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伊東良徳の超乱読読書日記

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リアリズム絵画入門

2010-04-12 21:39:43 | 人文・社会科学系
 リアリズム絵画についての著者の考えや姿勢を論じた本。
 リアリズム絵画を、著者は、物が存在するということのすべてを2次元の世界に描ききろうとする試み、物がそこにあるということを見える通りに、感じる通りに、触れる通りに、聞こえる通りに、匂う通りに、味のする通りに描ききろうとする試みと定義しています。ただ「見える通り」ではなく、物の存在感、重量感、存在の意義ややがて朽ち果てるまでの時間をも絵に塗り込めると、著者は論じます。
 そうした著者がリアリズム絵画の傑作とするのはフェルメールの「牛乳を注ぐ女」とレオナルド・ダ・ヴィンチの「モナ・リザ」。リアリズム絵画とは細密画ではなく、むしろ無用な細部を切り捨て、背景・壁も人物と同じ密度で描き現実空間の重量感を表すものと著者は論じています。
 1作に1年も2年もかけるという、その制作過程が同僚の画家へのインタビューでも示されています(人物画でそうしてるのって、モデルの人も大変)。
 本の内容が、技術論はごく一部で、大部分が哲学的な話となっていることとあいまって、画家の本というよりも、哲学者というか求道者の趣です。これで食っていけるのかしらと思うところに、最終章で著者がこれまでの経緯を振り返り、若いうちはパトロンがいたり売れる絵を描いていたとかの説明があって、なるほどと思います。
 全体に説教臭いし、フェルメールやダ・ヴィンチを論じる箇所はプロの視点というよりも一ファンの視点になっている嫌いがありますが、ちょっと変わった美術の教科書的な意味合いで読んでみるには面白い本でした。


野田弘志 芸術新聞社 2010年3月10日発行
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カラヴァッジョ 灼熱の生涯(新装版)

2010-04-10 22:08:59 | 人文・社会科学系
 16世紀末から17世紀初頭にかけて活躍したイタリアの画家ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ(カラヴァッジョのミケランジェロ・メリージ:カラヴァッジョは出身地の町)について、主として人物像に焦点を当てた解説書。
 カラヴァッジョは、写実的な絵画の技術と暗闇と光のコントラストで有名で近年その評価が高まっていますが、この本は、作品については、絵としての解説よりも誰の依頼で書いたとか誰をモデルにしたとかその絵がいくらで売れたとかの事実の方に関心を持っています。
 そしてカラヴァッジョは、ローマで有力者に気に入られ、売れっ子画家として名声を確立しながら、気むずかしく激しやすく剣を持ち歩き度々決闘や刃傷沙汰を引き起こして度々逮捕され、ついには路上で殺人を犯してローマから逃亡し、有力者に匿われながらマルタ騎士団に入って安全を確保するとまた有力者に重傷を負わせて投獄されてマルタからも逃亡するという破天荒な私生活を送り、教皇庁の赦免状を求めつつローマに戻る過程で死亡するという波乱の生涯を送り、著者はむしろそちらに強い関心を持って書いています。著者は、これまでのカラヴァッジョ研究者はカラヴァッジョを特殊視しすぎていると論じ、当時のイタリアの都市や郊外の危険性を考えれば、カラヴァッジョの行動は当時の人間としては珍しくないと指摘し、ゲイだという説は誤りだと断じています。
 カラヴァッジョの活躍した時代がカトリック側が反宗教改革のためにカトリックの教義を民衆にわかりやすく示す必要があった時期にあり、カラヴァッジョの絵の大半が宗教画でトレント宗教会議の布告にマッチしていたという指摘をはじめ、イタリアの地理と歴史が頭に入っていないと、スッと入らない部分も多々ありますが、歴史読み物としても興味深い本ではあります。


原題:CARAVAGGIO A Passionate Life
デズモンド・スアード 訳:石鍋真澄、石鍋真理子
白水社 2010年2月15日発行 (原書は1998年)
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