すんけい ぶろぐ

雑感や書評など

羽生生純「恋の門 ハンディ版 (4)」

2005-07-16 08:41:32 | 書評
芸術は爆発だぁ!


羽生生純「恋の門 ハンディ版 (4)」。

ちょっとした諍いから、恋乃はマンションを飛び出して毬藻田のもとに走ってしまいます。
翌朝、恋乃は戻ってきますが、彼女が一夜をどのようにすごしたのか、蒼木には分かりません。恋乃は、
彼は私のコスプレを見ても笑ったりせずに「おいで」って言ってくれたわ
羽生生純「恋の門 ハンディ版 (4)」12頁 Beam comix
と言うだけで、詳細は語りません。

そのため、かつて漫画家だったという毬藻田に、恋人まで奪われてしまうのではないかと、蒼木は苦悩します。
そして、毬藻田と対決を決意し、自然と彼の過去(漫画)と対峙することになります。

毬藻田のかつての作品を読み、なぜ漫画家を諦めることになったのか知ることになったのですが…………。この過去というのが、存外、ありがちなエピソードになっています。
一人の男と一人の女が出会い、漫画家で成功することで二人の生活は豊かになったが、多忙な彼は相手をしてくれなくなり、女の心は満たされない。ついには、
私と漫画とどっちが大事?
羽生生純「恋の門 ハンディ版 (4)」44頁 Beam comix
と言われてしまう始末(ベタだな)。
そして、女は去り、漫画は行き詰まる。
だが、漫画が書けなくなってしまったことで、女は戻ってくる。
が、生活の基盤を失った男に女は愛想を尽かして、やはり去っていってしまう…………。

つまりは、毬藻田の過去によって、生活を優先させるか? それとも、作品を優先させるか? という永遠(ありがち)の課題が提示されるわけです。(「生まれ出ずる悩み」!)


で、まぁ、毬藻田の間には、なにも無かったということが分かり、蒼木と恋乃の間は修復されます。

しかし、恋乃の会社が倒産するという事件によって、作品と生活という課題が彼ら二人にも現前してきます。

前回、二人の関係を、母子関係に擬せられる、と書きました。

 蒼木門にとって証恋乃は、自分を無条件に保護してくれる存在。
 証恋乃にとって蒼木門は、自分の保護下に置いておきたい存在。

ということなのですが、この関係が、恋乃の失職によって崩れてしまいます。

養おうにも金がない、養われようにも金がない、ということです。


これによって、蒼木の肩に一気に生活の重石がのしかかってきたのですが…………で、次巻に続く、です。


恋の門 (4) ハンディ版 Beam comix

エンターブレイン

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沖野ヨーコ「きものがたり (1)」

2005-07-15 08:07:23 | 書評
口が半開きのシーンが多いなぁ


「きものがたり (1)」。

ストーリーは、こんな感じの漫画です。
やっと就職した百貨店で、呉服売り場に配属された葵。着物にはなんの興味もなかった彼女だけど、売り場でのさまざまな出会いを通して次第に着物の素晴らしさに気づきはじめ……。
沖野ヨーコ「きものがたり (1)」裏表紙 講談社


高嶋兄弟の「ホテル」とか「デパート! ○物語」を思い出していただけると、よろしいと思います。


要は、お客様と接しているうちに、その人の悩みに触れ、主人公の葵が奮闘して問題を解決するというのがパターン。で、必ず、着物が絡んでいます。


葵というのは、天真爛漫で困っている人がいると助けずにはいられない、元気なお嬢さん。ついつい根が正直なものですから、思ったこと感じたことを、直ぐに口に出してしまいます。

母の強引な誘いで着物売り場に連れられてきた娘。娘は、母親ほど着物の必要性を感じておらず、どうも買う気がしません。そんな困り顔を見て、
娘がいらないって言ってるんだから
着物なんか買うことないのになァ
沖野ヨーコ「きものがたり (1)」14頁 講談社
と言ってしまうような、お嬢さんです。

まぁ漫画ですからね…………。
現実でしたら、ボコにされているでしょう。


という感じ。

キャラクターにしても、「百貨店の支店長補佐は、やり手の若手で、かっこいい」とか、「売り場の上司は、口うるさくて厳しいけれども、着物の知識はしっかりしている」という、いかにもな感じ。

つまりは、王道ですね。

そういうのが好きな方には、たまらないと思います。


きものがたり (1)

講談社

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YAMAHA「TW225」

2005-07-14 08:31:27 | その他の評価
おれの中の尾崎が叫ぶんだよ!


