ちょっぴり腐女子な、つれづれ愚痴日記

 ぐだぐたな日々を愚痴りつつ、のんびり綴っています。気が向いたときに更新。

『渡高』を初めて書いてみた。1

2020年04月04日 | 腐女子ネタ

※ 設定の説明…。とっても上手な二次創作をされる方のお話が、とっても面白かったので、設定だけ借りました。えっと、生まれたときはみーんな猫耳と猫しっぽが付いていて、性交渉で両方を失うというので、「ミミ付き」は経験無しということ。だけど、まれに耳と尻尾がとれない人もいて、高階先生はその貴重な人間です。

「起きろ、ゴン。遅れるぞ」
 ムニャ。論文作成やら研修医の指導、患者のオペにカンファレンス。多忙な大学病院でも、多忙を極めていると言える渡海の恋人は、今日もベッドとなかよしだ。いつまでも寝ていたいのは、よーく分かるが、いい加減、起きないと。
「おーい。今日のオペ、誰が執刀するんだ?」
 ピコッ。布団から覗く猫耳が動いた。その後、もそもそと布団が動いて、大あくびをしながら、耳の持ち主が顔を出した。
「眠い…」
「はいはい…。でも、もう起きような」
 渡海は布団中で、もぞもぞしている細い体を起こすために、布団をめくった。
「…おは…ようございます」
 ふあっと、あくびをしながら、頭の上にある猫耳がぴこぴことさせて、挨拶をする。この辺は優等生だ。目を手で2、3回こすった後、うわっ!と叫ぶ。続いて、
「遅刻するじゃないですか!」
と叫んで、わざわざおこしてやった渡海など目もくれずに、洗面所に駆けて行った。俺は何度も起こしたからなと、渡海は呟くと、キッチンへと戻った。朝一から手術が入っている高階だ。昨夜帰宅したのは深夜だったので、ちょっかいを出さなかったのは、渡海なりの思いやりだ。朝ぎりぎりまで寝かせてやりたかった渡海は、柄にも無くおにぎりを作っていた。それでも、食べる時間があるのか怪しい。
 まあ、車の中で食ってもいいだろう。そう考えると、渡海はプラスチック容器の中におにぎりを入れ、ついでに作ったウインナーと卵焼きを入れた。

「もう少し早く起こしてくだされば…」
 文句を言いながら、あたふたと戻って来た高階は、きちんとネクタイにスーツ姿だ。このあたりが、ずぼらな渡海とは違う。
「疲れていたんですかねぇ。まあ、仕方ありません」
 自己完結した高階は猫耳をぺたっと倒して、反省のようだ。
「車で行くから、取りあえず、食っとけ」
 普段は体力作りを兼ねて、二人とも自転車通勤だ。外科医は体力勝負なので、病院へ向かう坂はいいトレーニングになる。とは言っても、今日は間に合わないので、渡海はくだんの容器を高階に渡すと、車のキーを手にして、玄関へと向かう。慌てて付いてきた高階が、えっ! 征司郎さん、ありがとうございますとお礼を口にすると、猫耳がピコピコ動いた。
 可愛い。いい歳をした男に使う言葉では無いが、可愛いものは可愛い。



猫の日(小ネタ)

2020年02月23日 | 腐女子ネタ

 2月22日をニャーニャーと掛け合わせて『猫の日』だというのを、つい最近知ったオレンジの責任者は、いろんな日があるもんだと軽ーく思った。大学構内ではたまに猫の姿を見かける。別に誰かの飼い猫では無いのだろう。警戒しながら走り去っていく姿を眺めるだけだ。
 セラピー犬はいるが、セラピー猫というのは聞かない気がする。まあ、猫は勝手気ままに生きる生き物だから、色々な規制がある仕事は向かないに違いない。

