すんけい ぶろぐ

雑感や書評など

松尾スズキ「恋の門」

2005-07-31 09:12:04 | 映画評
原作のあつさ(あつくるしさ)は、半減しております


「恋の門」の漫画を全て読み通したので、今度は映画を見てみました。

ストーリーは、原作をシャッフルして、再構成されていました。
大事なエピソードは、レイプ以外は盛りこまれていて、だいたい忠実。
ちょっとだけ、映画独特の味付けがされていましたが、まぁ、原作のファンであれば、楽しめる程度の逸脱なのでは?

が、映画単体で見た人は、ぎっしりもりだくさんで、困惑するかもなぁ。


画面は、漫画が「ヌッ」としていたのに対して、映画は「シャッ」という感じ。
ようは、ちょっとオシャレになっています。

蒼木の石だらけの小汚い部屋も、映画では生活臭をわざと描かず、いかにも「物語の部屋」という映りになっています。住みたい、とは思わずとも、「行ってみたい」くらいのレベルになっています。

ストーリーをただなぞるだけでは、存外オーソドックスな(古臭い)映画になったでしょうから、画面を個性的にしたのは、一つの方法だったのでしょうねぇ。

オシャレな雰囲気になってしまったのは、苦手な人は苦手でしょうけど。(と言っても、「世界の終わりという名の雑貨店」みたいな、空虚なオシャレ感は皆無です)


それよりも、なによりも、この映画は、無駄に豪華なキャストだな。

メインよりも端役がね。
庵野秀明、安野モヨコ、三池崇史、山本直樹、内田春菊、しりあがり寿、等々。セリフもないような登場人物に、中堅以上大御所未満の人間を、ゴロゴロ使っているよ。

そういうのが好きな人は、ニヤニヤして見れると思います。


肝心の松田龍平と酒井若菜の方は、まぁ、こんなもんか、と。

松田龍平も、「御法度」で見たときは、
「顔が良くて松田優作の息子というだけで、映画に引っ張ってきて、これから、こいつをどうするつもりなんだ?」
という感想しか抱けないものでしたが、「恋の門」では、まずまず俳優をしています。

原作のテイストを活かすとすれば、酒井若菜だと、美貌がちょっと足りないような…………気もしますが、ぶっとんだ演技ができる適度に美人(と言われている)女優を探そうとすると、まぁベストなのかな。
胸の谷間を、ちょくちょく見せてくれるので、そこらへんも楽しめるかと。


という感じ。
まぁ原作を裏切ることはない仕上がりになっているのでは?


漫画の感想。
羽生生純「恋の門 ハンディ版 (1)」なつかしいなぁ、「ペーゲー」
羽生生純「恋の門 ハンディ版 (2)」夫婦喧嘩は犬も……
羽生生純「恋の門 ハンディ版 (3)」父、登場。
羽生生純「恋の門 ハンディ版 (4)」芸術は爆発だぁ!
羽生生純「恋の門 ハンディ版 (5)」「この作品の存在そのものが芸術たり得ている」かぁ…………
羽生生純「恋の門 ハンディ版 (6)」田嶋陽子がなんと言おうと、普通の女性は白馬の王子様を待っているのでしょうか?


恋の門 スペシャル・エディション (通常版)

角川エンタテインメント

このアイテムの詳細を見る

滝沢敏文「SAMURAI 7 第4巻」

2005-07-30 09:09:29 | 映画評
やはり、なんとなく


最近忙しいので、二時間でも長く感じられてしまいます。

そんなわけで、サクッと見られるだろうと、もう大して期待していない「SAMURAI 7 第4巻」を、見ました。


ついに、七人目のサムライ・シチロージの登場です。
これから、本格的に物語は核心に進んでいくようです。

しかし、このシチロージの登場の回は、作画がひどいなぁ。
そんなに詳しくない、僕でも、「うぅーむ」と思ってしまったよ。


てな感じです。


これまでの評。
滝沢敏文「SAMURAI 7 第1巻」三船敏郎の菊千代を超えるのは大変だろうなぁ
滝沢敏文「SAMURAI 7 第2巻」なんとなくの感想
滝沢敏文「SAMURAI 7 第3巻」惰性だな…