はるか昔…………というほどではないと思いたいのですが、ちょっと前までは、ビックスクーターと言いますと、「オヤジの乗るもの」でした(断言していいのだろうか?)。

が、ちょっと目を離した(バイクから離れた)隙に、すっかりイケテル若者の乗り物に大変化。
街中の、ちょっと粋がってみたい元気なニイチャンは、みんなビックスクーターに乗っていました。

今も、この傾向は変わっていないのかな?

誰が、流行らせたのでしょう?


他にも、唐突に街中に増えてびっくりしたのが、YAMAHAのTW。当時は、TW200か?

「なぜ、OFF車が街に?」
と不思議がっていましたが、キムタクが「ビューティフルライフ」で乗っていた、という話を聞いて納得。


で、つい最近、TW225を買いました。

もちろん憧れのキムタク様へのリスペクトをこめて…………、ということはなく、第一に安かったのです。
バイク本体は中古ですが、走行距離700キロの今年のモデル。あと、Araiのヘルメットに、外に置くためのカバー、自賠責、任意等々、すべてこみこみで四十万円以内で済みました。

第二に、昔乗っていたのが、原付のDT50と中型のTT250(←もしかして、もう新作は売ってない?)。どちらもYAMAHAなんで、なんとなく、その流れで。

第三に、町乗りがメインなんですが、もしかしたら遠出を志すかもしれない。それでは、原付では心もとない。

といったろころでしょうか。
まぁカブでも良かったんですけどね。
しかし、あのバイクに似合う、いぶし銀の男には、おれはまだまだ…………と考えていたんですが………。


数年ぶりのバイクは、意外に恐いです。
時速40キロで、もうお腹一杯。
カーブを曲がるときは、無理せずブレーキ。
がっつりエンジンを回してロケットスタートなんて、もってのほか。
車間距離はしっかり確保。

もうすっかりおっさんです。
時速30キロで、道路の真ん中を走っている原付のオバサンよりも、遠慮して運転している始末。

あぁ、もう、いぶし銀の男になってしまったなぁ……………。


後、久しぶりなので、クラッチが面倒くさい。………バイク乗りにあるまじき発言だな。
でも、金があってもビックスクーターに乗る気はしないなぁ。


TW225

YAMAHA

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阿部和重「ニッポニアニッポン」

2005-07-13 08:07:44 | 書評
もういいよ、若貴問題は………


私だけでしょうか?
「雅子様のご回復には、どうすればいいのか?」
と思い出してように朝の番組で放送されることがあるけど、「一番いいのはマスコミが静かにして、プレッシャーを与えないことなんじゃないだろうか?」と思うのは、私だけでしょうか?
私だけ?


「ニッポニアニッポン」を読みました。

妄想にとりつかれた少年が、「人間の書いたシナリオ」によって生かされているトキに自分を重ね合わせ、トキを解放(殺害)すべく佐渡に渡るという話です。

崇高な稀少動物トキは、何しろあまりに非力であり、抵抗の術すら剥奪されてしまい、もはや操り人形みたいなものに改造されかけているため、俺の援助を強く必要としている。俺もまた、世間から自分という存在を消されぬために、トキの境遇を利用して、独自の行動を起こさねばならない。それゆえに運命が、俺とトキを固70 く結び付けた。トキは、復讐の協力を得る代わりとして、俺の人生に多大な意味を付与し、有意義な変革へと導くだろう。必ず、そうなる。俺をT入にしたことを、この国の連中すべてに後悔させてやる……
阿部和重「ニッポニアニッポン」69~70頁 新潮文庫


この小説の主人公の性格なんですが、どうも完璧すぎるんだよなぁ。
 ・自分のことを優秀な人間と思っている。
 ・女性に対して、変質的な性愛を抱いている。
 ・女性に嫌われているのに、ストーカー行為を繰り返す。
 ・インターネットによって、自己の妄想を肥大化させる。
 ・暴力的に親を支配して、完璧に依存しきっているが、一方で軽蔑している。
主人公の傾向を簡単に列記してみました。
どうでしょう? どっかの事件の犯人を思い起こさせるものばかりです。
それが、まずまず無理なく統合されているんですが、…………どうも完璧過ぎて、紋切り型の弊害が出ております。