「速水先生。桜もちの谷口先生から電話です」
 桜もち? 最近、うちのありすも世話になっていないし、二階のセラピー犬がトラブったという話も聞いていない。何だろう。と思いつつ、外線を受ける。
「速水君。久しぶりだね。元気かい?」
「お久しぶりです。元気ですが…」
 と答えつつ、誰だ?と記憶のタンスをひっくり返す。
「公平君も相変わらずのようだね」
 公平君。公平君って、誰だったけ?
「公平って、田口ですか?」
「もちろん、僕の先輩だった田口先生の息子さん。君の嫁さんだろう。先輩がアフリカでゾウの孤児院で、うちの息子が嫁に行った!って叫んでいたからね。周りは良かったですねぇって、たくさんのお祝いの品をあげたら、先輩は嬉々として日本に送っていたけど何か貰った?」
 いったいいつの話だ。とは思いつつ、リビングに掛けられている田口の物とは全く考えられない精密なサバンナの絵が彫られている額を思い出す。アフリカを知らない者には書けないだろうと思えるほど、生き生きとした動物たちの姿は、速水のお気に入りだったりする。すっかり忘れていたが、田口の父親は野生動物専門の獣医だ。
「その節はお世話になりました。で、今日のご用件は何でしょうか」
「ああ。君の所の二階に子猫を連れて行っていいかな。うちの院生が猫によるセラピーに関する研究をしていてね。一般の子どもの反応については付属小学校でサンプルが採れたが、それだけではインパクトが足りないから、小児病棟の子どもたちもサンプリングさせて貰えないかと」
「奥寺教授は何と?」
「君がオレンジ新棟の責任者だから、君からはんこ貰ってね、だそうだ」
「……奥寺先生がOKなら、いつでもはんこは押しますよ。でも、感染とかの危険は無いように十分管理をお願いします」
 オレンジ新棟の責任者は、時として上の階の小児科、果ては産婦人科の病棟としての活動に関する許可が申請されるのだ。内容を見てもサッパリということも、速水にはある。
「分かっているよ。あとで、書類を送るからはんこ、よろしくね」
 面倒くさい。と思いつつも、はいと返事は優等生よろしく返す。

「と言うわけで、猫が来るらしい」
「猫?」
 田口が怪訝な声を上げた。
「お前んとこの親父さんの後輩から、二階に依頼だとさ」
「じゃあ、変な人だ」
 田口が断言したので、速水はへっ?となった。
「うちの父さんは野生動物命で、今でもアフリカだからな。その後輩も押して計るべし…かな」
「猫だから、変でも無いだろう」
 田口手作りの弁当を医局で食べているので、速水の言動もごくノーマルモードだ。ちなみに、先ほどまでガツガツ弁当を食べて、ヘリと一緒に飛んでいった和泉の弁当も田口作だったりする。
「本当に猫なのか? ランオンとか、トラとか、ホワイトタイガーとか、猫にはいろいろいるんだぞ」
「まさか。ライオンなんているわけ無いだろう。桜もちだぞ」
「いや。桜もちだから怪しい。俺が子どもの時、父さんが連れてきたのはホワイトタイガーに、ライオンに、ジャガーにヒョウに…。あと、アリクイにダチョウの雛もいたっけ…」
 遠い目をして、次々と動物名を挙げる田口に、速水は再度確認をしなくてはと思った。

 ※『猫の日』もっとニャーニャーできたら良かったのですが、他の方が田口に猫耳が生えた話などを書いていらっしゃったので、かぶるのはなぁと思ったら、こんなのしか出てきませんでした。そう言えば、夜になると、猫の縄張り主張の声が『うにゃー』と聞こえます。春近しですかね。
 それにしても、私の新車をトイレ代わりにする鳥たちに困っています。


お昼寝(小ネタ)

2020年02月19日 | 腐女子ネタ

 ※前回、見ている人がいる?と書いたら、いるよとの合図がありました。見てくださる方、ありがとうございます。こんなの書いている暇があったら、仕事しろよとどっかからか突っ込みが来そうですが…。現実逃避、楽しいじゃなーいですか。というわけで、前回の続きです。

 田口が遠慮がちにうたた寝をしたと反省しつつ、目を覚ませたとき、なぜか隣で速水がすうすうと眠っていた。起きているときは何かに追われているような、獰猛な目をしている将軍だが、今は無防備に眠っている。
 睫毛長いよなぁ。鉛筆を乗せたら乗るかも…。こいつの顔はハンサムと言うより綺麗系だよな。日に当たらないから、色白だし。体力勝負の外科医であり、中学高校大学と剣道部で鍛えられているので、それなりに体格もバランスがいい…。背も高い…。髪の毛、さらさら。
 性格はあれだけど…。
 田口は速水を眺めながら、どうでもいいことを思っていた。要するに、現実逃避しているのだ。
 端から見れば、いい年の男が、これまた、机で寝ている男を凝視しているという、少々、寒い絵である。が、そこは極楽病棟。こんな光景は日常茶飯事なので、いつの頃からか看護師間では、抜け駆け禁止の極秘協定が結ばれている。こんな無防備の将軍を間近で見られるのは、田口がいるからだと彼女たちは肝に銘じている。

