すんけい ぶろぐ

雑感や書評など

アーネスト・ヘミングウェイ「武器よさらば」

2006-10-30 22:06:57 | 書評
梗概だけまとめてしまうと、どんな名作も凡作になってしまうものだ


高見浩の新訳「日はまた昇る」は、一度、大久保康雄版を読んでいるにもかかわらず、すこぶる面白く読めました。

ちょっと村上春樹風になっており、「こんなのヘミングウェイじゃない!」と生理的に反感も持つ人もいるかもしれません。
が、個人的には、村上春樹は嫌いじゃないので、僕は大丈夫でした。


で、「武器よさらば」の新訳が出たので読んでみました。

が…………、考えてみると、もともと「武器よさらば」は、そんなに好きな作品じゃなかったな。だから、いくら新訳にされても、………やっぱ面白くない。

高見浩の責任云々よりも、僕の嗜好の問題です。


「武器よさらば」のストーリーは、Wikiから抜粋すると、こんな感じ。
第一次世界大戦中、イタリア兵に志願したアメリカ人フレディック・ヘンリーだが、イタリア軍は理想とはかけ離れていた。その戦場で看護婦キャサリン・バークレーと出会う。初めは遊びのつもりの恋であったが、しだいに二人は深く愛し合うようになった。やがてキャサリンの妊娠が分かり、二人はスイスへと逃亡。ところが難産の末、子と共にキャサリンは死んでしまい、最後は雨の中をフレデリックは一人立ち去ってゆく。
要点をまとめてしまうと、上記の通り。

もちろん、そのストーリーの根幹には、ヘミングウェイ独特の「絶対的な虚無」が横たわり、それはそれで味なのですが。

でも、表面上のストーリーが、なんとも平凡な恋愛ものでね。

どうも、ね。


まぁ作品として、一級品であるのは間違いないけど。


武器よさらば

新潮社

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読売新聞中国取材団「膨張中国」

2006-10-29 18:48:51 | 書評
西村真吾さん、お元気ですか~?


あんまり期待しないで手にした読売新聞中国取材団「膨張中国」ですが、これがすこぶる面白かったです。

新聞での連載をまとめただけあって、文章の流れが小気味良く、中国の抱えている問題が外交、経済、農村、米国、報道等々、分野ごとにサクサクと読めます。


「読売新聞」というだけあって、もちろん論調は「反中国」………と言うよりは「反共産党」です。

でも、ヒステリックに否定するのではなく、一党独裁でありながら、資本主義を接木した中国の歪みが、冷静に指摘されております。

中国人が読むと「そんなことはない! 中国の未来はバラ色だ!!」と言うかもしれませんが、日本人からすると、納得できる内容となっています。

こういう本はタイムリーに読むから面白いので、読むなら今年中がよろしいと思います。


膨張中国―新ナショナリズムと歪んだ成長

中央公論新社

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恩田隆「夜のピクニック」

2006-10-28 23:14:34 | 書評
流行か…………


恩田隆「夜のピクニック」を読みました。

えぇそうです。話題だから、手にしました。
ミーハーで、何が悪い?


「いや、悪いです」
と、思わざる得ない結果でした。


大して面白くないね。

文体は普通。
特に凝ってもないので、読み易いのは確かですが。


物語は「超映画批評」での指摘が小説にも当てはまります。

この映画は、2時間のほとんどが歩くシーンだが、その間引っ張りつづけるには、ヒロインの抱える秘密のネタが弱すぎる。

ネタバレしてしまうと、このヒロインというのが同級生の男の子と異母兄弟なんですよ。
で、男の方は、女の方を一方的に恨んでいて………でも、女は、私たちは、やはり和解すべきなんじゃないかと悩んでいて。

この物語の背骨である「異母兄弟」という設定は、ケッコウ早い段階で明かされます。
その後は、そのことでウジウジと二人が悩むことが中心で展開。


まぁさぁ中上健次なみの複雑は血筋を期待しているわけじゃないけど、「そんな悩み、ぶっちゃけ、どうでもいいよ」というのが、僕の感想。

そこで感情移入ができないから、後は、この微温的ストーリーを読むのは苦痛でした。

人によっては、このくらいの温度が好きなのだろうけど。

僕にはぬるま湯だった。


夜のピクニック

新潮社

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スクウェア・エニックス「ファイナルファンタジーIII」

2006-10-20 21:05:16 | その他の評価
大した感想もなく


DS版のFF3をクリアーしました。

大した感想もなく。
普通に面白かったです。

ファミコン版は未経験。だから、2Dに特別な思い入れがあるわけでもないですが、それでも「ポリゴンにする必要があったのかなぁ?」と思わないでも。

やはり敵キャラが少ないというのは、寂しいですなぁ。
DSハードの限界に挑む2Dでも良かったような気もしますが…………。

そっちの方が、今では面倒なのか?