でも、解説を読んだところ、この「紋切り型」というのも、もしかしたら、作者の作戦なのかもしれません。

が、それが、なにを意味しているのかまでは、僕には、ちょっと分かりませんでした。


また解説では、物語中の二人のヒロイン(?)、「本木桜」は「カードキャプチャーさくら」の「木之本桜」、「瀬川文緒」は「おジャ魔女どれみ」の「瀬川おんぷ」に由来していると書いてあります。

そのことは、表紙をからも分かるそうです。

左の子の手には「カードキャプチャーさくら」の「封印の杖」が握られおり、右の子の髪型は「瀬川おんぷ」と同じだそうです。
分かるでしょうか?

あんまり「カードキャプチャーさくら」と「おジャ魔女どれみ」は詳しくないのですが、なんとなく僕にも分かりました。

が、なんで、その作品からキャラクターの名前を借りただけではなく、表紙に登場させたのか? までは分かりませんでした。性格が似ているのでしょうか? 彼女たちにまつわるエピソードが、小説中でパロディにされているのでしょうか?
それとも、単なるお遊び?


さらに言えば、「瀬川文緒」というのは、佐渡で主人公と行動を供にする少女なのですが、個人的には、あまり意味を見出せないキャラでした。
「あたし、よく判らないけど……その、鴇谷さん、あたしは、鴇谷さんは、いい人だと思う。だから……」
阿部和重「ニッポニアニッポン」159頁 新潮文庫
主人公のトキ殺害計画を知った少女の言葉です。
なんで、こんなこと言わせたのかなぁ。

「稲中卓球部」の古谷実の作品では、どうしようもない男でも、適当に小奇麗な女性が惚れるようになっているけど、それと同じで、「誰でも愛してくれる女性が、いるもんだよ?」と言いたいのでしょうか?

うーむ。


それは、さて置き。
トキというのは、天皇の暗喩です(少なくとも、「トキ」=「天皇」と読めるような仕組みにはなっています)。

そんなわけで、今の皇太子妃問題と、ちょうど重ねて読めます。


まぁ皇太子妃問題に興味がなくても、おもしろく読めると思います。
個人的には、ちょっと物足りないものがありましたが…………。


ニッポニアニッポン

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羽生生純「恋の門 ハンディ版 (3)」

2005-07-12 08:46:24 | 書評
父、登場。


羽生生純「恋の門 ハンディ版 (3)」。

なんだかんだで、蒼木門と証恋乃の二人の生活が始まります。

蒼木門にしてみると、衣食住(さらに性)を無条件で与えてくれる証恋乃。
証恋乃にしてみると、理想のコスプレの相手となってくれる(そして自分の世界を、より完璧に再現してくれるアイテムとしての)蒼木門。

まぁ、そんな歪んだ補完性を持った二人(世のカップルなど、多かれ少なかれ歪んだ構造を抱いているのでしょうけど)。

強いて言うと、二人の関係は母子に擬せられるのでしょうか?

蒼木門にとって証恋乃は、自分を無条件に保護してくれる存在。
証恋乃にとって蒼木門は、自分の保護下に置いておきたい存在。


が、子はいつか親から独立していくもの。

蒼木門も、ついに(というか、ようやく)、バイトを探し自立の道を歩もうとします。

そして見つけた店が、「ギャラリーバー ペン」。店内に多数の漫画を並べた、漫画喫茶ならぬ漫画酒屋です。
そこのマスターは毬藻田。彼は、蒼木の作品を見て、バイトの採用不採用を決めると言い出します。で、あの石の張り付いた漫画(?)を見せるのですが、毬藻田の返答ははっきりしたもの。
彼女を愛しているなら
今すぐ こんな事で時間を潰すのを止めて
まともな職を探せ
羽生生純「恋の門 ハンディ版 (3)」118頁 Beam comix
まぁ順当な回答です。
が、考えて見ますと、これまで蒼木作品を理解できない人間は多くいましたが、蒼木の作品が理解できないこと事態を理解してくれる人間はいませんでした。

