滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

住宅版エコポイント制度、これでいいのか?

2010-02-03 00:14:21 | 建築
先日、機会があって、日本の住宅版エコポイント制度によるエコリフォーム助成について調べたところ、これでいいのか?、と大きな疑問を感じました。国による省エネ改修助成制度の第一歩として前向きに捉えることもできるかもしれませんが、産業振興の視点に偏りすぎたばら撒き、と捉えられてもおかしくありません。

何に疑問を感じたかというと、まず外壁・屋根・床の断熱改修の助成の条件が、「断熱材○立方メートル以上を使用」という大雑把なものであること。例えば、外壁にA1~Cクラスの断熱材を施す場合、最低6立方メートル以上の断熱材を使用することが条件で、それにより10万ポイントが発行される、とあります。あれほど気候地帯にこだわる日本人が、九州も北海道も同じ最低使用量の条件。表面積の大きな家も小さな家も、同じ最低使用量。さらに断熱に最低限の投資しかしない人でも、最適な断熱のために大きな投資をする人でも、助成額は同じです。

例えば東北地方の家で、外壁の表面積が100㎡なら、6cmという(東京ですら)慰み程度の断熱強化でも、大きな快適性と省エネルギー性をもたらす20cm以上の断熱強化でも、同じポイント発行数です(後者には別な補助金がつくのかもしれなませんが・・)。制度を簡易化するためでしょうか。本来は外壁・屋根・床についても、気候地帯別にU値により断熱性能を条件付けし、そのレベルに断熱改修した面積(㎡)毎に補助金を出すべきではないでしょうか。ちなみに東北や北海道に気候の近いスイスの場合、2010年度の断熱改修助成の条件となる外壁・屋根・床のU値は0.2以下です。

窓については、気候地帯別の次世代省エネ基準に順ずることが条件になっていますが、その基準自体が、窓製品の国際的な技術発展(と価格低下)から省みて、非常にレベルが低いと思います。次世代省エネ基準に応じた開口部の性能は、北海道や東北(1~2地域)ではU値が2.33以下になっています。対してスイスで新築・改修において義務化された開口部の最低性能はU値1.0~1.3以下です。窓改修の助成の条件では、ガラスのU値が0.7以下です。気候がより温暖で、日射の豊富な東京でも次世代省エネ基準の窓の断熱性能(U値4.65以下)が悪すぎることは変わりません。窓の寿命が25年であることを考えると、消費者があまりにも守られていないと思います。これはエコポイントの問題というよりも、次世代省エネ基準の問題ですが・・。

新築へのエコポイントも同様に、制度というよりも、条件になる基準に問題があると思います。条件は「省エネ法のトップランナー基準(次世代省エネ基準+高効率設備)」とされており、それに30万ポイントが発行される、とあります。一戸建てに対する補助額としては少ないですが、その条件となるレベルも低いです。そもそも、このレベルの躯体の建物に助成を行うことが必要なのか、と問わなくてはいけないと思います。この10年間で建物の省エネ技術は飛躍的に進歩したのにも関わらず、次世代省エネ基準の躯体の断熱性能は10年以来変わっていません。10年間も任意基準として推奨してきたのだから、高効率設備も含めて、そろそろ義務化すべきです。そうして、「次世代」よりも数倍に省エネ性能の高い建物や再生可能エネルギー設備への交換にのみ、補助金を集中する方が、施策のコスト対省エネ効果がずっと高まるのではないでしょうか。

今、断熱改修をした躯体の部位は、少なくとも次の20年は改修されない(スイスの場合は次の25~50年)と思われます。そう考える時に、今助成されている改修・新築の断熱性能は、その間のエネルギー価格の変化や温暖化対策の中で、住宅の価値を保ち、施主にある程度の経済性の範囲で快適な生活を保証できるものになっているでしょうか?10年後には、再び断熱強化しなくてはならないような、中途半端なものではないでしょうか?そして 2020年までにCO2排出量を確実に25%削減するための役立つツールの1つになっているのでしょうか。

住宅版エコポイント制度を見ていたら、それよりも先に「省エネ法のトップランナー基準」を義務化すると同時に、日本が目指すべき建物の新築・改修のオフィシャルな省エネルギー基準を新に定義しなおすことが、至急に行われなくてはならないのではないか、と思いました。

次回は2010年から内容を改めてスタートした、スイスの10年間の省エネ改修助成プログラムや、州の省エネ建築や設備への助成の概要を紹介します。

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