SJesterのバックステージ

音楽関連の話題中心の妄言集です。(^^)/
もしよろしければ、ごゆっくりどうぞ。

しなやかな自在さ

2007年05月10日 00時01分06秒 | ピアノ関連
★ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第28番・第29番
                  (演奏:エリック・ハイドシェック)
1.ピアノ・ソナタ 第28番 イ長調 作品101
2.ピアノ・ソナタ 第29番 変ロ長調 作品106 “ハンマークラヴィーア”
                  (1999年録音)

ハイドシェックのベートーヴェンの後期ピアノ・ソナタ演奏を取り上げました。
まず、このディスクにはヤマハのCF-ⅢSが使用されています。
このピアノの音も演奏に大きな影響を与えています。当たり前ですが・・・。

ヤマハのピアノって、ダンパーペダルを踏むとどうしようもなくキンキラキンの音色がするというイメージがあるのですが、さすがプロが弾くと変幻自在の音色が出せるんだなぁと感服した次第です。
ここでも、ちゃんと必要なところではキンキラキンの音色が出てくるので、ハイドシェックがピアノと相談しながらうまく音色を引き出しているんでしょうが、本当にキレイな音色だと感じます。

ハイドシェックのベートーヴェンといえば宇和島でのライヴ録音が有名ですし、先だってそのディスクも復刻されたようですが私は聴いていません。
でも、この2枚のベートーヴェン後期作品のディスクは掛け替えのない宝物だと心底思います。この2枚を聴いていれば彼のベートーヴェン演奏は堪能できてしまうと思えるほど・・・。

一般的に時としてクセのある演奏をすると言われるハイドシェックですが、ここでは確かにアクティブな演奏ではあるものの、決して羽目をはずさない、むしろ工夫は凝らしてあるけれどオーソドックスな解釈を採っているように思われます。

そして出てくる音楽は、どこまでもしなやかでありながら自在に遊んでいるといった様。
作品101では第1楽章の落ち着きと微妙な響の移ろい、第4楽章の何ともいえない生気にあふれた弾み具合がたまらなく楽しいです。

作品106“ハンマークラヴィーア”でも、ヤマハピアノのほどよいキラキラ感が縦横に駆使され、必要な時に必要な分だけバスの豊かな響が得られる。
ハイドシェックの絶妙なペダルの操作のおかげで音の混濁が感じられないという、ピアノとピアニストの相性のよさも感じられます。
えてして曲としてのまとまりに欠け、てんでんバラバラに空中分解してしまったり、無意味に冗長さを感じさせる(特に第3楽章)この曲も、ハイドシェックの手にかかると「月日のたつのも夢のうち」と竜宮城へ行ったような気になるので不思議です。
そのほか、第3楽章から第4楽章に移る際のつなぎのパッセージなど魔法のように響きます。

完全にピアニストがベートーヴェンの世界に遊ぶ術を心得ているから、言い換えるとベートーヴェンの曲に立ち向かったり、ケンカしたりしないからこそこのような爽快な聴後感が得られるのではないかと思います。

ピアニストも、楽曲も、演奏されている楽器もそれぞれが水を得た魚のように新鮮でぴちぴちしている楽しい一枚です。


★ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第30番~第32番
                  (演奏:エリック・ハイドシェック)

1.ピアノ・ソナタ 第30番 ホ長調 作品109
2.ピアノ・ソナタ 第31番 変イ長調 作品110
3.ピアノ・ソナタ 第32番 ハ短調 作品111
                  (2000年録音)

これもなんとしなやかで自在な音世界なんでしょうか?
ピアニストが最後の3つのソナタの世界に自在に遊び、その時間空間を統べてしまっているかのようです。
細かいところを突っ込めば、多分フレーズの処理などに独特の味付けを施してあるところなどもあるのでしょうが、アクが強いと言われることもあるハイドシェックの演奏でありながらどこまでも自然に流れるよう・・・。