例えば、彼の父。
あんなポンチ絵は
絵とは認められん
ただの落書きだ
羽生生純「恋の門 ハンディ版 (3)」41頁 Beam comix
と言うだけ。高い壁となっていますが、彼を導いてくれることはありません。

で、登場が、毬藻田。
蒼木の作品が他人には理解できない、そして理解できないからこそ芸術とうそぶくしかない、単なる自己満足でしかないことを、眼前に突きつけます。

ようは、父の代わりです。


しかし、それは、証恋乃にとっても同じ、というのが皮肉な話。

「ギャラリーバー ペン」で蒼木が働き始めたことで、証恋乃との間には、ちょっとした齟齬が生まれ、それは徐々に大きな溝となり、ついには大喧嘩となってしまいます。

息子にとっての父性が乗り越える対象だとすると、娘にとっての父性は往々にして永遠の保護者となっています。(物語上でも、恋乃の父(両親)もコスプレイヤーであることが明かされています。つまりは、恋乃にとって父性は対立するものではなく、融合する対象となっている)

そんなわけで、恋乃は全て受け入れてくれる毬藻田のもとに走ります。

さて、どうなるんでしょう? で続く、です。


恋の門 (3) ハンディ版

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中原昌也「あらゆる場所に花束が……」

2005-07-11 08:34:13 | 書評
J文学って、まだ使ってる? つぅーか、誰が使ってたの?


新しいものは、必ず異質なものとして登場するものです。
違和感を伴わない新鮮さは、偽者なのかもしれません。


で、中原昌也「あらゆる場所に花束が……」。

三島賞受賞作品だそうです。
まぁ賞をとってあるから読んでみようと思ったわけじゃないのですが、新しい作家を開拓してみようかと思い、その際、「受賞作品なんだから、適当なレベルには達しているだろう」という目安にはしました。

全体は、こんな感じ。
宇宙に発射されるべくウォーミングアップしていたロケットが何故か勢い余って、中で待機していた乗組員だけを上空八千メートルに吐き出したような喪失感。いまは、そんな混沌としたヴァーチャルな心象風景だけが信じるに足るのだ。
中原昌也「あらゆる場所に花束が……」41~42頁 新潮文庫
全体に、露悪的な性、無情な暴力、意味深で意味をなさない語句が羅列しています。

ストーリーは、群像劇になっています。が、一般の群像劇であれば、多くの人間の悲喜こもごもを描こうとしますが、この小説では、たんに多種多様のグロテスクを表現するのに利用されています。


というわけで、ストーリーを重視してしまう傾向のある僕には、つらい小説でした。


簡単に言いますと、物語を憎む作家の実験小説です。
作家自身が、あとがきで、こう述べております。
自己表現などという身勝手なものが、人が期待するほど、そんなに有り難いものなんかであるはずがない。しかも有り難いものでなければならない義務だってない。様々な感情が人の顔の種類と同じく微妙な差異で存在しているように、多様な表現が存在して然るべきなのだ。それを許さず安易な感情移入や安手の感情移入とやらだけが小説だの文学だの物語だのといって罷り通る世の中には、心から吐き気がする。怒りを覚える。
中原昌也「あらゆる場所に花束が……」164~165頁 新潮文庫

で、渡部直己の解説では、こんな作者の姿勢を大喜びで褒めております。
この本を閉じた後で、いったい何をしたくなるのだろうか。
 学校なぞ、いますぐ止めてしまいたい? 無理もない。あれは何にもまして、人生の埓もない「真らしさ」を教え込む場所なのだから。職場の仲間を集め、或いはひとり街路に飛び出し、何かとびきり邪なことを仕掛けてみる? それが、あくまで本作の刺激であるなら、きっと良いことだと思う。すべてがバカバカしくなる? これも中原昌也の作用である限り、いずれ慶事に変わろう。こんな小説を書きたくなる?上手くいけばとても良いことだ。作者自身がそう示しているように、絶望は、他者にまっとうに反復されてこそ、さらに得難い明度を発しようから。こんな作家の存在を一刻も早く忘れ、口直しに、ちゃんと心が温まり、癒される物語に浸りたい? 損なことだ。煎じ詰めれば、それはとても損なことなのだ、というそのたった一行をめぐって長口舌をふるってきた者としては、この種の読者が今後にわたり激減する事態を願うのみであり、事態を促して本「解説」がわずかなりとも寄与しうるとすれば、それこそ望外の悦びであらねばなるまい。
中原昌也「あらゆる場所に花束が……」184頁 新潮文庫

