蛇口が取れた

4年半の杭州生活を終え、ついに帰国。現在、中国人化後遺症に悩まされ、好評リハビリ中。

数の問題ではない

2007-08-28 01:00:20 | 中国・その他地域
現在、中国ではアメリカ製映画『南京』が話題を集めている。
もちろん、内容は「南京大虐殺」について。
8月15日に封切られ、杭州地域だけでもかなりの観客が押し寄せているという。
なぜ、アメリカが作ったんだ、ということはさておき。

そんな中、南京に行ったのである。
過剰な反応があるかと思ったが、別にこれといって何もなかった。
過剰な心配であったようで、ひとまず安心。

かといって、この問題に触れないわけにはいかないのも事実。
なので、全ての日程が終了した後、単独行動をとった。
目指すは、「侵華日軍南京大虐殺遇難同胞記念館」。
(ちなみに中国では「大虐殺」は「大」と言います)
しかし、残念ながら現在は修復中で見ることができなかった。
何せ今年は「南京大虐殺」からちょうど70周年なもんで。

がっかりしたが、仕方がない。
目的地を変更して、中山陵へ。
名前から分かるように、革命の父・孫文さんのお墓。

タクシーを降りると、いきなり人が寄ってきた。
「100元で、説明付きでここら辺の案内をしてやるから」というもの。
明らかに怪しい。
普段なら絶対に無視する。
でも、なぜかつい乗ってしまった。
あとで考えるとこれも何かの縁だったと思う。

ガイドは運転手さん。
彼がまず「おまえはどこの人だ」というから、
「日本人だ」と正直に答えた。
「オレは日本人の客もよく乗せるぞ」なんていう。
「でも、みんな言葉が分からないけどな」と笑って言う。

今度は、
「じゃあ、お前はどこの人だ」とこちらが問いかけると、
「南京出身だ」ときた。

そこで、
「本当は南京大虐殺の記念館に行きたかったけど、修理中だった」と、話を振ってみた。
そこから、話は南京大虐殺の話に。

彼は話し始めた。
「南京大虐殺では36万人が殺された。あのときオレの一族は4人が殺された。今でも87歳になる祖母は日本人を恨んでいる。多くの南京の老人たちは日本人のことが嫌いだ。今でも南京大虐殺のあった12月13日と清明節(中国のお彼岸みたいなもの。4月にあります)には、必ず3分間の黙祷を南京市民は行う。だけど、それはお前の責任ではない。過去の話だし、若い人たちは日本人を恨んではいないから大丈夫だ。」

このとき、ボクは「ありがとう」とのみ答えた。
「一族の4人が殺された」と聞いたとき、一瞬泣きそうになった。
36万人(何を根拠としているか不明)という数字より、
4人という数の方が、実感が湧いたからかもしれない。
彼があまりにも淡々とさらっと言ったからかもしれない。

彼が本当のことを言っているかどうかはわからない。
日本人が来たときのための「物語」かもしれない。
だけど、彼が嘘を言う理由も見あたらない。
そもそも、「物語」を語っても、理解できる人は今までいなかったようだから。
「お前ほど中国語を理解している日本人は乗せたことない」と言っていたし。

見学途中、老婆が飲み物を売っていた。
彼はその老婆を指し、
「あの人は日本人が嫌いだ」と言った。
その後続けて、老婆に向かって「こいつは日本人だ」と言った。
再びボクに向かって「だけど大丈夫。きちんと話してあるから」と言った。
彼が一体何を目的としていたのかはわからないけど、
ボクはその老婆に軽く会釈する以外の行動は思いつかなかった。

よく日本人は謝罪すべきだという。
もちろん、まずは謝罪すべきだとは思う。
だけど、このとき、ボクには「謝罪」という選択肢はなかった。
(霊場や記念館に行ったら、心の中で「謝罪」はしたかもしれないが)
目の前にいる運転手や老婆に対して、謝罪をする意味がないと思った。
運転手に対して「ありがとう」という感謝の言葉を述べるのが最良だと思った。

恐らく、単なる日本からの観光客として来ていたら、こうは感じなかったかもしれない。
中国に住んでいて、日本を距離を持って眺めていたからそう思ったのかもしれない。
でも、それも定かかどうかよくわからない。

実は、ボクはまだ映画『南京』は見ていない。
見る必要があるかもしれない。
それも、他の中国人に混じって映画館で。


*写真の奥の橋みたいのが「中山門」。
ここから日本軍が南京に入城してきたらしい。
よく写真で見るあの門がここなんだってさ。

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