まっ、そんな程度の感想しかないです。


ファイナルファンタジーIII

スクウェア・エニックス

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池澤夏樹「夏の朝の成層圏」

2006-10-18 21:48:03 | 書評
娘は声優


池澤夏樹の「夏の朝の成層圏」を読了。

長編デビュー作、とのこと。

確かに、ちょっと生硬な点もあり。

文章が読み難いというわけではなく、全体的にストーリーの運びが、観念に流れてしまうきらいがあるかなぁ~という感じ。

が、それは今の池澤夏樹にも、あることか。


それは、ともかく。
面白かったです。

特に前半の無人島でのサバイバルなんかは、…………なんでか面白い。

こういう「ただただ、凡人が必死に生きるという過程」を、さいとうたかおの「サバイバル」もだけど、ちゃんと力量のある作家がやると、なんでか面白いんだよな。


で、ある程度、生命の維持が容易になってきたあたりからは、文明と自然の対立という池澤夏樹らしいテーマが顔を出してきます。

ここら辺も、つまらないわけじゃないけど、ちょっと自己主張が強すぎて、物語が犠牲になっているかなぁ…………と思わないでもないです。


まぁ池澤夏樹の他の作品を楽しく読める人は、これも期待に違わず、読めると思います。


夏の朝の成層圏

中央公論社

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村上春樹「アフターダーク」

2006-10-15 20:43:08 | 書評
和解への助走?


「残念ぇーん、アジア人が受賞するのは、しばらく後ですから!」
と、流行のフレーズを使わせてもらいました。

村上春樹のノーベル文学賞のことです。

Wikiのノーベル文学賞

と思ったら、今年はトルコ人がとってるじゃん。

アジア人が受賞するなら今年だったんだな。

2000年には高行健だし、1994年は大江健三郎だ。

村上春樹がとれるのは、2010年ごろになりそうだな。


もっとも、村上春樹独特のスノッブな小道具が、最終的には、どう評価されるのか…………。
村上春樹自身は、賞よりも、自分の世界を大事にするようなタイプだから、学者・玄人受けしそうな、所謂「純文学」性の高い作品は書かんだろうし。

まぁ村上春樹は、健康な生活を送っているようだから、そのうち受賞できるんじゃないですかね?

それよりも、村上春樹以後で、世界で評価されているような作家がいないのが気になるなぁ…………。


それは、ともかく。

村上春樹の「アフターダーク」を読了。

長さとしては、「国境の南、太陽の西」、「スプートニクの恋人」と同じくらい。
大長編の間に挟まれる、サクッと読める長編です。

評価としては、面白かったです。しっかりとした物語。読みやすいけど安っぽくない文体。適度な長さ。


感想としては、「村上春樹、年をとったなぁ…………」。

作者が第三者の視点として物語は進み、群像劇だけれども、中心は二十歳前後の少女と少年。

村上春樹らしく、性的な表に裏に話が充満しているけど、この中心の少女と少年には、そういう関係が希薄でね。

「昔の村上春樹だったら、こういかんだろうなぁ」
と思うこと、しばしば。

物語の視点が第三者であることもあいまって、作者が微笑ましく少年少女の成長を描いているように思えてね…………、
「村上春樹、年をとったなぁ…………」
と思ってしまったわけです。


それに、物語に血縁が深く入りこむようになったね。
「海辺のカフカ」も、そうだったけど。

少年が進路を決める背景には、詐欺師的な父親の影がチラつくし、少女の、どことなく影を背負った生き方には、強烈な美貌を持つ姉の影響が間違いないし。

で、最終的には、二人とも、それを「理解しよう」とし始めている。

和解までは進まないけどね。

「村上春樹、年をとったなぁ…………」
昔ならこうは、いかんでしょ。


で、ラストで少年少女が結ばれることはないけれども、再会を臭わすものになっている。
「村上春樹、年をとったなぁ…………」
昔は関係性が断絶・破滅で終わっていたもんなぁ。