要するに、物語(もしかすると小説自体)を憎む作家の小説と、物語(もしかすると小説自体)を憎む評論家の解説が載った本です。

その補完性からは見事な悪臭が立ち上っており、僕にとっては本編の小説以上にグロテスクな印象を受けました。


まぁねぇ。
新奇(異質)なものによって、表現の地平が広げられ、それが物語にフィードバックされて、さらなる豊潤さを生むという構図は理解しているつもりなんですけどねぇ。
どうも、ねぇ。………ついて、いけませんでした。


構造や文体よりも物語重視の人は、後書きや解説から読んで、どういう小説かを理解してから本編を読むことをお勧めします。
もっとも物語重視のタイプは、この手の本は手に触れないように思われますが………。


あらゆる場所に花束が…

新潮社

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山田真哉「<女子大生会計士の事件簿>世界一やさしい会計の本です」

2005-07-10 08:53:11 | 書評
行列のできる会計事務所


相変わらず、数字の勉強をしなくてはいけないわけで。

で、これ。
「<女子大生会計士の事件簿>世界一やさしい会計の本です」

また「女子大生会計士の事件簿」シリーズです。


最近知ったのですが、ホームページがあるんですね。
ちなみに、こちらです。
小説が無料で読めます。興味のある方は、一度、読んでみることをお勧めします。


ホームページを、サラサラと見ていて知ったのですが、作者は、話題になった「 さおだけ屋はなぜ潰れないのか? 身近な疑問からはじめる会計学」の人なんですね(未読)。

最近、テレビにも、よく出ているようです。

………ムムムム、丸山先生の後釜あたりを狙っているのでしょうか?(そして、脈絡もなく、唐突に二十四時間マラソンをするのでしょうか?)


それは、さて置き。

「世界一やさしい」と銘打っているだけあって、確かに読み易くなっております。(この種の本で、他を読んだことが無いので、「世界一」かどうかは、分かりませんが)


まぁ、最初の取っ掛かりには、ちょうどよいと思います。
たとえ会計の勉強なんか必要なくても、不祥事や経営難といった会社関係のニュースが、深く理解できるようになる思います。


が、絵柄に拒否反応を示す人もいるかと思います。

ちなみに、文庫の絵柄。


漫画の絵柄。


そして、この会計の入門書の絵柄。


さらにwebでの絵柄。


今回は「もえたん」の地位を狙ったのか?

そっちを期待している方もいっらしゃるかもしれませんが、あんま期待しない方がいいと思います。


で、会計の解説の他に、の、ちょっとゆるい感じのする小説が載っております。
その小説の中ではリストラされた社員はかわいそうだという言葉も見られるのですが、「費用削減」の項目では、
 リストラの王道である、「首切り」「人減らし」「子会社出向」は、この費用削減のために行われます。
 費用削減では、高くなった人件費の他にも、材料費、交際費なども切り詰めるだけ切り詰めます。
 本来、人件費や材料費などは会社の活動にとって必要不可欠な「費用、出費」です。
 しかし、人件費や材料費が実際の相場以上に高くなっている、いわゆる「高コスト体質」に陥ると、「利益」を生み出すことができません。
 「利益」を出せない会社は、その存在意義がありません。
 なぜなら、会社の存在意義は、社会の役に立つかどうかという点にあり、その結果として「利益」が存在しているからです。
 そこで、「利益」を出すために、費用削減によるリストラを行うのです。
山田真哉「<女子大生会計士の事件簿>世界一やさしい会計の本です」124頁 日本実業出版社
と解説されております。
「飛べない豚は、ただの豚」ですが、「利益のでない会社は、会社ではない」ということなんでしょう。
まぁ、そうなんでしょうけどね。