SAMURAI 7 第4巻 (通常版)

GDH

このアイテムの詳細を見る

ジョージ・ルーカス「スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐」

2005-07-29 08:54:13 | 映画評
ジャー・ジャー・ビンクスは、出番なかったなぁ~


過去は美しくなってしまうのは、過去というものが所詮は人の感傷の所産に過ぎない以上(ブンガク的表現)、仕方ないものです。

子供時代のことで、非常に「良い」印象が残っているものであっても、いざ大人になって再び触れてみると、「はて?」という訝りだけが残ってしまうことは、誰でも経験したことがあるのではないでしょうか?


「スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐」を見てきました。

episode Ⅰ、episode Ⅱと比べたら、段違いに面白かったです。

が、純粋に、この作品だけを評価しようとしたら、まぁ、雨後の筍の如く消費される多くの映画と、大差はないレベル。…………それどころか、予備知識がなければ、ストーリーを理解するのは不可能だろうなぁ。


episode Ⅳ、episode Ⅴ、episode Ⅵも、今見たら、ストーリー展開については「強引だなぁ」という印象は拭えず、画面も手作り感一杯です。
それでも「おれたちゃ、今までにない異世界を表現してみせるんだ!」という作り手たちの気迫が伝わってきます。

それくらべると、episode Ⅰ、episode Ⅱは、フィルムの一こま一こまに百ドル札が埋められているような豪腕で、画面は綺麗になったけど、昔のような「新しいものをつくっちゃる!」という気概は感じられんかったなぁ…………。

まぁ特撮関連は目が肥えてしまったから、あんまりゴチャゴチャけちをつけるのもムゴイ話なのかもしれんけど。


さすがに、episode Ⅲは、最終作というだけあって、もりだくさんで超豪華。最初から最後までぎっしりと楽しませてくれます。(episode Ⅶ、Ⅷ、Ⅸも、十年後くらいに、「ファンの声におされて、やむを得ず」という形で作る気はするけど。その際のコピーは、「スターウォーズ最大の謎 ジェダイとシスの誕生の謎が解明される」って、とこか?)

往年のファンなら、見ても損はないのでは?

さとうたかし「マンガ 茶の湯入門」

2005-07-27 08:41:01 | 書評
「信長の野望・革新」にも、切腹コマンドはあるのか?


お茶と言って思い出すことは、「武将風雲録」での扱い。
とりあえず城主に持たせて置き、それを配下に褒美として与え、忠誠心をアップさせる。茶器を与えた城主には、直ぐに隣国に移動してもらい、忠誠心をアップしたばかりの武将を新たに城主に任命し、後は繰り返し。

あんま茶会には使わないで、こんなことにばかり利用していたなぁ。


まぁ、そんなことは関係なく。
ちょっと必要となって読んだ「マンガ 茶の湯入門」。

大門・小林という新人が、上司の命令でお茶会に出席することに。そのために窓際族の山田さんにお茶の作法や精神を学ぶことになります。
最初は仕事の延長で触れたお茶ですが、山田さんの人柄もあって、次第にお茶の魅力に引き込まれて…………。

という一応のストーリーはありますが、まぁ、マニュアル本なんで、おまけみたいなもんです。


初版は昭和63年5月30日となっています。
まだまだ日本に余裕があった時期のせいか、窓際族の山田さんの存在も、まだまだ許容されているようで、最初に上司が彼を紹介する際には、こんなふうに紹介しています。
中川部長「まァ 行く前に資料室の山田さんにでも話を聞いておくんだなァ」
小林  「山田さんって あのォ―― マドギワ族の山田さん? ますますめいるなァ」
大門  「ああ」
中川部長「イヤー 彼は そういうことにかけちゃ 我社きっての生き字引だからなァ」
さとうたかし「マンガ 茶の湯入門」18~19頁 平凡社
いくら「生き字引」でもねぇ。実務に役に立たないんじゃ、今時、リスゴニョゴニョ………だろうなぁ。

実務で役に立たないというのが、お茶に通じゴニョゴニョ………。


それは、ともかく。

これを読んでお茶ができるようになる…………なんてことはありませんが、大まかな〝茶の世界〟を理解することくらいはできるのでは、ないでしょうか?
これからお茶に触れてみたいという方には、予備知識として、よろしいのでは?


