Fsの独り言・つぶやき

1951年生。2012年3月定年、仕事を退く。俳句、写真、美術館巡り、クラシック音楽等自由気儘に綴る。労組退職者会役員。

「芥川龍之介俳句集」から

2011年12月12日 20時06分44秒 | 俳句・短歌・詩等関連
「芥川龍之介俳句集」(岩波文庫)1159句から好きな俳句44句
・山椒魚動かで水の春寒き
・一痕の月に一羽の雁落ちぬ
・木枯しや東京の日のありどころ
・凩や目刺に残る海の色
・夕波や牡蠣に老いたる船の腹
・五月雨や雨の中より海鼠壁
・花芒払ふは海の鱗雲
・雁の声落ちて芋の葉戦ぎけり
・花あかり人のみ暮るる山路かな
・暁闇を弾いて蓮の白さかな
・胸中の凩咳となりにけり
・青蛙おのれもペンキぬりたてか
・日は天に夏山の木々溶けんとす
・氷嚢や秋の氷のゆるる音
・孟竹の一竿高し秋動く
・今朝秋や寝癖も寒き歯のきしみ
・柚落ちて明るき土や夕時雨
・遠火事の覚束なさや花曇り
・榾焚けば榾に木の葉や山暮るる
・もの云わぬ研屋の業や梅雨入空
・埋火の仄に赤しわが心
・夢凉し白蓮ゆらぐ枕上
・春の夜や小暗き風呂に沈み居る
・蜂一つ土塊噛むや春の風
・手賀沼の鴨を賜る寒さかな
・元日や手を洗い居る夕心
・炭の火も息するさまよ夕まぐれ
・ひと籠の暑さ照りけり巴旦杏
・竹の根の土に跨る暑さかな
・雨に暮るる軒端の糸瓜ありやなし
・茶の色も澄めば夜寒の一人かな
・藤の花軒ばの苔の老いにけり
・唐黍やほどろと枯るる日のにほひ
・春雨の中や雪おく甲斐の山
・初秋や蝗つかめば柔らかき
・咳ひとつ赤子のしたる夜寒かな
・金網の中に鷺ゐる寒さかな
・静脈の浮いた手に杏をとらへ
・七夕や夜ははなるる海の鳴り
・小春日の塒とふらしむら雀
・松かげに鶏はらばへる暑さかな
・蝶の舌ゼンマイに似る暑さかな
・薄曇る水動かずよ芹の中
・水洟や鼻の先だけ暮れ残る
 
 昔中学生の頃、名は忘れてしまったが国語の先生が「蝶の舌ゼンマイに似る暑さかな」を引き合いに出して、「芥川龍之介の俳句には昆虫や小動物を読んだいい句がたくさんある」といったのを妙に覚えている。しかし実際に全句集を読んでみてそれほどに多いとは思えなかった。あるいは私の見落としかもしれないが…。
 しかし結果として好きな句としてあげた44句の中に、鷺・蝶・鶏・雀・蛙・蝗・鴨・蜂・牡蠣・山椒魚が10句登場することとなった。これが多いのか少ないのかはわからないが、観察の細やかさが身上なのだろうと感じた。
 これらの中でももっとも好きなのは「水洟や鼻の先だけ暮れ残る」「蝶の舌ゼンマイに似る暑さかな」「金網の中に鷺ゐる寒さかな」あたりだろうか。第1句、鼻の先を赤くして寒さを感じる真冬の夕方の残照の中にいる情景が実感としてとてもよくわかる。思わず鼻に手をやってしまうようだ。第2句、言わずと知れた代表句だろう。真夏の昼間、花の蜜を吸う蝶の様を見極めた感がする。第3句、川の中に立っている鷺も冬の寒さを連想するが、金網の中で孤独にいる鷺に、そんな自然の中にいる様をいとおしむように連想させてくれる。鷺への愛情を感じる句ではなかろうか。