現実は物語のようにはいかない、ということなんですね。


<女子大生会計士の事件簿>世界一やさしい会計の本です

日本実業出版社

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松本清張「砂の器 (下)」

2005-07-08 08:45:00 | 書評
犯人が分かっていると、面白さが半減するなぁ


松本清張「砂の器 (下)」。

前回は、この小説の「シンプルは、安っぽくはないです。個人的には、作品をサクサク読ませてくれる装置にすらなっております。」と書きました。
褒めました。

今回は、その「シンプル」の悪い点。

とにかく、偶然が多いです。はっきり言うと、ご都合主義。

まず「顔をつぶされた三木謙一の正体が明らかになるのは息子からの通報」というのは、まぁ、いいとするにしても。
 ・血痕のついた衣服を端切れにして車窓から撒いていた姿が、偶々エッセイとなり、偶々今西刑事の目にとまる。
 ・その撒いていた女性は、偶々今西刑事の近くで自殺する。
 ・その女性に入れこんでいた男性を、偶々今西刑事が目撃してしまう。
 ・関川の情婦が、偶々妹の経営するアパートに引っ越してくる。
 ・席の隣にいた防犯協会の話を食堂で偶々今西刑事が聞いて、完全犯罪解明の糸口を得る。
とりあえず、こんな感じ。他にもありそうです。

まっ、あんま重箱の隅を突いても仕方ないんですけどね(物語のほとんどは偶然を排除しては成立しませんからね)。


あと、らい病という設定も、そんなに活かされてないなぁ。
犯人の心情がほとんど描写されていないので、仕方ないのか?

作者としては、関川を犯人と読者に推理させたかったため、関川の記述は豊富なんですよね。だから、関川の人間性は、よく分かる。
一方、和賀はできるだけ背景に塗りこめてしまいたかったため、彼の心理や裏側については、あまり書かれない。だから、和賀のキャラについては、まったく浮かんでこない。

謎解きや大どんでん返しの仕掛けを重視した結果なんでしょうねぇ。

で、そんな関川についての今西刑事の感想。
 もちろん、今西栄太郎にはむずかしいことはわからない。また、近ごろの評論家の書く文章には、はじめからこちらが劣等感をもっている。知的に積みあげられた荘厳な文章なのである。何を言っているのか、今西などにはのみこめない。関川重雄のあの文章は、わかりやすくはあったが、それも果たして、文字どおりに受け取っていいかどうか、彼には自信がなかった。
 えてして、こういう評論家の書いているものには、文字の行間から、言わんとするところを察しなければならないようである。それを鋭敏に読みとらねば「日本語を知らない頭の悪い読者」と言われそうである。
松本清張「砂の器 (下)」224頁 新潮文庫
今西刑事ったら、仕事一筋かと思ったら、「こういう評論家の書いているものには、文字の行間から、言わんとするところを察しなければならないようである。それを鋭敏に読みとらねば「日本語を知らない頭の悪い読者」と言われそうである。」なんて、文壇にありがちな揚げ足取り合戦をよく知ってますね~。

というか、もろ松本清張本人の感想ですね。


中居正広版「砂の器」のような、犯人の孤独なんかを求めると肩透かしをくらいます。
が、シンプルな作品を久しぶりに味わいたい方には、よろしいのでは?


