滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

スイスでも電気自動車の「指数関数的成長」のはじまり

2021-03-17 16:21:06 | お知らせ
19年と20年では全く異なる導入率

 この一年というもの、「指数関数的成長」という言葉は、新型コロナ陽性者数との関連でしか耳にしなかった気がしますが、先日、この言葉が電気自動車(電池式+プラグインハイブリッド)の発展を形容するのにも使われているのを目にしました。それぐらいの勢いで新車市場の状況が変わってきているということです。

 3月頭に実施したMIT Energy Visionのウェビナーシリーズでは、ドイツ在住の同僚の池田さんが電気自動車についての講演を行いました。質疑応答タイムはMITメンバーの全員で対応するので、私は、昨年末に発刊されたエネルギー雑誌の電気自動車特集号を手元に置いて、統計の数字をチェックしておきました。

 しかしドイツの事情を聞いていると、2021年に入ってからの新車導入台数に占める電気自動車率が20%というではないですか。手元の雑誌に掲載されている2019年末の統計の数字には、電気自動車はドイツは約3%(欧州で11位)、スイスは5.6%(欧州で5位)とあります。全然違う数字に焦りました。

 ウェビナー後に調べてみると、18年頃から「指数関数的成長」が始まった結果、19年末と20年末では、ドイツでもスイスでも電気自動車の新車市場での割合は、全く異なる状況になっている事が分かりました。ボーっとしていた自分に反省です。20年末にはドイツでは導入数が一年で264%成長して10.9%へ、欧州トップのノルウェーでは62.4%に達したといいます。(参照:ZSWソーラーエネルギー・水素研究センター・バーデン=ヴュルテムベルク)




図:2020年にスイスで導入された電池式電気自動車の製品別市場シェア。販売台数が最も多いのはテスラのModel3、それにルノーZOE、ヒュンダイKona EV、VWID3、BMAi3が続く。日本車は9位に日産Leafが入っている。
出典:»Elektromobilität in der Schweiz», Swiss e Mobility


スイスでは2020年は電気自動車が14.3%

 スイスの電気自動車推進団体である「スイスeモビリティ」の最新のデータ集(2021年2月発行)によると、2020年のスイスにおける電気自動車の動向は次のようになっています。

 新車導入台数に占める電気自動車の割合は14.3%。そのうち純粋な電池式電気自動車(BEV)は8.3%になります。残りの6%はプラグインハイブリッド車(PHEV)です。前年比での成長率は、電池式電気自動車は約49%、プラグインハイブリッド車は237%になっています。連邦の導入目標は22年までに15%ですので、目標はほぼ達成されました。

 電気自動車に従来のハイブリッド車(プラグなし)を加算すると、新車導入台数に占める割合は、2020年は27.9%になります。ただし、2020年でも第四半期だけを見ると、この割合は37%にもなっており、2021年1月の統計でもその傾向は変わりません。

 スイスでは昨年はコロナ禍の影響により、新車の販売台数自体は24%減りました。ガソリン車は40%減、ディーゼル車は35%減です。そのような中でも、電気自動車の販売台数は増えています。ちなみに新車(乗用車)に占める水素車の割合はわずか0.018%でした。



グラフ:スイスでの2015年~2020年末までの新車導入台数に占める代替燃料車の割合
薄いピンク:BEV、緑:PHEVガソリン、薄緑:ハイブリッド・ガソリン、青:PHEVディーゼル、水色:ハイブリッド・ディーゼル、黄色:天然ガス、濃ピンク:水素
エネルギー庁が発表している代替燃料車の四半期ごとの統計。18年から急激な成長が始まっているのが分かる。
出典:https://www.bfe.admin.ch/bfe/de/home/versorgung/statistik-und-geodaten/kennzahlen-fahrzeuge/kennzahlen-alternative-antriebe-neuwagen.html


2040年には100%電気自動車?

 とはいえ既存の自動車ストックに占める割合を見ると、純粋な電気自動車はまだ0.9%で、ハイブリッド車が2.87%となっていますので、自動車交通の電化と気候中立化までには、まだまだ長い道のりです。

 建物分野では新築には化石エネルギー熱源が基本的に禁止されているのに対して、交通分野では政策的にそこまでできていません。前述した業界団体のスイスeモビリティでは、2035年までの新車における化石エネルギー禁止を求めています。

 昨年末にスイスのエネルギー庁は、2050年に温暖化ガス排出量をゼロにすることを前提とした「エネルギー展望2050+」(既存の長期シナリオの更新版)を発表しました。そのシナリオの中では、新車市場に占める電気自動車の割合は2030年には60%、2040年には100%と設定されています。そして、2050年までに人口が2割近く増えても、電気自動車の台数は、今日の自動車台数470万台よりも少ない360万台で計算されています。

 この気候中立シナリオによる2050年の電力消費量は、電気ヒートポンプ熱源と電気自動車が全面的に普及しても、省エネにより、11%しか増えず、それは再エネにより供給できると結論されています。ただし想定されている自動車の台数からも分かるように、今ある自動車をすべて電化していくのではなく、自動車を出来る限り使わない町づくりやライフスタイルの転換がいっそう進む事が前提とされています。

 電気自動車の「指数関数的成長」はまだ始まったばかりです。スイスのエネルギー庁のホームページには月ごとの導入台数統計が掲載されている事に気が付きましたので、今後はより頻繁に電気自動車の発展状況をチェックしなければと思っています。


写真:私の仕事場の前に一昨年前に大家さんが設置した充電ステーション。レストランの顧客が食事している間に充電できるサービス。


参考文献:
- Energieperspektive 2050+, Bundesamt für Energie
- Elektromobilität in der Schweiz, Swiss e Mobility




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