マンガ茶の湯入門

平凡社

このアイテムの詳細を見る

羽生生純「恋の門 ハンディ版 (6)」

2005-07-26 08:46:16 | 書評
田嶋陽子がなんと言おうと、普通の女性は白馬の王子様を待っているのでしょうか?


羽生生純「恋の門 ハンディ版 (6)」。最終巻です。

蒼木と同じく漫画家を志す木背。
彼と恋乃と蒼木で、雑誌の賞に投稿します。

で、受賞できたのは木背だけ。
さらに、受賞者は、他の二人に命令できるという内輪の取り決めをしており、木背が考え付いたのは、「恋乃と一ヶ月お付き合いをする」というもの。

もちろん、漫画に負け、女も取られるかもしれない…………、そんな状況下で蒼木が冷静でいられるわけもなく。
また恋乃にしても蒼木とは違い、自分を優しく扱ってくれる木背に対して新鮮な魅力を感じてしまいます(そりゃ、落とそうとする女を邪険に扱う男はいないよな)。


そんなこんなで、気まずくなった恋乃は蒼木の家を出てしまうのですが、頼った先でレイプという惨い目に遭ってしまいます。

癒しのようない傷を背負った恋乃は一旦は蒼木のアパートに戻ってきますが、最早、二人の関係は修復不可能となっていて、ついに破局を迎えます。

その際の、恋乃決意。
私の物語の主役は私なんだ
私が止まれば私の物語は死ぬ
私の現実が どんなに汗と血と毛穴と臭いと恐怖にまみれても
私にはやっぱりこれしかない
今から準備すれば冬コミに間に合うかもしれない
私はまだ終わらない
そのためには
全てをリセットして
0から始めなきゃならない
羽生生純「恋の門 ハンディ版 (6)」122~123頁 Beam comix
蒼木が自作の持ち込みで現実とぶち当たったように、恋乃もまた、二次元ではなく現実と向き合う覚悟を決めます。


これで終わりで悲劇の幕切れというのも手だったのでしょうが、最後は、蒼木が恋乃を迎えにいってハッピーエンドです。
そのシーンは、臭いとは言え、やはり感動的だったりします。

蒼木は、落ちた連載の代原とは言え、どうにか自作が雑誌に載ります。
その物語というのは、レイプ犯に対して復讐するというもの。

雑誌に掲載されたということが社会に受け入れられたという象徴となっていますが、だからと言って自己の世界を完全に放棄したわけではないことが分かります。
妥協ではなく、プロの技術を使って、現実に受け入れ始めたことが分かります。ようは漫画家として成長した、ということです。

そして、その漫画に登場していた主人公の格好になって、傷心の恋乃の前に登場します。
かつては、あれほど嫌がっていたコスプレですが、恋乃のためにやってのけるのです。
自分の世界に閉じこもっているだけではなく、相手の世界をも理解しようとしていることが分かります。ようは男として成長した、ということです。


この物語の当初では「経済的にも精神的にも証恋乃が蒼木門を庇護する」という構図となっていましたが、最終的には二人は経済的には互角となり、「精神的には蒼木門が証恋乃を庇護する」という転倒で幕を閉じます。