砂の器〈下〉

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松本清張「砂の器 (上)」

2005-07-07 08:46:07 | 書評
我は砂の器なり


あんまりドラマは見ないんですが、中居正広がやっていた「砂の器」は、なんとなく全部見ました。

最初は、良かったんだけどなぁ。
あまり先を急がない、ゆったりとしたテンポが嫌いではありませんでした。

が、犯人の犯行理由が徐々に明らかになっていく段階で、どうもグダグダになってきて…………。
最終的には、どうもなぁ。ちょっと無理がある過去だった。

松雪泰子の役も、あんまり活かされていたとは思えないし(しかし、松雪泰子の鼻筋は通り過ぎ。整形か? と勘ぐりたくなる)。


それでも、原作が気になっておりました。
そして、今現在、さほど読みたい本もないので、この機会に読んでみることにしました。


で、松本清張「砂の器 (上)」の感想。

シンプルだね。
ミステリーは、あんまり読まない方ですが、それでも今の作品と比べると非常にシンプルなことくらいは分かります。

凝った文体があるわけでもなく、特殊な性格をした人間が登場するわけでもなく、新鮮な設定があるわけでもなく(当時は新鮮だったのかもしれないけど)。

でも、そのシンプルは、安っぽくはないです。
個人的には、作品をサクサク読ませてくれる装置にすらなっております。

「現代人(現代文学)が忘れた大事なものが、ここにはる」
などとエコロジストみたいなことを言うつもりはありませんが、物語は、やっぱ基本が大事なんだなぁ…………。


「和賀さんの音楽って、すごく新しいんでしょう。なんですか、前衛音楽とかって……」
「そうだ、ミュージック・コンクレート(具体音楽)というんだ。今までも、それを先駆的にやった人はいる。和賀は、そこに目をつけてはじめたんだがね。どうせ、奴には、そんなことしかできない。独創というものが全然ないんだよ。他人のものをあとから割りこんで横取りする。こりやあ楽だ」
松本清張「砂の器 (上)」379頁 新潮文庫
これは、関川重雄が情婦に和賀英良に関して語った言葉。
ドラマでの関川重雄(ドラマでは関川雄介になっている。なぜ?)は武田真治で、彼もいい感じでした。原作も虚栄心の強い小心者で、野心家で嫉妬深いという、嫌な味がにじみ出ていて、とても好感度が高いです。

これから下巻で転落の人生を歩んでいくの、今から楽しみです。


砂の器〈上〉

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羽生生純「恋の門 ハンディ版 (2)」

2005-07-03 08:56:05 | 書評
夫婦喧嘩は犬も……


初体験に失敗のショックで旅に出た蒼木門。
金がないので、自分の作品(石が貼り付けてある、意味不明の漫画)で、支払いの代わりにしようとしますが、
「警察呼んで」
「と 年寄りだからって なめんじゃねェぞ コラ!!」
「うちは仏教徒ですから」
「それに価値があるんなら 俺のクソは重要文化財だ」
「お客さん困るよ ゴミ捨てられてっちゃあ」
羽生生純「恋の門 ハンディ版 (2)」8~9頁 Beam comix
と言われる始末。
最後には、ただ酒を飲もうとして(蒼木門にしてみると、漫画が代金となるはずだったのでしょうが)、ボコにされます。

でも、
理解できないものは全て病気…
あんた知ってるか
そういうのを思考停止っつうん…
羽生生純「恋の門 ハンディ版 (2)」13頁 Beam comix
と懲りずに負け惜しみを言う男。

見事な駄目人間です。


でも、一方で、証恋乃もかなりの強烈なキャラです。彼氏と喧嘩をして、怒りすぎたことを、こんなふうに後悔しています。
門くんだって ワザとやったんじゃない
むしろ私がちゃんと言わなかったから……
大事な本 汚されて我を忘れちゃったけど……
あまりキツく言うと また逃げちゃうかも知れない……
逃げたら また違う女の所へ行くかも知れない
もしその女がコスプレイヤーで
門くんにもコスプレさせて
いつかコスパで ばったり会ったりしたら……
嫌ッ
羽生生純「恋の門 ハンディ版 (2)」143~144頁 Beam comix
基準はあくまで、コスプレです。自分の世界最優先です。

この二つの異様な性格が一緒に暮らしていく姿は、なんとも奇妙な心情にしてくれます。

第十三話「諍い」など、この二人の落差が見事に作用しているのではないでしょうか?

声優の顔のついた雑誌を汚されたことに怒っている恋乃を見ているときは、蒼木と同じように「なにもそんなに怒ることないのに」と読者である自分も思ってしまいます。
が、報復に石を割られてしまって嘆き怒っている蒼木を見ているときは、恋乃と同じように「なにもそんなものにこだわることはないのに」と読者である自分も思ってしまいます。

で、最後は、蒼木は雑誌を古本屋から探し出し、恋乃は代わりの石を持って帰ってきます。しかし、雑誌は切り抜きだらけで恋乃には不満なものだし、石も以前のものとは全く違っており蒼木には納得できるものではありません。
しかし、二人は互いを思いやる気持ちに感動して仲直りするわけです。

これは、O・ヘンリーの「賢者たちの贈り物」のパクリなんでしょう。「賢者たちの贈り物」ですと、読者も感動! ですが、「恋の門」では「あほか、お前ら。勝手にやってろ」という読後感。

見事な独自性を描き出しております。


「電車男」映画版では、オタク男がちゃんと描かれていると評判ですが(未見)、「恋の門」映画版も、ちゃんと「オタク女の痛さ」と「勘違い芸術家志望青年のマヌケさ」が描かれているのかな?


恋の門 ハンディ版 (2)

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