作品109の終楽章の変奏曲など、まさに星空の万華鏡を見る思い。

作品110では第1楽章の主題の再現部からそれと分かるほどにアチェレランドして音楽に生気を与えているし、普段はけたたましく吼えたり、強烈に強弱をつけたりして演奏されることの多い中間楽章を、落ち着いたテンポ、音量差のうちに味わい深く弾き表していくところなど本当に新鮮。
最後のフーガも大伽藍を築き上げると言う感じではないですが、不思議な充足感を感じることが出来る演奏です。

作品111の第1楽章は、意図的にすこしリズムを引っ掛けてゴツゴツした感じを演出しているほか、ときとしてハイドシェックらしい節回しも聴かれますが、第2楽章はだんだんとすべての角が取れてハ長調の崇高にしてスムーズな世界に収束していく様が感動的であります。

文句なしの名演!!
ハイドシェックのベートーヴェン芸術はここにきわまっていると思います。(^^)v
彼はライヴもすごいようですが、録音の条件のすぐれたスタジオでこれだけ感覚的な、感興にあふれた演奏をしてもらえるのならば別にライヴ録音に拘る必要はないと思います。

専門誌にはハイドシェックは日によってコンディションに差があるタイプの演奏家だということが書かれているのを見たことがありますが、相当いい状態でレコーディングができたんでしょうね。


★ハイドシェック:フォーレ・リサイタル
                  (演奏:エリック・ハイドシェック)

1.即興曲 第1番 変ホ長調 作品25
2.カプリッチョ 変ホ長調 作品84-1(8つの小品)
3.即興曲 第3番 変イ長調 作品34
4.即興曲 第2番 ヘ短調 作品31
5.幻想曲 変イ長調 作品84-2(8つの小品)
6.即興 嬰ハ短調 作品84-5(8つの小品)
7.夜想曲 変二長調 作品84-4(8つの小品)
8.ヴァルス・カプリス 第2番 変ニ長調 作品38
9.ヴァルス・カプリス 第3番 変ト長調 作品59
10.ヴァルス・カプリス 第1番 イ長調 作品30
11.フーガ イ短調 作品84-3(8つの小品)
12.アダージェット ホ短調 作品84-4(8つの小品)
13.フーガ ホ短調 作品84-6(8つの小品)
14.アレグレス(喜び) ハ長調 作品84-7(8つの小品)
15.ヴァルス・カプリス 第4番 変イ長調 作品62
16.即興曲 第4番 変二長調 作品91
17.即興曲 第5番 嬰へ短調 作品102
                  (1993年録音) 

前回記事でコルボ指揮によるフォーレのレクイエムを特集しました。
ハイドシェックにも出色のフォーレのリサイタルCDがあるのでついでにご紹介しておきましょう。

ここでは先のベートーヴェンより少し距離感を感じさせ、残響が多めに取り込まれた音色でこれもフォーレにピッタリと思わせられます。
プログラムは充分に練られていますが、要するにピアノのための即興曲全曲、ヴァルス・カプリス全曲と作品84の8つの小品全曲をリサイタル風に並べ替えたものであります。
曲間をアタッカ気味にしたり、全体をひとつの大きなまとまりとして聞かせることが出来るように、聴衆思いのハイドシェックが工夫を凝らしてくれているところもホスピタリティを感じさせてくれていいですね。

肝心の演奏は、彼の常として聴き飽きさせない楽しいものであるとともに、懐の深いフォーレです。
そういえばベートーヴェンにも感じた要素ですが、チャーミングなリリックさが顔を覗かせることがあります。
初期の曲の若々しさ、ここでもちゃんとフォーレの世界に遊ぶ術を知っているダンディなジェントルマンが水先案内人となって、響の移ろいの中に揺れるフォーレの世界に誘われて・・・夢見心地になること請け合いです。

ハイドシェックももちろん私の音楽殿堂に入っているかけがえのない演奏家なのです。(^^)v

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