すんけい ぶろぐ

雑感や書評など

宮尾登美子「きものがたり」

2005-06-15 08:23:10 | 書評
世界は○で回ってる


宮尾登美子「きものがたり」。
いろいろと事情がありまして、こういうものを勉強しなくてはいけないため、読んでみました。


きもの………と言いますと、今となっては生活必需品ではなくて、奢侈品です。
安いものもありますが、まぁ、普段着などと比べますと、かなり高いです。

きもの一式で、おニューの軽自動車くらいに達してしまうことも、珍しいことでもありません。

で、ありながら、着るのは面倒、洗濯はクリーニング、保管には気を使う、…………等々、面倒なことばかり。
いいことなんか、ありゃしません。


それでも、女性は嬉々として着るわけでして……………まぁ、なんつーか、男には理解し難い世界です。

 何しろ昔の丸帯というのは、幅は優に一メートルはあり、重さは八キロ以上もあったから、これを身に縛りつける女性は拷問に等しい苦しみであったにちがいない。花柳界ではこの帯を結ぶため箱屋とよぶ男衆を雇い入れており、芸妓さんたちの出の支度のとき、箱屋の兄さんたちが渾身の力を込めて帯を締めている風景を、私は目に灼きつけている。
 こういう帯苦(?)からは早く解放されればいいのに、と見るのは、よい帯など持たない第三者であって、締めてもらうほうはこれぞ女の意地か威勢か、「ここ見よ」とばかりの晴れがましさであったろう。
宮尾登美子「きものがたり」163~166頁 文春文庫
男性の僕にとっては、まずもって、女人(にょにん)の世界は、土俵以上に立ち入りがたい世界のようです。


で、本書ですが、宮尾登美子の個人的なきものにまつわる話が、美しい写真と一緒に語られています。

ぱらぱらと写真を見ているだけでも、てきとうに面白いですが、「きものの思い出については、女は金輪際忘れはしない」(62頁)と本人が語っているように、きもの一枚・帯一本、それぞれにまつわる話も、なかなか興味深いです。

戦争にまつわる話ですと、「モンペを美しく着るために方法」や「娘に少しでも綺麗なものを着せてあげたいと、親がヤミで買った衣料切符を、宮尾登美子自身は、「贅沢は敵だ」と非難した」こと、「満州から麻袋を巻きつけて帰国し、家で機織りをした」等が書かれております。

作者が1926年生まれというだけありまして、彼女の個人的な話を書いているにも限らず、衣服に対する日本人の思考の変遷に触れることができます。


文章は硬くなく、スラスラ読めます。それなりに、「ふーむ」と思うエピソードもあるのですが、やはり呉服に興味がないと、きつい本だと思います。
そういう本でした。


きものがたり

文芸春秋

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