 『田口先生。兵藤先生がオーダーし忘れている薬を代わりにお願いします』
 『研修医の仕事、兵藤先生は確認終わっていますか?』
側を通りがかった看護師が、付せん紙を田口の前に貼り付けた。
 兵藤。院内をうろうろしている暇があったら、きちんと仕事しろ。研修医の仕事のチェックはお前の役目だろう。頭痛がして来る。何で俺の周りには、手の掛かる奴ばかりが揃っているんだ? 田口は半分、ため息である。とは言っても、看護師を敵に回すのは世界を敵に回すのと同じなので、黙って頷く。
 カンファレンス机の壁側に設置されているパソコンの前に座り、病室ごとに患者のカルテを呼び出す。電子カルテになってからは、治療方針や使っている薬、診察記録などが一画面で管理できるので、オーダー忘れやミスが減った。そして、誰がそれを指示したのかも、改ざんできないようになっている。しかも、他の科で処方された薬や既往症、アレルギーの既往なども一目で分かるようになっている。いつでも、誰が見ても患者情報が的確に把握できるようになったのは、とても重要だ。
 しかし、個人情報保護から、医師や看護師は自分のID番号でしかアクセスできない。ついでに言えば、薬の処方も医師が指示しないと、処方箋が発行されないため、薬剤部から薬が届かない。ちなみに東城大学医学部では、医師個人個人のID番号は、首から掛けているストラップに院内専用携帯電話と一緒にカードで下げている場合が多い。胸に下げている名札は、所属や名前を外部の人間に分かるようはめている。
 兵藤のバカヤロウ。このツケは大きいぞ。と、田口は呪詛のように、小さく呟きながら、薬剤のオーダーを入れていった。4人分すべてをいれてしまうと、指示が間違っていないかAIに確認させてから、OKを出す。
 あんなのが医局長って、誰が決めたんだよ。と昔、速水が文句を言って来たことがあったが、田口が自分から医局長のポストを譲ったと言ったら、ものすごい剣幕で怒鳴られたことを思い出す。
 若かったなぁ。お互いに…。と田口は眠る速水を見ながら思う。

 起きた速水の首に掛かっているストラップに、携帯電話とIDカードとともに銀色のリングが付いているのに周りが気づくのは、もう少し先の話。

 

 ※疲れています。年度末になりつつあって、仕事が山積です。夏からいろいろ修羅場っていて、切りに行けなかった髪の毛が限界かも。Lunaの行きつけの美容院は予約しないと対応してくれないけど、予約できる日の予定が立たない。職場では、ノートパソコンとiPadを持って、うろうろ。転勤の可能性もあるので、何から手をつけるとよいのやら…。
 
 


癒やして欲しい(小ネタ)

2020年02月16日 | 腐女子ネタ

※ タイトルに『腐女子ネタ』と入れるのが面倒になったので、小ネタに変えました。内容は相変わらずです。誰か見ているのでしょうか。(自己満足なので気にもしていませんが…

 この所、冬にもかかわらず、暖かい日が続いていたので、速水の気分はよかった。オレンジもほどほどの忙しさで、適度な緊張と平和を保っていた。

 が、一気に気温が下がり、ヘリ搬送の患者受け取りヘリポートに行ったら、体の芯まで冷えた。今日はヘリの迎えを止めよう。
 そんな気持ちになった所に、虐待されたと思われる乳児が運ばれて来た。
 ああ。やり切れない。子どもが欲しくてもできない夫婦や、病気で子宮摘出をして絶対に子どもを産むことができない女性からすれば、理解できない状態に違いない。独身の速水ですら、オレンジ2階の子どもたちに対して、誰一人として叩いたりしようと思ったことは無い。
 何とか、命は取り留めた。だが、後遺症が残らないとは保証できない。意識が戻らない乳児は二階の小児科に送った。後で警察が来るに違いない。

 疲れた。速水は部長室のモニターを見つめつつ、息をゆっくり吐いた。癒やされたい。

 思いついた速水の行動は早い。部長室を出ると、医局に行き、だらだらと休憩をしている長谷川に、
「極楽病棟に行ってくる」
と言い残して、そのまま、オレンジを後にした。

