滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

中央ヨーロッパの環境団体が原発で温暖化を解決できないと考える理由

2009-09-20 19:07:24 | その他

先日、拙著「サステイナブル・スイス」の読者の方から、次のような「?」を頂きました。p27に中央ヨーロッパの大手環境団体や持続可能なエネルギー需給の研究機関の間では、「原発で温暖化問題を解決することができない」と考えられていると記述しましたが、「その科学的根拠は?」というものです。

特に原子力電力のコストとライフサイクルCO2排出量などの計算は、スイスでも原子力産業よりの研究所や電力会社が採用している数字と、上記の研究機関や環境団体の数字とではかなり異なることがあり、私を含む普通の人間には、計算に採用されたデータや方法までを見抜いて判断することは、ほぼ不可能です。

ですが、このテーマへの見識の深い、ドイツの環境自然保護原子炉安全省やスイスエネルギー財団の資料は、信頼がおけるものと思われます。以下に、そのような資料に共通する論点をまとめてみました。どうぞ参考として、ご覧になってみて下さい。

中央ヨーロッパの環境団体や環境エネルギー専門家による「原発が温暖化問題に貢献できない」主な理由 (出展は下記の資料、講演録等)

・当たり前だが、ウランは埋蔵量は有限で、長期的な電力の安定供給はできない。

・IPCCによると温暖化を2~2.4度以下に留めるために産業国は2020年までにC O2排出量を25~40%、80~95%削減する必要がある。つまり早急な削減が必要である。
それには400億トンのCO2削減が必要だが、うち5億トンを原子力発電(で化石燃料を代替すること)により減らそうとするだけでも世界的に1200基の新設が必要となる。
それはコスト・時間的にほぼ不可能、核拡散防止の視点からも非現実的である。(ドイツ緑の党のJürgen Trittin, スイスエネルギー財団、その他)

・別の数字では、CO2削減目標量の10%を原発で達成しようとする場合、一年に25~34 基の原発を運転開始しなくてはならない。(ダルムシュタット、エコ研究所)だが、西欧向けの圧力容器を作っているのは日本の1メーカのみで、その生産能力は一年に5個である。つまり設備の生産キャパシティ的にも非現実的である。 (スイスエネルギー財団)

・またこのように原発を気候保全に貢献させようとすると、ウラン埋蔵量が今日考えられている70年ではなく18年で使い尽くされる。 (原子力専門家、Klaus Traube, ' Atomenergie-Retter des Klimaschutzes?')

・世界の最終エネルギー消費量に占める原子力エネルギーの割合は2%である。対して再生可能エネルギーの割合は20%、化石燃料が85%である。その原子力で化石燃料を代替することは、非現実的。世界的にも原発台数は減少傾向。そのため、国際エネルギー機関(IEA)も原子力エネルギーは気候保全に貢献できないとしている。(ドイツ環境省)

・ドイツの場合、気候目標を達成する上で、原子力は必要でない。今日既に電力供給の15%が再生可能で、2020年には30%を達成する見込み。それにより、1990年比で、CO2排出量-40%という国の目標は、達成できる。同期間に、ドイツの全ての原発が廃炉になる予定。 (ドイツ環境省)

・原子力発電では排熱利用がほとんど行われていない。そのため電気とは個別に、暖房用熱を生産するのに、化石燃料を用いているので別のところでCO2が発生する。そのため原子力利用によるCO2排出量は、電熱両用のガスコージェネ設備よりも多い場合もある。(ドイツ環境省)

・原発電力はkWhあたり10~130gのCO2排出量がある。これは主にウランの採掘・精製と廃棄物管理により生じる。数字は調査の計算方法、調査の依頼主、ウラン採掘方法などにより大幅に異なる。 (SESによると根拠は'Too hot to handle?' Oxford Research Group 2007)

ドイツ環境省では31~61gというフライブルグエコ研究所の数字を啓蒙パンフレットに採用している。ちなみに、ドイツの風力は23g。

どの報告書でもスイスの水力のCO2排出量が一番小さい。(スイスエネルギー財団)

原発電力のCO2排出量は、ウランの需要が高まるにつれ、ウラン濃度の少ない鉱石からも採掘が行われるようになるため、燃料加工に伴うCO2排出量は将来的に増える。 

・仮に原発のCO2排出量はほとんどないとしても、コスト1ドルあたりのCO2削減量が少ない。省エネルギーは7倍、風力やコージェネは1.5倍のコスト効率。同じ一ドルを払うならば、節電に払うのが最もCO2削減効果が大きい。(ロッキーマウンテン研究所、Amory Lovinsの調査)

・例え原発のCO2排出量が少なくても、それ以外にもたらされる問題やリスクの方が大きい(ウラン採掘による環境汚染、放射線廃棄物の最終処分、十分な保険がかけられていない、外国への資源依存・・等)。そのため原発により温暖化問題を解決しようとすることは、最終的には温暖化防止の目的である持続可能な国や世界づくりに繋がらないため本末転倒である。
対して、省エネルギーと再生可能エネルギーに全力投球する政策は、安全かつ迅速に温暖化防止を進めると同時に、それを産業活性や資源自給など国益に繋げて行くことができる。


文献

ドイツ環境自然保護原子炉安全省の啓蒙情報 

http://www.bmu.de/dossier_atomenergie/doc/43041.php  


スイスエネルギー財団

http://www.energiestiftung.ch/energiethemen/atomenergie/klima/

ダルムシュタット エコ研究所の報告書 

http://www.energiestiftung.ch/files/downloads/energiethemen-atomenergie-klima/koinstitut-darmstadt-2007.pdf


エモリー・ロビンス講演(ロッキーマウンテン研究所)
  http://www.energiestiftung.ch/files/downloads/energiethemen-atomenergie-klima/lovins_vergesst-doch-die-atomkraft.pdf

環境団体連合 Allianz 「Nein zu neuen AKW」(主催 Green peace)、グリーンピース作成の気候と原発報告書

http://www.nein-zu-neuen-akw.ch/de/themen/klimaschutz

WWFスイスのポジション

http://www.wwf.ch/de/derwwf/themen/klima/klimapolitik/energiepolitikschweiz/

 


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