そこらへんが「女は男が守るもの」的な、ちょいっと古臭い感じもしないでもないですが、それだけに安心感のあるラストになっていました。


さて、映画はどんなふうに味付けされいるのか、楽しみです。


これまでの書評。
羽生生純「恋の門 ハンディ版 (1)」なつかしいなぁ、「ペーゲー」
羽生生純「恋の門 ハンディ版 (2)」夫婦喧嘩は犬も……
羽生生純「恋の門 ハンディ版 (3)」父、登場。
羽生生純「恋の門 ハンディ版 (4)」芸術は爆発だぁ!
羽生生純「恋の門 ハンディ版 (5)」「この作品の存在そのものが芸術たり得ている」かぁ…………


恋の門 (6)

エンターブレイン

このアイテムの詳細を見る

高橋和巳「邪宗門 (上)」

2005-07-24 09:19:23 | 書評
藤谷美和子は、今回のご成婚をかなり喜んでいるだろうなぁ


大江健三郎や村上春樹の文庫の背表紙を見ますと、いつも、
「著者の新境地」
とか、
「あらたな地平を開く作品」
という文句が書いている、…………ようなイメージがあります。


まぁ、初期と現在の作品を比べると、文体やら思想やら文学の姿勢やら印税やら、いろいろと違うことは分かります。

が、結局、大江健三郎は大江健三郎だし、村上春樹は村上春樹であるのも当たり前です。

タイムリーに読んでいると、その作家の変遷が手に取るように分かるのですが、まとめて読んでしまうと、
「また、コレか…………」
という印象が残ってしまうものです。

……………もっとも、これは小説に限らないですけどね。


で、高橋和巳。

苦悩の巨人、です。

はてなダイアリーでは、こんな風に解説されております。
作家。

1931年8月31日生まれ、大阪府出身。1971年5月3日没。享年39歳。京都大学文学部卒業。

小松左京らとの「現代文学」の発行などを経て作家に。61年、長編小説「悲の器」で第1回文芸賞を受賞。主な著作に「邪宗門」「憂鬱なる党派」「捨子物語」「我が心は石にあらず」「わが解体」など。革命の世代を生きるインテリゲンチャの苦悩をテーマに数多くの作品を残し「苦悩教の始祖」と呼ばれる。
はてなダイアリー「高橋和巳」

「革命の世代を生きるインテリゲンチャの苦悩をテーマ」。簡潔で要領を得たまとめです。


高橋和巳の作品は、知識人がエロ(女)で失敗して、周りの人間を不幸にして、自滅していく、という筋です。
で、根本的な訴えは、「おれは、こんなに苦しんでいるんだ! だから、どうか許しておくれ」という自己憐憫です。(「悲の器」「我が心は石にあらず」なんて、もうタイトルからして、自己憐憫の何ものでもないもんな)

でも、大好きな作家です。
本を読み返すよりは、新しい作品を手に取るタイプなのですが、「悲の器」に関しては二度読んでいます。そして、また読みたいと思っています。


その前に、どうしても読んでおきたかった「邪宗門」。
なかなか本屋で見つけられず、注文するのも億劫だったのですが(「どうしても読んでおきたかった」というわりには〝億劫〟って………)、引っ越したのを機に使い始めたAmazonで簡単に取り寄せ出来ました。

オウム事件の際に、ちょっと騒がれた本ですので、高橋和巳を知らなくても、この作品名を知っている方もいるのでは? ……………と言いたいところですが、そこまで騒がれていませんね。


上巻のストーリーをかい摘んで話すと、「ひのもと救霊会」という戦前の新興宗教団体が、統制を強め始めた政府(権力)によって弾圧され、幹部を根こそぎ検挙されるまでの第一部。

それか数年後、太平洋戦争を控えて、崩壊の瀬戸際まで追い詰められた「ひのもと救霊会」が、かつての支部組織から独立した救世軍に吸収されるまでを描いた第二部になります。