 本館12階。神経内科の病棟は別名、極楽病棟と呼ばれている。天国に一番近い場所にあるのと、血みどろの現場がほぼ無いのと、ドア・トゥ・ヘブンという特別病室があるためだった。
 速水が到着したとき、相変わらず、のんびりとした雰囲気が漂っていた。この病棟も付属病院の一角なので、決して病気が軽い人たちが入院しているわけで無い。それでも、外科のような慌ただしさやひっきりなしに鳴り響く数多くのモニターの音はほとんど聞こえない。
「救命の速水だが、田口先生は?」
 田口がらみで顔見知りが多い病棟だが、この所ご無沙汰気味だったので、一応、挨拶をかねて、ナースステーションに声を掛けた。
「…速水…先生…。田口先生ですか?」
 自分の名前の端々に入る沈黙が気になったが、それはスルーする。
「今の時間は病棟にいると、勤務表で確認したんだが、外来にいるのか?」
 不定愁訴外来が長引いている可能性も考えられた。が、
「いえ。そこにいらっしゃいますが…」
「ならいい」
 歯切れの悪い看護師を無視して、速水は勝手知ったる神経内科のナースステーションに入る。看護師たちの作業机を通り越して、奥のカンファレンスなどをする場所に行けば、広いテーブルに顔を乗せて眠っている田口がいた。
 仕事中に何、呑気に昼寝だよ。こっちは毎日毎日、消えそうな命の引き留めに苦労しているというのに。
 一発引っぱたいて起こしたいのを、ナースステーションからの視線に気づき、速水はぐっと堪えた。
 無防備に田口は寝ていた。自分の腕を枕に、どんだけお前は疲れてんだよと文句の一つも言いたくなる。ちなみに、速水は白である。ここ三日ほどオレンジに泊まり込みで、家に戻っていない。そんなわけで、田口と会えたのは昼食時のみ。しかも、直ぐ、オレンジからの呼び出しが掛かり、即行で戻った。
 要するに、田口不足だったのだ。
「あーんどん。起きろ」
 耳元で声を掛ければ、うーんという呟きが返る。ふわふわした髪がほんの僅か揺れる。もう一度、
「あーんどん。起きないとキスするぞ」
と言ってみる。
「うん。いいけ…ど」
 寝言のような返事。可愛い過ぎて、速水は田口に抱きつく。その途端、
「重い…速水。って、何してんだ!」
と田口が起きた。
「何って、仕事中に昼寝をしているお前が悪い」
「……。取りあえず、ごめん。で、何の用?」
 まだ、頭を机に載せたまま田口が尋ねる。半分、眠そうな目で。
「お前がいないから…」
「……」
 はいはいと、田口が速水の頭を撫でる。
「忙しかったんだから、お疲れ」
「ん…」
 大人しく速水は田口の手の下で、目を閉じる。撫でられているだけで、今までの疲れや悲しみや辛さが減っていく気がする。
「…今日、虐待された乳児が運ばれて…」
「うん」
「小児科に上げたけど…」
「うん。大丈夫だよ。その子は分かっているよ。お前が助けたことを」
 田口の手がぽんほんと頭を叩いた。田口が大丈夫と言うのなら、大丈夫なのだろう。速水はゆっくりと田口の隣で、同じように机に頭を乗せて、目を閉じた。
 次に目を開けたとき、また、やれると思った。


バレンタイン(腐女子ネタ)

2020年02月14日 | 腐女子ネタ

 バレンタインデー。世の中は義理チョコに本命チョコに、友チョコに……。名目は色々あるが、チョコが乱舞する日である。

 ここ東城大学医学部付属病院でも、例外は無かった。特に田口はこんな日にうろうろ病院内をうろついたが最後、次々と声をかけられ、お供え物、もといチョコを貰う羽目になる。若いときはそれなりにチョコを貰うと嬉しくて、同期と数を数え合ったこともあった。しかし、長年、大学病院にいると、徐々に同期は様々な理由で病院を去り、残ったのは教育熱心な奴か、研究に邁進する奴か、教授の覚えめでたい奴か、技術は素晴らしいが、人としてはどうよという奴ぐらいだ。
 なので、本日は極楽病棟にこもっていた。にもかかわらず、紙袋いっぱいのお供えの数々が就業時間までに溜まった。藤原にも持って帰って貰おうと思ったが、太りたくありませんので、これでいいですわと彼女が貰ったのはほんの少しだけ。
 仕方なく、田口はお裾分けをすべく、オレンジ新棟へと向かった。

