野村の「バブル並み利益」が示す警告
一目均衡 編集委員 川崎健
マーケットニュース
2021年5月10日 19:24 (2021年5月11日 5:31更新)
野村ホールディングスが4月27日に発表した2021年3月期決算。投資家を驚かせたのは、年間配当を前の期比15円増の35円と大きく引き上げたことだった。野村は米メディア株などへの投資で多額の損失を被った米投資会社アルケゴス・キャピタル・マネジメントから融資を回収できず、約3077億円(前期計上分は2457億円)の損失を出した。大幅増配は「米顧客取引に起因する損失が仮になかったとすれば、どのような利益水準にあったかを踏まえて判断した」(北村巧執行役)という。アルケゴスなかりせば、税引き前利益は4764億円だった計算になる。
当時は単独決算のため単純比較できないが、トヨタ自動車を抜き利益日本一になった1987年9月期の経常最高益(4937億円)や90年3月期(4888億円)に迫るバブル期並みの水準だ。固定手数料時代のバブル期の稼ぎ頭は国内営業。今回は米国事業だ。中でも米株市場ではオプションなど商品によっては米欧大手に劣らないシェアを獲得しつつある。アルケゴス関連の損失は「非常に個別性の強い特殊な取引」(北村執行役)とみる。リスク管理を強化しつつ、今回の失敗にひるまず、これまでの「米国シフト」は変わらず進める考えという。
アルケゴスが「特殊事例」という説明は、同じように損失を計上したクレディ・スイスやモルガン・スタンレーの決算発表でも聞かれた。
確かに借入金で高いレバレッジ(テコ)をかけて中国企業の米預託証券(ADR)など流動性の低い銘柄にも集中投資していたというアルケゴスは、リスクを顧みない特殊な投資家かもしれない。だが金融機関もそれが分かって融資していたのではないか。
「虚偽説明など犯罪行為だったのならまだしも、過剰なリスクテークを分かった上でそろって手を貸していたのなら特殊事例といえないだろう」。大手証券アナリストは話す。アルケゴス関連損失が業界全体で1兆円規模だったことから考えると、金融機関はアルケゴス1社に数兆円を融資していたことになる。
ある野村関係者は「バブル期の尾上縫事件をほうふつとさせる」と自嘲気味に話す。旧日本興業銀行をはじめ銀行は大阪の料亭の女将を「北浜の天才相場師」とはやし、その株式投機に延べ2兆円超を貸し込んだ。これも特殊事例かもしれないが、尾上縫事件が「氷山の一角」だったのはその後の歴史が示す通りだ。過去をみても1980年代のバブル時は円高不況に対応した利下げが過剰投資を招いた。今回も金融緩和・財政政策でカネ余りが際立つ。1匹いたら30匹いると疑えという「ゴキブリ理論」を持ち出す気はないが、過剰なレバレッジが招く投機の失敗が、今度はアルケゴスとは場所を変えて噴き出す可能性は否定できない。野村の「バブル期並みの利益水準」をみて米国株への警戒モードを強めるのは、ちょっと神経質すぎるだろうか。