コロナ後、世界秩序が変化 中国覇権強まる ダリオ氏語る
新型コロナ 北米
2020/5/7 2:01 (2020/5/7 5:39更新)日本経済新聞 電子版
ブリッジウォーター・アソシエーツ創業者のレイ・ダリオ氏
世界中で猛威をふるう新型コロナウイルス。米最大のヘッジファンド運用会社ブリッジウォーター・アソシエーツ創業者のレイ・ダリオ氏は「コロナ後には世界の秩序が大きく変化し、中国の覇権が鮮明になる」と読む。歴史上の経済・金融危機を分析し、2008年のリーマン危機でも投資収益を確保した同氏だが、分析データに過去のパンデミックを加えていなかったことを反省。データを再構築していることを明らかにした。
――歴史的に俯瞰(ふかん)して今回のコロナ危機をどう捉えますか。
コロナ危機が起きる前から景気はすでに非常に不安定な状態となっており、コロナが引き金を引いたが経済の悪化はなるべくしてなったといえる。米国のように高水準の債務と貧富の格差が拡大していた国では、中央銀行にできる力は限界に達していた。これは1930年から1945年に起きた経済・金融危機とよく似ている。
中央銀行や政府は資産買い取りのための紙幣印刷によって、新たに生み出したお金と信用で所得やバランスシートにあいた大きな穴を埋めるのに必死だ。しかし、個人も企業も国も貯蓄のないところではやがて破産に直面する。1930年から45年に起きたように地政学的パワー・バランスが崩れ、世界の秩序が大きく変わる。国同士でも国内でも富と権力を巡る対立が激化する。45年以降の世界に起きたように富の再分配を巡って、資本主義と社会主義の両極端の対立も起きるだろう。
――米国の立場はどう変化しますか。
ドルが基軸通貨で、かつ新興国などがドル建て債務をドルベースで返済し、そしてドルによるモノの購入が続く限り、米国は覇権を維持できるだろう。しかし、いずれはドル建て債務の不履行が起きて債務が帳消しになったり、米連邦準備理事会(FRB)によるドル紙幣の印刷が増えて、ドルの基軸通貨としての価値が低下する。そうなると米国の国力も低下する。歴史が示すように大英帝国やオランダの衰退も債務の拡大と通貨の下落とともに起こった。
米国の次に覇権を握るのは中国だ。サプライチェーンやテクノロジーの進化で誰が主導権を握るのかを巡って世界秩序の再編が起きるなか、中国が主役となる。ただ、中国の人民元が基軸通貨になるには時間がかかるだろう。そのためにはまず中国の資本市場を開放することが必要だからだ。
――ファンド運用で効果を発揮してきた「ストレステスト・システム」について教えて下さい。
歴史上で起きた金融危機は同じ理由で繰り返し起きている。それを踏まえ1800年まで遡ってそれぞれの大きな出来事をシステムに入れて私が構築した投資のプリンシプル(原理)にどう反応するかを分析してきた。
――このシステムにはパンデミックとなった1918年のスペイン・インフルエンザも含まれていましたか。
残念ながら含んでいなかった。これは大きな後悔だ。スペイン・インフルが起きたときはちょうど第一世界大戦直後の経済悪化と重なり、スペイン・インフルからの経済への打撃を見逃していた。コロナウイルスの感染が拡大して初めて経済への打撃を認識した。
――将来的にはパンデミックをストレステスト・システムの要素に加えますか。
その計画だ。実際、パンデミックに加えて、干ばつや洪水をはじめとする気候変動など経済や政治に大きな影響を与える自然災害も加えるようこのシステムを過去に遡って再構築している最中だ。
――コロナ危機に対応した各国政府の経済刺激策をどう評価しますか。
お金と信用を創造するために各国の政府は大規模な景気刺激策に乗り出しているが、所得の減少などを埋めるにはさらなる対策が必要だ。ただ、国によってその効果には大きな差がある。債務水準が高く、価値の安定していない自国通貨での紙幣印刷しかできない新興国は、信用危機やインフレ加速という問題に直面する。日本のように円という国際決済通貨を持つ国には国際的な購買力があるので日銀の政策が効力を発揮するだろう。
