滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

原発周辺の昆虫の奇形を調査する科学画家、コルネリア・ヘッセ・ホネッガーさん

2011-02-12 10:30:07 | その他

スイスは毎日のようにお日様が輝き、東京の冬のようにぽかぽかです。
2月7日はスイスでは女性参政権40周年記念日でした。スイスの国全体では1971年になってやっと、(男性の)国民投票により女性参政権が認められたのです。直接民主主義は、政治に住民が直接参加できて、社会に大きな変化をもたらせる可能性があるという利点もありますが、時としては物事の決定に非常に時間がかかったり、社会にとっては最善ではない選択されうるというデメリット
あります。同じことが、エネルギー政策に関しても言えます。

原発更新の投票戦 ~ 自腹を切って新聞広告する市民
今回でこの話は終わりにしますが、ベルン州の原発更新に関する住民投票がいよいよ明日に迫っています。昨土曜日の「Berner Zeitung」新聞には、たくさんの意見表明の広告が出ていました。反対の広告は7つ。企業や団体の広告のほかに、自腹を切って1個人で出しているものや、100人近くの住民が集まって出資しているもの、50世帯の農家たちのものなど。いづれも全員の実名入りです。

写真:左が地元住民の広告、右が一個人の新聞広告の例


対して、賛成の広告は4分1面を使った大きなものが1つ。こちらも百人以上の実名入りです。スローガンは「ベルンで電気が消えないように」というもの。街頭ポスターと同じデザインで、これには「24時間電力?」「気候に良い電気?」というバージョンもあります。
下:原発更新に賛成派のポスターの1つ(出典:www.muehleberg-ja.ch)

  
上:原発更新に反対派のポスターの1つ(出典 www.atomabfall.ch)

特に駅空間ではポスター広告が盛んです。
私の住むコンサバな村の駅前にもこんな広告が。

ベルン州の再生可能エネルギーと省エネルギー産業に携る60社が結託したキャンペーンのものです。「再生可能エネルギーはベルン州の企業が建てる。原子力発電は違う。新しい原発にはNein(否決)を」と訴えています。これらの企業にとっては、今回の投票結果は死活問題です。原発が更新されるとなればこれらの企業にとっての国内市場は小さく留まり、更新しないと決まれば巨大な仕事量が待ち受けているのですから。

2月5日の生協が家庭に配布する新聞には、スイスの有名なアンケート調査機関であるリンク研究所の調査結果が掲載されていました。「スイスに新しい原発が建てられるべきだと思いますか?」という質問に対して、「44%がNo,19%がどちらかというとNo。13%がYes、12%がどちらかというとYes」と答えています。興味深いのは、女性の方が男性よりもずっとNoと答える割合が多かったという点です。(出典:Coopzeitung „Die Umfrage“, 5.2.2011)

とはいえ、このようなアンケート結果があっても、明日の結果は蓋を開けてみなければ誰も予測できません。

科学画家コルネリア・ヘッセ・ホネッガーさん
今日は上記のテーマとも関連して、スイスの科学画家でアーチストコルネリア・ヘッセ・ホネッガーさんについて紹介します。ホネッガーさんは、25年間チューリッヒ大学の動物学研究所で科学画家として勤務した後、マインツとベルンの大学で教鞭をとっています。透明感があって美しい彼女の動物や昆虫、植物の絵は、博物館に展示されているだけでなく、高級シルクのテキスタイルデザインにも取り入れられています。

こういった仕事の傍ら、コルネリア・ヘッセ・ホネッガーさんはヨーロッパの原子力施設周辺における昆虫の奇形について、長年にわたりフィールドワーク調査を行なってきました。ご本人の許可を得ましたので、その水彩画の中から数点をこのブログに掲載させて頂きます



(図)ベルン州ミューレベルグ原発周辺の二匹のホシカメムシ。左の個体は左の羽が曲がっている、右は矮小。©Pro Litteris

(図)ソロトゥーン州ゲスゲン原発近くの奇形のメクラカメムシ。©Cornelia Hesse-Honegger

(図)ゲスゲン原発近くのメクラカメムシの頭部。左の目が奇形。© Cornelia Hesse-Honegger

コルネリア・ヘッセ・ホネッガーさんは、これまでに1.6万個体のカメムシの調査を行なった結果、通常の奇形率が個体群の1~3%なのに対して、原子力施設の周辺での奇形率は異常に高く、場合によっては30%に達していることを観察しました。彼女の意図は自らのフィールドワークをきっかけとして、原子力発電所から出る放射能が環境や人間に与える影響について中立な調査が行なわれることです。
★ コルネリア・ヘッセ-ホネッガーさんのホームページ(英語) http://www.wissenskunst.ch/en/schweiz.htm


