滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

首都ベルン、脱原発の時期を決める投票前のメディア作戦

2010-11-20 20:39:37 | 政策
スイスの首都であるベルン市とその市営エネルギー会社では、原発との契約の切れる2039年に脱原発を行うことを昨年より計画しています。市営エネルギー会社は、それまでに100%再生可能エネルギーによる電力の安定供給は可能だ、とテレビや新聞で発表しています。

この政策的転換のきっかけを作ったのは、2008年に市に提出された住民イニシアチブ案「エネルギー転換ベルン」です。緑の党が中心となり作成、署名を集めました。このイニシアチブ案では、ベルン市営エネルギー会社に20年以内に100%再生可能エネルギーによる電力供給を行なうことを求めます。別の言葉で表せば、2030年までに脱原発せよ、という意味でもあります。

そして来る11月29日には、この2039年に脱原発するというベルン市のプランと、2030年までに100%再生可能な電力供給をという住民イニシアチブ案の両方が、住民投票にかけられます。どちらでも再生可能エネルギーの時代への転換が加速することに変わりないので、環境団体たちは両方に「Ja」(賛成)票を入れるよう、呼びかけています。
(直接民主制のスイスでは、住民(あるいは国民)イニシアチブ法案が住民投票にかけられた結果は、法的拘束力を持ちます。)

これとは別に、ベルン市を州都とするベルン州では、2012年の2月に同州にあるミューレベルグ原発を更新するか否について、住民の意見を伺う投票が行なわれる予定です。

そんな背景の下、この一ヶ月ほどベルン州にある我が家にも何度か、再生可能エネルギーに関する情報誌が新聞と一緒に織り込まれてきました。いづれも住民投票を前に、市民への十分な情報提供を行なおうというメディア側の意欲が感じられる充実した内容です。

その1つが、ベルン州の4大誌が協力して発行した別冊新聞「再生可能エネルギー」。
14ページの内容は、ベルン市の脱原発と100%再生可能エネルギーの電力供給計画の話題が中心。そのほか、風力、太陽光、生ゴミと下水バイオガス、木質バイオマス、省エネ改修に関する情報提供を行なっています。ベルン市で建設中のゴミ&木質バイオによる地域暖房・発電施設や、ソーラーエネルギー分野の先端で活躍する地域企業の紹介もあります。

もう1つが、「スイスのための新エネルギー~100%再生可能」というA4版の40ページの冊子。
一週間前に新聞と一緒に届きました。「100%再生可能エネルギーなスイスを作ることは既に今日可能だ」というメッセージを伝えます。発行元を見るとバーゼルのクラーテクスト連盟とあり、製作費の75%がバーゼル・シュタット州のエネルギー助成基金から出資された、と書いてあります。エディトリアルはバーゼル・シュタット州の5人の国会議員が共同で署名しています。

なぜバーゼル・シュタット州が出資する雑誌が、ベルン州の家庭に配布されるのでしょう?
その事情は編集後記に小さな文字で書いてありました。バーゼル・シュタット州は70年代から州の法律の中に原子力利用に反対すること、再生可能エネルギー供給を促進すること等を取り込んでいます。厳密には同州は、「あらゆる法的、政治的手段を用いて、州内およびにその周辺に核分裂原理による原子力発電所(中略)が建設されないように努力する」義務を負う、のだそうです。これを行動に移したのが、今回ベルン州で配布された冊子、というわけです。

冊子のメイン記事は100%再生可能エネルギーによるスイスのエネルギー供給のシナリオについて。もちろん焦点は今回の住民投票を意識して、電力供給になっています。それから著名な専門家たちが語る「100%再生可能は可能である」というインタビュー。各再生可能エネルギー源の個別紹介に、プラスエネルギーハウスのルポ。2025年までに再生可能電力に切り替えるドイツのミュンヘンの事例紹介も忘れません。 バーゼル・シュタット州のエネルギー会社は、100%再生可能な電力の供給を行っていますから、説得力はあります。

さて、このメディア作戦、どう功を奏すでしょうか。ベルン市民はどう決断するのでしょうか。月末に住民投票の結果をお伝えします。


短信
その他にも、この1ヶ月間、下記のようなエネルギー関係の情報誌が一般家庭に配布された。

●エネルギー庁の「持ち家主のための別冊版」
国のエネルギー行動計画でエネルギー庁が指揮をとる「エネルギー・シュバイツ」。ここが発行する「持ち家主のための別冊版」は年2回、全国の持ち家主120万世帯に配られる。10月に発行された秋号は、家主に役立つ省エネ情報満載。断熱・省エネ改修についての情報提供や施主の体験談、事例紹介、賢い方法を手取り足取り。三層断熱サッシの説明には一面を裂き「ベターなだけでなく、より安い」と説得。さらに、サッシの施工方法で施主として注意すべき点まで示す。トップ効率の省エネ家電は分野別に紹介をした上で買い替え時期をアドバイス。銀行からの融資情報も3ページに渡る。最後は、「化石時代からの脱出は始まった」というタイトルのエネルギー庁副長官のインタビュー。分かりやすく魅力的な誌面となっている。ちなみにエネルギー・シュバイツの別冊版シリーズは、自治体向けと中小企業向け、持ち家主向けの3種類が発行されている。
http://www.bfe.admin.ch/bauschlau/index.html?lang=de&dossier_id=02080
(ダウンロードできます)

●住宅&エネルギーメッセ新聞
11月には先日報告したベルン市の「住宅・エネルギーメッセ」の案内誌は180万部発行。やはり各家庭に配られた。48ページの冊子の内容は、省エネ建築と断熱改修、再生可能エネルギー源に木造建築とメッセの広告。エネルギー庁長官や各政党代表者、ベルン州のエネルギー大臣へのエネルギー政策へのインタビューも載っている。ミネルギー・P基準とプラスエネルギーハウスというトレンドをしっかり伝えている。

●生協コープの広報誌「ヴェルデ」
10月の生協コープの広報誌に折り込まれていた「ヴェルデ~オーガニックとサステイナビリティのための冊子」。これはコープ社の広告だが、衣食住に関わる同社のオーガニックな製品づくりの背景情報も豊富だ。住に関しては、同社が販売する高度な省エネレベルのミネルギー・P基準の住宅が取り上げられている。その購入者としてスイス人と日本人の若々しい夫妻が紹介されていた。
http://www.coop.ch/pb/site/nachhaltigkeit/node/64675495/Lde/index.html

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