滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

省エネ・エコ建築尽くしの一週間

2010-11-17 21:32:28 | 建築

省エネ&エコ建築視察ツアー

今週は、建築評論家の南雄三先生率いる省エネ&エコ建築視察ツアーを、東スイスの建築にご案内しました。26名という大グループでのハードスケジュールでしたが、何とか無事に視察を終えることができてほっとしているところです。ものすごい熱心さで耳を傾けて下さった参加者の皆様、オーガナイザーの皆様、スイスの建築家やお施主様、どうもありがとうございました。

今回の道中でも、日本では建築にもうすぐ省エネルギー対策が義務化されるが、まだそのレベルは決まっていない、という話が出ました。日本には、少なくとも次世代省エネ基準、できればそれよりも厳しい省エネルギーレベルに義務値を設定して、そこに向かって建設業界の教育キャンペーンを、大々的に繰り広げて行って欲しいものです。

「住宅建設・エネルギーメッセ」

スイスの側でも、先週は省エネ・エコ建築で盛り上がっていました。
まず首都のベルンで毎年の「住宅建設・エネルギーメッセ」が開催されました。この展示会は、もともと施主&地域の業界向けの「ミネルギーメッセ」として始まったもの。スイスの高度な省エネ基準であるミネルギー住宅や、省エネ改修に対応する建材、構造、建築家、再生可能エネルギー源が展示されています。メインの会場がホール2つという小さなサイズにも関わらず、展示内容が充実しており、手軽に最新情報を仕入れられるのが好評です。


Quelle: Focus Events AG

セミナー「プラスエネルギーハウスへの道」

また木曜日には、同じメッセの枠内で建設関係者向けセミナー「プラスエネルギーハウスへの道~基礎、定義、研究開発、国際的傾向」が開催されました。参加したのは建築家、国や州や市の環境やエネルギー関係の方々、エンジニアなど、国内外から240人ほど。様々なプラスエネルギーと呼ばれる建物がスイスで既に作られている他方で、プラスエネルギーの定義や方法については、まだ様々な意見の間で明確な決着がつかないことが分かりました。

また発表した建築家や技術者の間では、パッシブハウスあるいはミネルギー・Pレベルの断熱性能が安定して機能するプラスエネルギー住宅の前提だとする人たちと、それよりも断熱性能の低いミネルギーレベルでも新しい蓄熱・制御技術によりミネルギー・Pやパッシブハウスよりも少ないエネルギー消費量を達成できるとする人たちで意見が分かれていました。スイスでは前者がメインストリームのように思われます。

後者を代表するチューリッヒ工科大学のハンスユルグ・ライブウングード教授は、太陽光と熱を同時に集めるハイブリッドソーラーパネルと地中蓄熱、ヒートポンプ等の組み合わせによるCO2フリー住宅を発表していました。また彼はCO2フリー=ニュークリアフリーであり、チューリッヒ工科大学としてもそういう考えであると明言していました。

EUからは、ベルギー大学のカールステン・フォス教授が、現在進行中のネットゼロエネルギーハウスの定義について話しました。これも、どこで境界を引いてゼロとするのか、様々なエネルギー源の間での差し引きはどうするのか、といった点についてまだ決まっていないが、おそらく個々の建物ではなくネットゼロエネルギー地区、ネットゼロエネルギー都市といった方向に進むのではないか、という内容でした。

来春導入される新基準「ミネルギー・A」

それから、スイスの高度な省エネ建築を認証するミネルギー基準については、ミネルギー連盟から「ミネルギー・A」という新しい基準を来春に導入するという発表がありました。ミネルギー基準にはこれまで普及型のミネルギー、次世代型のミネルギー・P、ライフサイクルにおける環境と健康に配慮したミネルギー・エコ基準の3種類があります。現在ミネルギーは新築の25%を占めます。パッシブハウス、あるいはミネルギー・Pが随分と珍しくなくなってきた今日、間もなくミネルギーがミネルギー・Pに格上げされる予定です。

そのような中、「ミネルギー・A」(アクティブ、アドバンス)は次の次世代基準として位置づけられています。この基準では、ミネルギーの省エネ性能に加えて、建物の建設にかかるグレーエネルギーに制限値が設けられます。同時に、ようやく家電のエネルギー消費量への制限値も加わります。そして暖房・換気・給湯に関しては、再生可能エネルギーによる自給、ゼロ化が求められます。しかし家電エネルギーに関しては太陽光発電によるゼロ化は求められないといいます。大規模建築でも達成できるように、という話でしたが、真相は謎です。
最終的にミネルギー・Aがどのような基準としてデビューするのか、来春のお楽しみです。


短信

●ミネルギー・Pとパッシブハウスのオープンドアデイ
11月13~14日には、ミネルギー連盟とパッシブハウス振興会が共同開催する毎年恒例の「国のミネルギー・Pの日~オープンドアデイ」が実施された。全国各地にある830のミネルギー・P建築のうち、160棟が門戸を開放。来訪者には、施主や建築家が説明を行ない、ミネルギー・Pを気軽に体験してもらう。下のサイトからパンフを見ることができる。
http://www.toft.ch/(オープンドアの家のリスト)
http://www.minergie.ch/bildgalerie.html#tage-der-offenen-tueren(オープンドアデイの様子の写真)

●学生によるプラスエネルギーハウスの祭典~ソーラーデカトロン・ヨーロッパ
2010年夏にマドリッドで開催された、学生達がプラスエネルギー建築の性能を競う「ソーラーデカトロン」の様子が上記セミナーで報告された。予選を勝ち抜いた19の大学の学生チームが、実際にプラスエネルギーの住宅を建設し、その建物に10日間住んでいる状態で展示・評価が行なわれる。評価の対象は、エネルギーパフォーマンスやデザイン、経済性、快適性、構造、ソーラーシステム等の10項目。74㎡の2人用住居、プラスエネルギーのコンセプトが条件だという。今年第二位になったドイツ、ローゼンハイム専門大学の学生達の「IKAROS」プロジェクトは、担当者のマティアス・ワンブスガンス教授によると、10日間の間に508kWhの余剰電力を電力網に供給、そして「ベスト快適性賞」」「ベストエネルギー効率賞」「照明賞」などを獲得した。また熱いマドリッドの気候下で冷却を行ないながらの、快適性とプラスエネルギー化は大変興味深い。同教授によると、参加には最低でも120万ユーロはかかるが、2年間に渡りプロジェクトに携った55人の学生にとっては最高の学習効果があったそうだ。ソーラーデカトロンは、奇数年はワシントンで、遇数年はマドリッドで開催される。
http://solar-decathlon.fh-rosenheim.de/projektdetails/ (IKAROSプロジェクトの写真やヴィデオが見られます)


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