「速水。今暇?」
 途中で、速水に電話を入れる。
「…お前なぁ」
 なんとも言えない返事が返った。
「あっ、ごめん。暇なわけないか」
 ついつい、田口は自分の病棟の感覚で声を掛けてしまった。
「まあ、今は比較的落ち着いているかな。それより、何か用か?」
「今から、ちょっと顔を出してもいいか?」
「ああ」
 速水が二つ返事で答えたのを聞いて、田口は紙袋を持って、オレンジの入口をくぐった。

「こっちだ行灯」
 速水が田口に手を振った。
「ああ。速水、これお裾分け。医局のみんなが食べてくれるといいけどさ」
 田口は速水にチョコなどが入った紙袋を渡した。
「…行灯。えらいもてようだな…」
 呆れと感心を込めた速水の声に、田口は軽く首をすくめた。
「義理チョコと友チョコと、お供えもの?で、お前がもらうような本命チョコはないからな」
「あったら、俺がすぐさま、持ち主に返しに行くぞ」
 物騒な台詞を口にする速水に、田口はさすが三歳児と感心する。が、実行されては困る。
「とにかく、これは医局に差し入れだから、一人で食べるなよ」
「はいはい」
 軽く速水は返事をすると、ちょうど患者の様子を見に来た滝沢に、
「滝沢、これ田口から、お裾分け。医局に置いとくぞ」
と声を掛けた。
「ありがとうございます」
 きっちり頭を下げてお礼を言う滝沢。随分とここに馴染んでいる。
「いい後輩が育っているな」
「ああ。色々な意味でいい男だ。まっ、俺には劣るがな」
 田口にウインクをして、速水が笑う。はいはいと田口は軽く受け流す。でないと、何と言って絡まれるか分かったものじゃない。
 部長室に着いた田口は、あちこちに散乱する書類に眉を潜めつつ、簡単に片付けを始めた。秘書を速水につけて欲しいと、改めて田口は病院長に要望しようと思う。
「速水はチョコ貰っていないのか?」
「ああ? 上のちびっ子たちからは色々貰ったけどな」
「小児科?」
「ちょっと前に、上から来てくれコールが掛かって行くと、病室回りをさせられた」
「そりゃ、大変だったな」
 まあな。と、速水は優しい顔で笑った。さらに、貰ったチョコはそこにあると、指を指した先に、リボンがついたバスケットが置いてあった。
 田口が見に行くと、ラッピングされた色々な形をした可愛いチョコが入っていた。中には、メッセージが付いている物もある。
「お返しが大変だな。毎年のことだけど…」
「仕方ないよな。やるというのを断るわけにもいかないし…。で、行灯君は俺に本命チョコは無いのかよ」
「有るけど、ここには無い。家に帰ってからな」
 救命医としての速水は尊敬するに値するが、性格は何かと面倒な男だ。長年の付き合いで扱い方を心得ている田口は、ここで彼がふて腐らないようにしておかないと、オレンジの天気が急降下するのを知っていた。
「……」
「けど、前払いで」
 と言いつつ、小さなチョコの包みを手に乗せて、速水の目の前に差し出した。さらに、彼が口を開く前に包みを開けて、チョコを摘まむと、
「はい、あーん」
と言いながら、速水の口へと持って行く。途端に、パクッとチョコごと指が速水の口の中に消えた。
「指、離せ!」
 慌てて田口が叫べば、あっさり解放される。
「油断も隙も無い…」
 ぼやく田口に、速水は盛大なため息をついた。
「そりゃこっちの台詞。行灯のくせに俺を煽るな」
「…うう。ごめん」
 ここは素直に田口は謝る。
「まあ、可愛いから許すけどな。後で覚えていろよ」
 不敵なまでの速水の凶暴なフェロモン垂れ流し笑顔に、田口は腰が引けた。が、ここで逃げればいいのに、田口はにっこり笑った。なんだかんだ言っても、惚れた弱みである。

「帰り、迎えに寄るからおとなしく愚痴外来で待ってろよ」
 速水は田口を抱き寄せると、少々濃厚なキスをした。

 ※バレンタインネタでした。以前、サイトで書いたことがあったかなぁと思い確認しましたが、大丈夫でした。が、以前に書いた速水先生のキャラが今と違う気が…。まあ、時の流れと言うことで。