最後に、原子力物理学者でミュンヘンのマックスプランク物理研究所の元所長であるハンス・ペーター・デュール博士の言葉を引用します。
「原子力物理学者として、原子力への絶対的なノーを意味する理由を一つだけ述べる:我々人間は、最大可能な事故において、我々が責任が負えない被害を及ぼす技術は、一切開発すべきでない。この要求は、どのような確率が事故発生に関して計算されたかに一切関わらず、有効でなければならない。」
( Prof.Dr.Hans-Peter Dürrの著書 „Warum es ums Ganze geht – Neues Denken für eine Welt im Umbruch.“より, Oekom-Verlag, 2009)


お知らせ
 
ドイツは本当にFITで失敗したか」~村上敦氏が語る
日本の知人より、ドイツではフィードインタリフ(再生可能電力の固定価格買取制度)が失敗した、という意見が広まっているという話を聞いて驚きました。私がスイスから見る現実は、そのような噂とはかなり異質だからです。下記のサイトでは、ドイツで活躍されているジャーナリストの村上敦さんが、ドイツのフィードインタリフの状況を現場から報告していますので、興味のある方は是非読んでみてください。
「ドイツは本当にFITで失敗したか」(ジャーナリスト村上敦さんのブログ)
http://blog.livedoor.jp/murakamiatsushi/
スイスでもドイツ型のフィードインタリフは、再生可能電力を増産するためには、非常に有効であると認識されています。

● 木質バイオマスエネルギーを使う暮らしの入門ハンドブック
1月に岩手木質バイオマス研究所により、木質バイオマスエネルギーの普及書として「森のエネルギーで暮らす」が出版されました。B5判で図版や写真が豊富で、木質バイオマスの初心者にとっても分かりやすい内容となっています。作成したのはスイス-日本エネルギー・エコロジー交流の方々です。私もその中で10ページほど、スイスの木質バイオマスエネルギー事情を紹介しています。このハンドブックは一般販売はされていませんが、別タイトルの販売用バージョンを下記で購入することができます。作成チーム一同、特に女性に読んで頂きたいと思っています!


「薪ストーブで暮らす」河北新報出版センター
スイス-日本エネルギー・エコロジー交流会編
http://www.kahoku-ss.co.jp/makistove.htm


短信

●2050年までに100%再生可能エネルギーによる世界は可能
エネルギーコンサルタント事務所のEcofysGermany社とWWFが、報告書「The Energy Report」を発表した。その中では、全世界のエネルギー需要は2050年までに100%再生可能エネルギーで持続可能に供給していけることが示されている。Ecofysは、省エネ・再生可能エネルギー分野での25年来の経験をもとに、世界中のエネルギーシステムの全セクター、全地域、全エネルギー源の技術的、社会的、経済的な発展を調査した。その結果、再生可能エネルギーは十分にあることを証明。既存の技術を用いて、厳しい持続可能性の基準を満たしながら、世界のエネルギー需要の95%を、2050年までに再生可能エネルギーで担っていくことができるという。しかし、いくつかの生産プロセス(例えばセメントや鉄の生産)だけに関しては、化石エネルギー源の特性が必要であり、今のところ再生可能エネルギーでは代替できないという。このレポートは下記のサイトから英語版PDFをダウンロードすることができる。
http://www.ecofys.de/
参照:ecofys社プレスリリース

 ●フォルクスワーゲンが1ℓカーを発表
フォルクスワーゲン社がカタールのモーターショーで2013年から生産予定の1ℓカー「XL1」を発表した。100kmを0.9リットルのガソリン消費量で走る二人乗り、プラグインハイブリッドカーだ。昨日、ベルン市でドイツの著名のジャーナリストであるフランツ・アルト氏の講演を聞いた。その中でアルト氏は、フォルクスワーゲンは2003年には既に1ℓカーを開発していたが、販売されず、博物館行きになったと話した。技術はとっくにあっても販売されないのは、ドイツの自動車業界が石油産業の大きな影響下にあるためだ、とアルトさんはいう。また、今回の1ℓカーも、2013年度の一年の生産予定台数がたったの300台ということで、アルトさんはこれは単なるイメージ戦略、「グリーンウォッシング」に過ぎないと批判した。
参照:
www.ee-news.ch

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