群像劇ではありますが、主人公は千葉潔という少年になります。
が、少年でありながら、ぬぐい難い罪を背負っているという設定。

最初に彼と見えた教主は、こんなことを話しています。
「温泉で思いだしたが、先刻、風呂にはいった時、薪をくべてくれていた少年は誰かね。先日ここへ帰った時も阿礼の後につき従うようにして玄関に出迎えていたが」
「堀江のお駒さんが拾ってかえった子でしてね。少し陰気なところのある子ですけれど、気立てはやさしい子のようです」
「なにかお気にさわることをしましたか」堀江駒が心配して言った。
「いやいや、植田が薪をくべているのかと思って声をかけてみたら、あの少年だった。君は誰かと訊いたら、旧姓は千葉潔だが、今はひのもと潔、つまり教団の児だというのでね。おぬし神を信ずるかときいてみた。すると、きっぱりと信じませんと答えおった」
高橋和巳「邪宗門 (上)」169頁 朝日文芸文庫
教団の児でありながら、無神論者…………もう、この設定だけで、しびれてしまいます。

宗教団体に属しながら、神を信じないで許される存在…………つまり、少年自身が神ということなんでしょうか? それを暗示させるような、少年の能力が発揮される場面もあるのですが、…………さて、どうなんだろう?

で、この少年が、天皇への直訴(正確には直訴ではないのですが)を図ります。今でも、一宗教団体がそのような行為に及ぶとなれば、どんな結末になるのかは言うまでもありません。
まして、戦前ですから、「ひのもと救霊会」は、この事件によって容赦なく弾圧されてしまいます。


で、第二部。

高橋和巳らしく、かつては理想に燃えていたキャラも、すっかり現実によって色あせて登場します。
 だが彼は行かなかった。植田文麿はすでに純真な士官候彼生ではなかった。理想は破れ、自決することもできず、しかも出所して彼の世の中の動きは、彼が何者かに道具として利用されたことを如実に示していた。そして、失敗し裏切られた革命家が多くそうであるように、自分が無力であるゆえに、彼は今この社会がより堕落し、より悲惨になることを望んでいた。
高橋和巳「邪宗門 (上)」496頁 朝日文芸文庫
この極端なまでの人間への酷薄さ。まさしく高橋和巳です。


こんなふうに、いつもと変わらずの陰陰滅滅とした世界を堪能できるようになっています。
でも、同じ群像劇である「憂鬱なる党派」よりも、物語の幅が広いので、個人的には飽きずに楽しめます。

人間が堕ちていくことを「クスクス」と読めるような方には、かっこうの小説となっています。(つまりは、いつもの高橋和巳です)


邪宗門〈上〉

朝日新聞

このアイテムの詳細を見る

羽生生純「恋の門 ハンディ版 (5)」

2005-07-23 09:14:32 | 書評
「この作品の存在そのものが芸術たり得ている」かぁ…………


羽生生純「恋の門 ハンディ版 (5)」。

「生活の柱だった恋乃の勤めていた会社がつぶれて、さぁー大変」というのが前回までの粗筋。


失職してしまった恋乃は、どういうわけか真面目に働こうとはしません。
普通に仕事を探そうともせず、一攫千金を狙ってネズミ講にはまったり、安易に風俗に走ろうともします(結局、蒼木に止められますが)。

これまで普通のOLをしていたのに、どうして恋乃が正業を探そうとしないのか、それがちょっと不可解です。

強いて言えば、蒼木に頼っているということなのかな?


そんな生活の柱にならざる得なくなった蒼木ですが、ついにプロになるべく編集部に持ちこみを行います。
そこで、蒼木の作品を編集者は、こう言います。

何が言いたいの?
羽生生純「恋の門 ハンディ版 (5)」16頁 Beam comix
まぁ相変わらず石が貼ってあるような漫画ですからね。
むごい言われ方をされても、仕方ないですね…………。

