「凄惨な結末を迎える、もう一つのファウスト物語」
冷淡な皮肉屋で、辛辣な道化師染みた悪魔。
地獄の七大支配者のうちの一人とも、サタンの代役を務める者とも言われている。
ヘブライ語やギリシア語の「光を愛さない」と云う意味の言葉が名前の由来と思われる。
この悪魔は、十六世紀に実在したとされ、魔術師であり錬金術師、更に占星術師でもあるヨハン・ファウスト(一四八八~一五三八?)博士の伝説により、人々に知られる様になった。
ファウストの物語は、戯曲、詩、オペラなど、多くの文芸作品で扱われるが、有名なのはゲーテの劇詩『ファウスト』だろう。
ゲーテの『ファウスト』は、次の様な物語である。
年老いたファウスト博士は、学究の道に邁進していた己の一生を後悔し、人生をやり直そうとメフィストフェレスを呼び出し、一つの賭けをする。それは、ファウストが本当に人生に満足した時、メフィストフェレスは博士の魂を奪えると云うものであった。
悪魔の力によって若返ったファウストは、この世のあらゆる快楽を味わうこととなる。やがて、快楽を味わい尽くしたファウストは「時よ止まれ、お前は美しい」と満足を表明して死を選ぶ。
この時、魂は天使たちによって天上に運ばれ、悪魔は魂を奪えないと云うのが、この劇詩の結末だ。
しかし、本来の伝説の結末は、少し違う。元の伝説では、博士は二十四年後に魂を引き渡す契約を結ぶ。
その約束の日、博士の部屋を訪れた者が、血塗れの室内に、ただ二つの目玉と歯が散乱しているのを目にすると云う、凄惨な結末を迎えているのである。
「天使」と「悪魔」がよくわかる本
西方世界の悪魔