ブンリン(文化文芸倫理向上委員会)に出頭を命じられた「エンタメ」系作家のマッツは、そのまま療養所に収容されてしまう。事情を説明してなんとか脱出しようとするが、理不尽さに激怒したマッツは、所長や医師によって、精神病と診断されて薬漬けの監禁状態に置かれてしまう。元作家であったという職員等によって、なんとか施設から逃れようとするが、その場は崖の上だった。他の収容者がたどった自殺ルートだった。
なんとも救いようのないディストピア小説だが、妙にリアリティがある。日本は一見自由な社会であるかに見えるが、実際には様々な制約がありしかも、たとえば、コロナ禍の中の行動制限についても、自粛が求められるという形での制度外的強制によった。法律でがんじがらめというのも、面倒極まりないものだが、法律でもないのに制約が存在するのもおかしなものだ。政府の規制も、法律ではなく、省令といった形で実施されることも多い。立法府が関与しない強制というのはどんなものか。
本書をよむうちに、ふと頭によぎるディストピアな現実がうかんだ。