描かれている内容の前に
この作品の存在そのものが芸術たり得ていると思う
羽生生純「恋の門 ハンディ版 (3)」134頁 Beam comix
などと言われたこともありますが、プロの編集者に言わせると、こう言うことになります。
さっき君は読む前から僕に色々説明してくれたんだけど
もしこの作品が掲載されたら君は本を買ってくれた人全員に 今みたいに
「この作品は普通の漫画じゃなくて」って説明してまわるのかって事なんだよ
羽生生純「恋の門 ハンディ版 (5)」18~19頁 Beam comix
芸術であれば価値があると思っていた蒼木にしてみれば、自分の作品のみならず、自分自身を根幹から否定されたようなものでした。

で、まぁ、一応青春ものなんで、自己を喪失して茫然自失になるのですが、お約束で、彼の敵であった父の病死を契機に立ち直り、また漫画に手を染め始めます。(こういう流れは、ホント、手本通りといっていいくらい、オーソドックスです)


そして、蒼木と同じく漫画家を志す木背が登場。

「恋愛は三人でするもの」といったのは、柄谷行人だったかな?

毬藻田という、恋乃にちょっかいを出すキャラがいましたが、彼は父親的人物。
かつては売れっ子漫画家であった毬藻田は、打ち倒す存在であっても、競い合うものではりません。
それに比べて、木背は、蒼木と立場を同じくするもの。
この物語の性質上、漫画で争うだけではなく、恋乃をも争うことになります。


で、最終巻へ。


恋の門 (5)

エンターブレイン

このアイテムの詳細を見る

沖野ヨーコ「きものがたり (2)」

2005-07-22 09:05:18 | 書評
アニメの「美味しんぼ」では、海原雄山は料理が不味いくらいで母親を蹴倒していたように記憶しているが、原作は、どうなんだろう? もし原作の漫画でも蹴倒していたのなら、父親と仲直りした山岡は腰抜けどころか人だ


「美味しんぼ」を読んでいますと、「なんで、こいつらは、たかだか飯のことで、こんなにも執着心があって、怒るんだ? そして、そこまで怒っていながら、なぜ、たかだか飯を食ったくらいで仲直りできるんだ? 恥ずかしくないか?」と思ってしまいます。

もっとも、多少、極端な設定にでもしなければ、毎週毎週、料理をからめたストーリーなんか考え付かないのでしょうけど。


「きものがたり (2)」。
毎回きものをからめた話をつくるのは、大変だろうなぁというのが作品の印象。

確かに宮尾登美子も「きものの思い出については、女は金輪際忘れはしない」と言っているけど、なにもそこまできものを執着しなくても(憎まなくても)…………、という登場人物ばかり。それに、結局はきものを通じて、わだかまりが解けて、善人である顔があっさりのぞける、というのも、なんと言いますか…………。

その印象は、他の読者も同じだったのか、この漫画は二巻で終了。

最後の話は、デパートの建て直しに支店長補佐の話。
最初に登場したときは、主人公の憧れの人物として、「かっこよくて、性格がよくて、有能で」という少女マンガにありがちな(そして現実には存在しない)、完璧な性格でした。
が、最終話の彼は、えらーくきものに対してトラウマを抱えている駄目人間。自分の過去にしばられて、強引に呉服売り場をつぶそうとする、しょーもない人間にされちゃってました。
いかにも打ち切りの臭いがする設定でした。


そんなこととは関係なく、印象に残った振袖への登場人物たちの評価。
「ママが着ろって言ったけど窮屈なだけだからヤダって言っちゃった」
「わたしも言われた 日本人はやっぱり着物だとかなんとか
 でも成人式に振袖着なくちゃならないなんて呉服屋の陰謀よね」
沖野ヨーコ「きものがたり (2)」6~7頁 講談社
こんなことを言っていた彼女らも最終的には、振袖の良さを認識することになるのですが…………、しかし「呉服屋の陰謀」というのも当たらずしも遠からずですよ。


きものがたり (2)

講談社

このアイテムの詳細を見る

一番のお客さん

2005-07-20 09:13:03 | 雑感
優秀なヤツだよ………


基本的には、何かを読んだり、見たりした感想を書こうと思っていはいるのですが、最近は忙しくて、そんな暇がない…………。
でも、アクセスカウントを見ると、更新がなくても、誰かは見てくれているようです。

