本日読んだ「西洋音楽の正体」の第3章の(4)「音階を教える「グイドの手」」の後半で、ヒエロニムス・ボスの「快楽の園」の右側、地獄の情景を描いた個所(右パネルの中段下の左側)に言及した個所があった。リュートの右下にうつぶせに押しつぶされている尻と足が見える人間である。尻には楽譜が描かれている。リュートの左下にも楽譜が敷かれている。
2018年3月に取り上げた「『快楽の園』を読む ヒエロニムス・ボスの図像学」(神原正明、講談社学術文庫)と読み比べてみた。
神原正明氏の記述では、天球の音楽と官能の音楽という見出しの個所で、天球の音楽は「魂を高める音楽であり」、官能の音楽は「肉欲に関連して、牧神とセイレンの半獣に堕落する音楽」であったと記述している。
このリュートの下の尻と紙に描かれた楽譜について、神原は「レンヌバーグによれば、15世紀の作曲の規則から考えると誤りとされ、ボスが音符の読み方を知らなかったからだとする。レンヌバーグはボスか知識不足のため失敗してしまった‥」と記述している。
しかし「西洋音楽の正体」で伊藤友計は「2017年に公開されたこの絵画のドキュメンタリー映画「謎の天才画家 ヒエロニムス・ボス」の中で、指揮者のレオナルド・ガルシア・アラルコンは、この楽譜内で使用されている音程のいくつかを実際に歌唱してみせ、最後に三全音の音程を歌ったのちに次のようにコメントする。「今の(三全音)が絵の楽譜の音程で、“音楽の悪魔”といわれている。これは使ってはいけない音程なんだ。間違いなくこの部分は音楽家と一緒に描いている」。この「使ってはいけない」とされている音楽の悪魔である三全音が楽器に下敷きにされた人間の臀部に描かれているのだから、この音程がいかに忌み嫌われていたかをこの「快楽の園」は視覚的に雄弁に現している‥。‥いずれにせよ、この三全音が使用を認められていない禁じられた音程であることがこの「快楽の園」という美術作品にも見いだされる。」と記述している。
私としては、「西洋音楽の正体」の記述を受け止めておきたいと思っている。