度な省エネ・エコ性能を持つ建築の認証基準となっています。しかし認証作業に手がかかるため、まだスイスでは83 棟しかありません。ちなみに「ミネルギー・P基準」は682棟、普及型の省エネ建築の「ミネルギー基準」は1.7万棟あります。

まず、ミネルギー・Pはドイツのパッシブハウス基準に相当するスイスの基準です。オフィス建築では、暖房・給湯・換気に必要とするエネルギー消費量の制限値が25kWh/m2年です。その他、照明、オフィス機器にもトップ効率の機器が求められますし、気密性能もパッシブハウス基準と同様の性能が求められます。

センパッハ鳥類研究所の新オフィスでは、U値(W/m2K)は、外壁が0.09、屋根が0.10、窓が0.63~0.84、地下室(非暖房)に対する床が0.13、地面に接する床が0.22となっています。

またミネルギー・エコ基準は、ライフサイクルに渡り健康と環境に害のない建築を認証する基準です。同研究所では、例えば建材はFSC認証を受けたスイス材と南ドイツ材で、出来る限り地域の建材を選んでいます。

同オフィスは設備面では、熱交換式の機械換気設備の給気を、地下に敷いたヒートチューブを通して取り入れています。ヒートチューブの数は34本×30m(!)だそうで、冬の間に給気を暖めるだけでなく、夏の間に穏やかに給気を冷やす効果も狙っています。また暖房設備は低温床暖房を使っており、この冬は非常に快適だったとか。床暖房の設備は夏には必用があれば高温床冷房に使うことができます。

熱源は木質バイオマスのチップボイラーを使っています。これは小規模な地域暖房として、隣の敷地に新築された集合住宅地と共有しています。そして最後に屋根の上に設置出力20kWの太陽光発電が年間約1.9万kWhを生産する計算です。



コスト面では㎥あたり約600フラン、総額1400万フラン(約11億4800万円)。その半分以上が州、スポンサー、様々な基金、市民からの募金により出資されたそうです。

年1万人の来場者があるというセンパッハ鳥類研究所。その新オフィスは、スイスの鳥類保全・研究活動の中心地としてだけではなく、市民への環境教育の場としても重要な役割を果たしていきそうです!



こちらで、建設の様子が見られれます。
http://www.vogelwarte.ch/home.php?lang=d&cap=thema&subcap=seerose&titel=Ein%20neues%20Nest%20f%FCr%20die%20Vogelwarte#fortschritt


短信

●6月にビオシティ45号「遊びのエコロジカルデザイン」が発売されました。
拙筆の記事2本「スイス・モビリティ~国全体をスローツーリズムのパラダイスに」と「柳の建築~遊びのソーシャル・エコデザイン」が掲載されています。どうぞご覧になってみて下さい!
http://www.biocity.co.jp/



●また、日本初のパッシブハウス認証を受けた住宅「鎌倉の家」(設計:キーアーキテクツ)についての共著記事が、スイスの建築雑誌TEC21と雑誌「再生可能エネルギー」で掲載されました。スイスの人たちからも日本のパッシブハウス建築の動向は注目されています。
http://www.ee-news.ch/index.php?option=com_content&view=article&id=1502:das-erste-passivhaus-in-japan-wuestenblume-oder-pionierpflanze&catid=14:news&Itemid=34


チューリッヒ在住の近自然学の専門家である山脇正俊さんが、スイスの森林官ロルフ・シュトリッカーと共に日本各地で9月末~11月にかけて講演会を実施するそうです。近自然の森作りや木質バイオマスエネルギー利用の話なども期待できそうです。
http://web.me.com/masatoshiyamawaki/homepage/info-jp.html


ニューヨーク在住のファッションビジネスコンサルタントの田中めぐみさんが、昨年「グリーンファッション入門」という本を出版されました。学生への教科書として考えられただけあって、フェアで環境負荷の少ない、サステイナブルな衣料産業のあり方について、体系的、総合的に解説されており、お勧めです。 http://www.senken.co.jp/book/respective/m_green.htm



ベルン州にあるミューレベルグ原発は40歳近い高齢原発ですが、昨年末スイスの環境交通エネルギー通信省より、無期限の運転許可を得ています。その安全審査書類がが、他の原発の書類とは異なり、なぜか一般公開されませんでした。それに対して、市民が告訴、国立行政裁判所で勝訴しました。しかし隠さねばならなかった理由は、まだ分かっていません。ミューレベルグの無期限運転の取り消しを求める団体を支援する委員会には、原発利用に反対し、既に脱原発しているジュネーブ市も参加しています。
http://www.ee-news.ch/index.php?option=com_content&view=article&id=1513:bahnbrechender-erfolg-der-muehleberg-gegner&catid=14:news&Itemid=34

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