こんなページでも、毎日、人が訪れてくれているのは、ありがたいことです。


で、時折、ドーンと閲覧数が多いことがある。
「アクセスカウントも、あんまり気にして仕方ないなぁ」と思ってはいるのですが(負け惜しみ)、それでも、訪問者が多いと、ちょっと嬉しかったりします(小確幸)。

昨日も、けっこう来てくれておりました。
「全然更新してないのに、なにが引っかかったのだろう?」とアクセス解析を眺めていますと、訪問者の使用ブラウザ一位は「Googlebot」。

固有名詞が多いブログだからなぁ。
「Googlebot」にしてみると、拾いがいのあるサイトなんだろうなぁ…………。

本宮ひろ志「サラリーマン金太郎 (30)」

2005-07-17 08:30:17 | 書評
ついに終幕


前回までの粗筋。

凶弾に倒れたヤマト前会長からの手紙には、「金太郎 お前は日本の元気だ」と書かれたありました。
それを見た金太郎は、ついに東京でサラリーマンに復帰することに決めます。

で、日本人を元気にするために選んだ仕事は、ヤマトへの復帰ではなく、コンドームの訪問販売員。
まぁ、確かに日本を元気にする代物かもしれませんね……………。


そんなこんなで、ついにファイナルの「サラリーマン金太郎 (30)」。

日本を元気にするため、次に選んだ職場は、総合商社です。

金太郎は、商社について、以下のように語っておられます。
商社の利益率は1~2%だ!!
そんな利益なら何もしないで
アメリカの国債でも買っておけばいい…
それなのに なぜ懸命に仕事をするのか!?
日本経済の潤滑油としての使命感だ!!
極論を言えば商社は社会資本のひとつだ!!
その自負だ!!
本宮ひろ志「サラリーマン金太郎 (30)」91~92頁 ヤングジャンプ・コミックス

その社会の潤滑油である商社で金太郎が画策したのは、建設作業の請負業。

で、直ぐに官僚から法律違反だと横槍が入ります。

もちろん、いつもの「ドリャー」調で反論です。
労働派遣法4条だとォ…
だからどうした…
こっちゃあなあ
てめえら役人がやるんだか やらねえんだか 先延ばししてんのをだァ
のんびり待っている程 時間の余裕はねえんだよ!!
本宮ひろ志「サラリーマン金太郎 (30)」166頁 ヤングジャンプ・コミックス

以前も書きましたが、「作者としては、金太郎を通じて、常に国家(さらには国境のない全世界)を射程に入れた一個人の創出を企んでい」るようです。
その実践の場としては、建設業の枠では収まらなくなり、商社が必要だったんでしょうね。(「サラリーマン金太郎」の連載終了後には「悪党」という政治漫画を書こうとしていたなぁ。挫折したみたいだが)

で、ついには金太郎の主張に対して、現役の総理大臣が「大変…勉強になりました…」とまで言わせます。


そんで、最終話。
日本を元気にできた! ということなんでしょうか、入ったばかりの商社も辞めてしまいます。

で、「International Bank」という外資系銀行で面接を受けているところで、終わります。

作者として、「今度は世界制覇だ!」ということなんでしょうか?

金ちゃん本人としては、
出世だの社長になるだの関係ねえよ……
俺はサラリーマンのプロになったる
本宮ひろ志「サラリーマン金太郎 (30)」223頁 ヤングジャンプ・コミックス
ということらしいです。


さて、今日の名言。選ぶの面倒臭いので、最後のセリフにします。
日本サラリーマン――――!!
矢島金太郎――っス
本宮ひろ志「サラリーマン金太郎 (30)」232~233頁 ヤングジャンプ・コミックス


サラリーマンの鉄則 その三十
「転職を繰り返し、一箇所に定住しない」


サラリーマン金太郎 (30)

集英社

このアイテムの詳細を見る