(聞き手はニューヨーク=伴百江)
新型コロナ 北米
2020/5/7 2:01 (2020/5/7 5:39更新)日本経済新聞 電子版
ブリッジウォーター・アソシエーツ創業者のレイ・ダリオ氏
世界中で猛威をふるう新型コロナウイルス。米最大のヘッジファンド運用会社ブリッジウォーター・アソシエーツ創業者のレイ・ダリオ氏は「コロナ後には世界の秩序が大きく変化し、中国の覇権が鮮明になる」と読む。歴史上の経済・金融危機を分析し、2008年のリーマン危機でも投資収益を確保した同氏だが、分析データに過去のパンデミックを加えていなかったことを反省。データを再構築していることを明らかにした。
――歴史的に俯瞰(ふかん)して今回のコロナ危機をどう捉えますか。
コロナ危機が起きる前から景気はすでに非常に不安定な状態となっており、コロナが引き金を引いたが経済の悪化はなるべくしてなったといえる。米国のように高水準の債務と貧富の格差が拡大していた国では、中央銀行にできる力は限界に達していた。これは1930年から1945年に起きた経済・金融危機とよく似ている。
中央銀行や政府は資産買い取りのための紙幣印刷によって、新たに生み出したお金と信用で所得やバランスシートにあいた大きな穴を埋めるのに必死だ。しかし、個人も企業も国も貯蓄のないところではやがて破産に直面する。1930年から45年に起きたように地政学的パワー・バランスが崩れ、世界の秩序が大きく変わる。国同士でも国内でも富と権力を巡る対立が激化する。45年以降の世界に起きたように富の再分配を巡って、資本主義と社会主義の両極端の対立も起きるだろう。
――米国の立場はどう変化しますか。
ドルが基軸通貨で、かつ新興国などがドル建て債務をドルベースで返済し、そしてドルによるモノの購入が続く限り、米国は覇権を維持できるだろう。しかし、いずれはドル建て債務の不履行が起きて債務が帳消しになったり、米連邦準備理事会(FRB)によるドル紙幣の印刷が増えて、ドルの基軸通貨としての価値が低下する。そうなると米国の国力も低下する。歴史が示すように大英帝国やオランダの衰退も債務の拡大と通貨の下落とともに起こった。
米国の次に覇権を握るのは中国だ。サプライチェーンやテクノロジーの進化で誰が主導権を握るのかを巡って世界秩序の再編が起きるなか、中国が主役となる。ただ、中国の人民元が基軸通貨になるには時間がかかるだろう。そのためにはまず中国の資本市場を開放することが必要だからだ。
――ファンド運用で効果を発揮してきた「ストレステスト・システム」について教えて下さい。
歴史上で起きた金融危機は同じ理由で繰り返し起きている。それを踏まえ1800年まで遡ってそれぞれの大きな出来事をシステムに入れて私が構築した投資のプリンシプル(原理)にどう反応するかを分析してきた。
――このシステムにはパンデミックとなった1918年のスペイン・インフルエンザも含まれていましたか。
残念ながら含んでいなかった。これは大きな後悔だ。スペイン・インフルが起きたときはちょうど第一世界大戦直後の経済悪化と重なり、スペイン・インフルからの経済への打撃を見逃していた。コロナウイルスの感染が拡大して初めて経済への打撃を認識した。
――将来的にはパンデミックをストレステスト・システムの要素に加えますか。
その計画だ。実際、パンデミックに加えて、干ばつや洪水をはじめとする気候変動など経済や政治に大きな影響を与える自然災害も加えるようこのシステムを過去に遡って再構築している最中だ。
――コロナ危機に対応した各国政府の経済刺激策をどう評価しますか。
お金と信用を創造するために各国の政府は大規模な景気刺激策に乗り出しているが、所得の減少などを埋めるにはさらなる対策が必要だ。ただ、国によってその効果には大きな差がある。債務水準が高く、価値の安定していない自国通貨での紙幣印刷しかできない新興国は、信用危機やインフレ加速という問題に直面する。日本のように円という国際決済通貨を持つ国には国際的な購買力があるので日銀の政策が効力を発揮するだろう。
(聞き手はニューヨーク=伴百江)