goo blog サービス終了のお知らせ 

伊東良徳の超乱読読書日記

はてなブログに引っ越しました→https://shomin-law.hatenablog.com/

無罪

2015-02-11 08:50:37 | 小説
 リーガル・サスペンスの先駆けにして不朽の名作と評価される「推定無罪」(Presumed Innocent:1987年)の23年ぶりの続編。
 「推定無罪」で不倫関係にあった同僚検察官の殺害容疑で起訴されたが公判中に検察側の主張が崩れて起訴取り下げとなり放免された検事補ラスティ・サビッチは、その後裁判官に転身し、60才となった今、州上訴裁判所首席判事の職にあり、州最高裁判事選挙を控えていた。その選挙戦の最中に妻バーバラが心不全で死亡し、朝起きて妻が死体となっていたことを知ったラスティは丸一日警察に知らせることなく、息子ナットが訪れた時にはただバーバラの遺体が横たわるベッドに座り込んでいた。ラスティが担当していた毒殺事件の被告人との会話やラスティの不倫の事実を把握した検事局では、部下の検事補に焚きつけられた地方検事代行のトミー・モルトが「推定無罪」での失態の悪夢に翻弄されながら再度ラスティを殺人罪で起訴すべく捜査を進めるが…というお話。
 ラスティ、モルト、ナット、ラスティの不倫相手アンナの過去と現在の語りを織り交ぜながら、バーバラの死は問題ない自然死だという評価から少しずつ小さなピースを積み上げていって、いつの間にかラスティの犯行を無理なく想定できる状況を作り上げる第1部の構成、そこに持っていく手腕はさすがです。「推定無罪」を読んでいなくても一応ついて行けるようには書かれていますが、「推定無罪」を読んでいるか、特にその結末を知っているかどうかによって、バーバラとラスティの夫婦関係の綾、検察側が第1部で切り札と位置づけているDNA鑑定の行方についての認識が違ってくるので、第1部を読む時の感じ方、入り具合が相当程度変わってくると思います。
 法廷シーンを中心とする第2部は、第1部のじりじりと積み上げる静かな展開と変わりスピード感が出て来て、スリリングな展開が楽しめます。しかし、リーガル・サスペンスとしては、最後に一ひねり欲しいところで、ラストに不完全燃焼感が残りました。作者としては、最後にどんでん返しがあることを予想するリーガル・サスペンスファンの真犯人の推測を外すためにあえてそうしたのでしょうけれど(私は読みを外されました)。
 「推定無罪」の時の尖った暗さが、登場人物(ラスティ、モルト、そして敏腕弁護人のスターン)の老いにより、丸くなり、特に「推定無罪」の際の失態のリカバーをもくろむ立場のモルトが57才にして初めて結婚し子どもができたことを喜び子どもを溺愛するしあわせを素直に表現していることで全体に温かみと明るさをイメージさせていて、読み味が変わっています。
 57才のモルトが31才の新妻との間で次々と子どもを作り(30ページ等)、60才のラスティが妻と「週に2、3度、自然に交わりを持つ」(56~57ページ)上に34才の「元」部下からがぶり寄りに言い寄られて(41~43ページ)不倫の関係を持つって、中高年男にはホッとします(こういう話題が最近多すぎ)。ちょっと期待(妄想)を持たせすぎの感がありますけど。
 バーバラとの夫婦関係を続けたラスティのバーバラとの距離感、思い、ある種の諦念とそれでいいのだという達観が厚みを持って描かれています。「推定無罪」の結末からは夫婦関係の継続自体信じがたくも思えますが、同時に、そういうものかな/そういうものかもとも感じられました。


原題:Innocent
スコット・トゥロー 訳:二宮磬
文藝春秋 2012年9月30日発行(原書は2010年)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする