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「行灯。あのチーズ、珍しい味がしたけど、まあ、美味しかったかも」
珍しく、定時に帰宅した速水が呟いた。
「チーズ?」
「うん。冷蔵庫の卵ケースのそばに残っていた奴…」
「卵?」
田口は卵のそばに、チーズなんてあったっけ?と首を捻った。
「ブルー・チーズ? 青カビが生えた奴。お前もちょっとはいいセンスを持つようになったんだと、感動したぞ」
いい子。いい子。と田口の頭を撫でんばかりの速水のご機嫌さに、田口はん?と考える。ブルー・チーズ? そんなものあったっけ? 買った記憶にはない。
「チーズは生協のチーズしかないはずだけど。そんなのあったっけ?」
田口は冷蔵庫の中身を思い出しつつ、確認のために冷蔵庫のドアを開けた。そして、卵ケースの側を眺める。
こんなところに、チーズがあったけ? しかも、ブルー・チーズ? 青カビまみれのチーズなんて、高いばかりで美味しいとは思わないので、田口は買わない。
「お前、更年期か?」
「…。俺はブルー・チーズななんて、買ってないぞ。お前が買ったんじゃないのか?」
「俺? そんなの買う時間があるなら、お前を食ってる」
にやり。速水がいやらしい笑みを浮かべた。
「確かに…。だったら、誰が冷蔵庫に入れた?」
田口は最近乏しくなりつつある記憶力を蘇らせようと、必死に過去へと意識を飛ばす。が、自分ではないのだけは分かった。
「俺じゃない。速水じゃないのか?」
「違う」
速水が断言する。
「じゃあ、誰が入れたんだ? 買っていないなら、もらった?」
田口は再び、記憶の山を発掘する。が、自分の記憶にはまったくなかった。
「もらう?」
だが、速水も首を捻っているところから、もらったわけでもないらしいと、田口は考える。
どこから、やって来たブルー・チーズ。青カビまみれの田口的には、ゲッというレベルの食べ物。(食べ物ではないと、実はこっそり思っている田口)
青カビだらけ…。カビ…。冷蔵庫は過信してはいけない。(By 食中毒)
「まっ、まさか…な?」
田口は、ん?と自分を見る速水を見た。
だが、『お前がブルー・チーズと思って食べたチーズは、本当に青カビが生えまくっていたんだよ』とは声にできずにいた。
その代わり、こっそり、速水の尻ぬぐいの得意な佐藤に、この速水の勘違いと、カビまみれチーズを食べたことの顛末を告げ口したのだった。
∴あーあ。速水先生が食中毒にならないか。心配です。