滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

スイスの電力会社の二枚舌にドイツ人と石油連盟もアタック

2009-09-26 23:53:57 | その他
9月上旬、スイスの新聞には石油連盟による4分1面を用いたこんな広告が掲載されています。大きな文字で、
「ヒートポンプはCO2を排出しない? 大間違いです。」
理由は、その脇に小文字でこのように書いてありました。
「スイスのヒートポンプに使われる電力はヨーロッパの輸入電力によりまかなわれており、その電気はkWhあたり100gのCO2を排出しているから。」
スイスの石油業界が電力業界に対してついに鬱憤晴らしか、と少し笑ってしまいました。

というのも、スイスの電力生産は55%が水力、40%が原子力、5%が他の再生可能エネルギー源や火力などとなっており、オフィシャルにはCO2排出量が少ないことになっています。そのためこの10年ほど、電力業界はそれをセールスポイントとして、ヒートポンプの暖房熱源を売りまくってきました。

しかし、これは電力の国内生産=国内消費として計算する場合のこと。ヨーロッパでは電力が国境を越えて取引されているため、必ずしも生産=消費内容ではありません。エネルギー庁の調査では、スイスで消費される電力の内容は、消費電力の41%が原子力、36%が水力、19%が電源不明の輸入電力となっています。どいうことかというと、スイスの電力会社はクリーンな水力電気の半分を、高額なピーク時電力としてヨーロッパに輸出し、その代わりに外国より火力発電や原子力発電の安い電気を輸入しているからです。そのため、スイスで消費される普通の電気の平均的CO2排出量はkWhあたり100gである、とチューリヒ工科大学の研究者グループが発表したのです。

スイスの大手電力会社3社が、国内では温暖化防止を錦の御旗として老朽化する原子力発電所の建替えを積極的に進めようとしていることを考えると、水力の輸出量の多さは矛盾しています。大手電力会社の株の大半が州のものですが、州からの積極的な改善への働きかけはないようです。

また、同じ矛盾する行動でもって、スイスの大手電力会社7社たちは、隣国ドイツの人々から大きな批判を買っています。というのも、近年これらの企業は、次々と周辺国の大型火力発電所の建設に資金参加しているからです。彼らが資金参加するプロジェクトは、イタリア、ドイツ、東欧諸国に約40基が計画・実現されており、うち6基が北ドイツの石炭発電計画となっています。スイスの環境規制では不可能でも、これらの周辺国の法律ではまだ石炭発電が可能だからです。もしもこれらの施設のCO2排出量がスイスのそれとして換算されるとすると、スイスのCO2排出量は現在の2.5倍になるそうです。(新聞WOZ誌9月17日)

さて、スイスの大手電力がドイツの石炭発電に投資する理由は、水力輸出などで大儲けした資金を寝かせておかないために、多様なタイプの発電設備を作っておき、また将来にはスイスにこれらの電力の一部を輸入するためだ、といいます。彼らは、脱原発計画が進むドイツでは石炭発電がしばらくは需要を伸ばすと読んでいるのかもしれません。現に2007年時点で26基の新設が計画されているそうですので。(スイスエネルギー財団)

先週、スイスの首都ベルンで、国会議員グループ「ピークオイル」の公開勉強会が開かれました。その席で、ドイツの環境団体「Forum Umwelt&Entwicklung」のユルゲン・マイヤーさんが、ドイツの石炭発電事情について講演しました。彼は、スイスの大手電力は、ドイツの石炭発電に投資することで大きな経済的リスクを犯していると指摘します。ドイツでは2002年の再生可能エネルギー法の導入以来、電力供給において再生可能電力の割合が既に15%に達成しており、再生可能エネルギー業界ではその割合が2020年までに47%を達成すると予測しています。既にザクセンアンハルト州では40%を、バイエルン州でも30%を達しています。そんなドイツでは、風力により原子力よりも多くの電力が送電網に流れる日も出てきているそうです。

なぜ石炭発電所への投資がリスキーかというと、ドイツでも(スイスでも)、再生可能エネルギーを優先的に電力網に使わせる法律となっているからだ、とマイヤーさんは説明します。近い将来、再生可能電源の割合が増えると、石炭や原子力の大型発電所の電力が送電できない、という事態が起こりうるといいます。その場合に、出力の調整が難しい石炭や原子力の発電所の稼動効率が大変悪くなります。フラウンホーファー研究所によると、2020年に再生可能電力の供給割合は15~95%の間で動くため、石炭発電所の50%が不必要になり、また稼動時間が少なくなるため経済的運営が難しくなると報告されているそうです。(マイヤー氏の講演より)

いづれにしても、ドイツの石炭発電の計画されている地域では市民による反対運動が広がっており、ドイツにクリーン電力を売りつけ、同時に温暖化ガスの排出量の大きな石炭発電所をドイツに建てようとする、(同時に国内では温暖化防止のために原子力を進めようとする)、スイスの大手電力の二枚舌といえる倫理観に欠く行動は、ドイツ市民やスイスの環境団体に非難されています。WWFら環境団体は国に、電力会社が外国の石炭発電に資金参加しないモラトリアムを設けるよう働きかけたようですが、その後の発展は耳にしません。

どうせ外国の発電設備に資金参加するならば、企業経営の重荷になるような大型の石炭や原子力ではなく、広告するイメージと同様にクリーンエネルギーに行って欲しいものです。実際に小規模電力会社ではそういうことを行っている会社もあります。例えば、チューリッヒ市電力では、国内外の風力施設の建設に約180億円の予算を今年の5月に投資することを住民投票で許可しています。

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