ちょっぴり腐女子な、つれづれ愚痴日記

 ぐだぐたな日々を愚痴りつつ、のんびり綴っています。気が向いたときに更新。

梅雨の合間。(小ネタ)

2012年07月08日 | 腐女子ネタ

 ずっと梅雨で、世間がじめっとしていたので、快適な空調に保たれているはずの院内も、なんとはなくじめっとした雰囲気になっていた。とは言っても、オレンジは外の雷雨などまったく聞こえない。
「あーあ。こんなに天気が悪いと洗濯物が乾かなくて困る」
「そうそう。まとめて洗濯したら、着替えどころか干す場所もなくなって、家中、洗濯物だらになっている」
「ぜったい、友達呼べない状態よ」
「俺、今度のボーナスで乾燥機つきの洗濯機に買い換えようって思っている」
 コーヒーをすすりながら、長谷川が呟いた。
「…私、それ去年の冬のボーナスで買った。確かに便利。夏のボーナスで、食器洗い機を買ったから、結構、家事が楽になった」
 和泉がすかさず言い始めた。
「あと自動でご飯を作ってくれる機械ができないかなぁ」
「そりゃ、無理だろう」
「わかっているけど…」
「けど、できたら便利だよな。ここにも一台置いて欲しい」
「でしょ。あと、どこでもドアも作って欲しい」
 カタカタとパソコンを打ちながら、器用に和泉がぼやく。それに相槌を打つ長谷川も、パソコンを打っている。佐藤はそんな二人を、器用な奴らだと感心しながら専門書を広げていた。
「ああ。そう言えば、速水先生が昨日、珍しく慌てていた理由って、長谷川先生、ご存知でしたか?」
 速水の追っかけが趣味の和泉が、キーを打つ手を止めて、長谷川に尋ねた。
「いや?」
「佐藤先生は?」
「知らん」
「何だったんだろう。絶対、行灯先生、絡みだと思ったんだけど…。田口先生、当直だったのよね」
 速水の慌てる陰に田口有り。これはオレンジでの言葉だが、今回ばかりは外れたのだろうかと、和泉は首を捻った。
「あの人だって、人間なんだから、慌てることもあるだろう」
「うーん。そうだけど、あの慌てぶりは普通じゃなかった」
「けど、今日は普通にしているから、大したことじゃなかったんだろう」
「そうかも…」
 そう言いつつ、和泉は元の作業に戻った。

「それにしても、お前の所のスタッフは、お前のことでここまで盛り上がるんだからたいしたもんだよな」
 田口が部長室にあるモニターの前で呟く。今日の彼は、先日の会議を欠席した速水に、業務連絡を伝えに来ていた。ちなみに、これは田口がしたくてしているわけではなく、腹黒狸の指令だった。
 速水の方は田口が来ているので、オレンジ内の音声スイッチを全てオンにした。目で確認できない分を、耳でチェックしようというわけだ。ついでに、医局の音声モニターのスイッチを入れたので、和泉たちの会話がすべて部長室に流れていた。

「俺はあいつらが何をぼやこうが、すべきことをすればどうでもいい」
 速水はのんびり答えた。このあたりが、さすがジェネラル・ルージュだ。周りの自分に対する評価など、まったく意に介さない。強いなぁと、田口は思う。
「彼らはいつでも、お前が音声チェックできるって分かっているんだよな?」
「ああ。けど、俺があいつらの会話を監視しているとは思っていないだろうから、言いたい放題だ。たまには、意識して俺に聞かせたいっていうときもあるようだがな」
 目をこすりつつ、速水があくびをした。田口が側にいると、基本、速水の緊張は解除されてしまう傾向にある。
「じゃあ、後で俺から佐藤先生に、“昨日の速水の大慌ての理由は、午後から大雨だと言われていたのに、朝から日が差していたから、ベランダに洗濯物とありすを出しっ放しにしていたのを、大雨になったからだ”って言ってもいい?」
 田口がいたずらっぽく笑うと、
「洗濯物はいいが、ありすは駄目だ。ありすを邪険にしたって分かった日には、2階のガキどもとと桜もちから嫌味の矢が容赦なく降りかかるんだぞ。それにあれは絶対、天気予報の方が変だ。あんなに日が差していたのに、大雨なんて…普通、予想しないだろう」
 速水が反論する。
「今の天気予報はかなり正確なんだよ。お前の野生の勘なんて、天気には当てにならないんだから、これからは科学の力を信用しろよ」
「へいへい。わかったから、ありすのことは黙っとけよ」
 よほどありすのことは黙っていたいのだろう。誰もが子どもと動物には叶わないのが、よく理解できる田口だった。が、速水はびしっと、田口を指さして言い切った。
「わかったよ。ありすの件は伏せておくけど。次、オレンジがお前絡みで殺気だったとき、こっそり噂を流すからな」
 田口は速水に暴走しないよう釘を刺すのは忘れなかった。
「はいはい。どうせ、俺はお前の格好の餌食ですよーだ」
 いじけたふりをして、速水は田口にウインクする。いい男がフェロモン垂れ流しでするウインクの迫力に、田口は固まる。
「うっ……」
 速水は田口が真っ赤になったのに気づくと、さらに田口をからかおうと壮絶な流し目を向けた。
「…速水…」
「恋愛音痴の行灯が、俺に叶うわけわけだろう。ほら、こっちに来いよ」
 殺気までの眠気もどこへやら、速水は照れる田口を捕獲すべく触手を伸ばす。
「田口、…愛している」
「うっ…」
 田口陥落かと思った時、
「田口せんせー、こっちにいるんですか-?」
という間抜け声と共に、ドアがバタンと思いっきり開けられた。
「厚労省の…」
「…速水せんせー。相変わらず、いい男ですねぇ」
「白鳥さん…」
「なーに。二人でびっくりしているの? 今日は美味しいお菓子を持って、遊びに来たのに。あれっ? グッチー、顔真っ赤? 病気?」
「…帰れ。 用はない」
 速水の低ーい声がしたが、白鳥は聞こえなかったのか、ずけずけと二人の側にやって来た。
「じゃあ、俺はこれで。あとはよろしく~」
 そして、田口は脱兎のごとく将軍の部屋から逃げ出した。