村上春樹の感想。
村上春樹「海辺のカフカ 上巻」
村上春樹「海辺のカフカ 下巻」


アフターダーク

講談社

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筒井康隆「時をかける少女」

2006-10-13 21:14:50 | 書評
小説


アニメを見て以来、「時をかける少女」ブームが来ておりまして、原作の筒井康隆「時をかける少女」を読みました。

感想としては。

あぁなんつぅーか、懐かしい臭いのする小説だね。

昔の中高生に読ませるための小説。
かなり純朴です。


後、短編………と言うほど短くはないけど、中篇程度の長さなのね。
逆に言うと、二時間の映画にし易いのかもね。

この長さの原作だと、監督の独自性も出せるだろうし。


奥華子「ガーネット」
細田守「時をかける少女」
大林宣彦「時をかける少女」


時をかける少女

角川書店

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細川貂々「ツレがうつになりまして。」

2006-10-11 22:24:06 | 書評
ツレという表現は、なんとなく苦手


まぁいろいろあって「ツレがうつになりまして。」を読みました(ぶっちゃけ、身近にうつ病がいるんだよ!)。

単純にマンガとしての価値を論じると……………、絵のレベルは、
「うるさくなく、しっかりと記号化されているね!」
という感じ(要するに、精密さとはかけ離れた、簡略化された絵)。

うつ病の旦那との日常をつづっただけなので、作者のストーリーテーラーの能力を云々するわけにもいかず。

はっきり言って、身近にうつ病患者がいる人以外は、用のないマンガだと思います。


が、そうではない人(いくらうつ病が身近な病気になりつつあるとは言え、そんなに多くはないだろう)には、かなり役に立つマンガだと思います。

なんだかんだ言って、長時間の拘束が必要となる新書や専門書に比べて、マンガですと、サクッと読めます。

で、けっこう忌憚のないエピソード(「うつ病患者がグチグチ言って腹が立つ」とか「寝てるだけの病気なんて、羨ましいねぇ~」と思うシーン)は、やはり同感できる場面なのでは?


ツレがうつになりまして。

幻冬舎

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谷崎潤一郎「痴人の愛」

2006-10-10 20:52:23 | 書評
さて


谷崎の「痴人の愛」など読んだり。

28才の男が、15、16才の少女と一緒に暮らしていくという冒頭から、頭がクラクラする設定です。

当時は、良かったのか?


で、最初は飼いならしていこうとした少女が、徐々に悪魔的な魅力を備えていき、最後には少女に男が飼いならされていくというお話。

面白いのは、「悪魔的な魅力」というのが、イコール「欧米化」していくこと。

男が女に屈服していく恥辱とともに、日本文化が欧米文化に敗れていくことも同時進行しているわけでして、こういう筋立ては、やっぱ玄人ですな。


痴人の愛

新潮社

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入江曜子「溥儀―清朝最後の皇帝」

2006-10-01 07:15:53 | 書評
「ラストエンペラー」を久しぶりに見たくなった


なんとなく新書が読みたくなって、「溥儀―清朝最後の皇帝」を読みました。

そんなに小難しくなく、かと言って、簡単も過ぎず。

「これくらは知っているでしょうから、詳述なんかしないわよ」という箇所もあり、また、微妙に文学的表現を駆使して、複雑な人間の立場・感情を表現するところで惑わされることもありましたが、まぁ、「悪文だ!」と非難するほどではなく。

と言うよりは、そう感じるかどうかは、個々人の好みの範囲だと思います。


さて、内容。

清朝最後の皇帝として、激動の時代に奇異な人生を歩んだ男(←ありがちな表現)の一生が書かれております。

一言であらわせば、「あわれ」。

権力者であったことは一度もないのに、常に清朝の血筋を継いでいるという一点で、権威者であり続けなくてはいけなかった。

それは、常々、時の権力者に利用されるしかなく、もちろん、本人の小賢しさもあろうが、自分以外の巨大な力におもねることでしか、生きていくことのできない存在であった。


しかし、時に権力に依存して行動しなくてはいけないというのは、その立場になってみれば、誰にでもあること。

文革期に、溥儀を批判闘争の対象として吊るし上げを行っていた際のこと。
このとき、一旦党と政府が改造した特赦した人間をふたたび批判闘争の対象とすることは、国家に対する批判になる、と気づいた患者がいた。入院中の三司の学生である。「闘争する相手を間違えるな」と書いたメモを渡された紅衛兵が姿を消した後、会議の空気は李玉琴には同情するが、現権力の改革をめざす文革のテーマとしては筋違いだという方向にトーンダウンし、結論らしい結論もないままに溥儀は解放された。
入江曜子「溥儀―清朝最後の皇帝」228頁 岩波新書
李玉琴というのは、溥儀のかつてのお妃様の一人。文革期になって、その過去の経歴への批判の矛先をかわそうと、溥儀へ詰め寄ったのですが…………。

短い記述ながらも、人間の「小心」と「権力欲」が、つまったエピソードです。

「溥儀」の人生というのも、この二つが延々と続いており、それが楽しめるのなら、「買い」だと思います。


溥儀―清朝最後の皇帝

岩波書店

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