大規模法律事務所で社債の引受業務を担当し続け法廷には一度も立ったことがない5年目の弁護士デイヴィッドが、事務所を辞めて飛び込んだ人身事故をかき集めて何とか経営を維持している小規模法律事務所で、先輩弁護士がのめり込む降ってわいたような薬害訴訟に引き込まれ、大規模不法行為を専門にする弁護士たちと製薬会社の思惑に翻弄されてテストケースとなる裁判の矢面に立たされるという設定のリーガル・サスペンス小説。
終盤に法廷シーンも出て来ますが、薬害訴訟を巡り一儲けを企む大規模不法行為を専門とする弁護士たちと、その尻馬に乗って稼ごうとする大規模不法行為の経験もテクニックもない場末の弁護士たちの思惑と無責任さ、だらしなさ、情けなさが、主なテーマといってよいでしょう。
以前は、グリシャムらアメリカのリーガル・サスペンスに描かれる、救急車を追いかける弁護士( Ambulance Chaser:この作品では弁護士事務所の飼い犬の名前もAC)を始めとする金儲けに汲々として怪しげな広告をして顧客をかき集める弁護士像を見て、アメリカは大変だなぁと思っていたのですが、「司法改革」のかけ声の下で弁護士が大幅に増員され電車の車内広告やテレビCMまでもが珍しくなくなった日本の現状では他人ごととは言えなくなって来ています。財界の御用聞きのような姿勢で進められる日本の「司法改革」では、アメリカと違って、民事陪審とか懲罰的賠償といった大企業に打撃を与える可能性のある制度は絶対に導入されませんから、大企業相手の損害賠償がそういう場になることは考えられませんけど。弁護士業界のどこか自嘲的で投げやりな最近の雰囲気もあり、久しぶりに読むグリシャムがちょっと身に染みました。
デイヴィッドが、自分で見つけた最初の事件で、不法入国の外国人を最低賃金以下の賃金で週80時間こき使っている建築請負業者から高額の和解金を勝ち取った場面で「大法律事務所で5年も働いていたが、弁護士になったことがこれほどまでに誇らしく思えたことは一度もなかった」(下巻91ページ)というあたりには、庶民の弁護士としては(また労働者側の弁護士としては)共感するところですし、弁護士業界にとって救いに思えるところです。
このデイヴィッドの成長部分を評価して、「解説」ではこの作品を「原告側弁護人」(原題:The Rainmaker )の系譜に位置づけています。しかし、大企業を訴える弁護士たちを貶めて製薬会社に理があると描く姿勢は、「甘い薬害」(原題:The King of Torts )と共通し、The King of Torts とこの作品の2作品でグリシャムはかなり大企業サイドに歩み寄ったスタンスを確立したように、私には見えます。デイヴィッドが終盤に担当する玩具会社との訴訟の描き方とあわせ、中小のアウトローの企業は悪者でも超大企業は悪者ではないという印象を与えているように見えるのです。The Rainmaker で巨大企業(保険会社)の悪辣さ加減を指弾した時代のグリシャムとはずいぶんと距離があるように、私には思えます。そして、正義感に燃える若い弁護士も、The Rainmaker での暴れぶりと比べると、いかにもお行儀がいい。私には、この作品は、The Rainmaker と類似のテーマと展開を持ちながら、グリシャムの加齢と保守化を示すものと読めました。

原題:THE LITIGATORS
ジョン・グリシャム 訳:白石朗
新潮文庫 2014年3月1日発行 (原書は2011年)
終盤に法廷シーンも出て来ますが、薬害訴訟を巡り一儲けを企む大規模不法行為を専門とする弁護士たちと、その尻馬に乗って稼ごうとする大規模不法行為の経験もテクニックもない場末の弁護士たちの思惑と無責任さ、だらしなさ、情けなさが、主なテーマといってよいでしょう。
以前は、グリシャムらアメリカのリーガル・サスペンスに描かれる、救急車を追いかける弁護士( Ambulance Chaser:この作品では弁護士事務所の飼い犬の名前もAC)を始めとする金儲けに汲々として怪しげな広告をして顧客をかき集める弁護士像を見て、アメリカは大変だなぁと思っていたのですが、「司法改革」のかけ声の下で弁護士が大幅に増員され電車の車内広告やテレビCMまでもが珍しくなくなった日本の現状では他人ごととは言えなくなって来ています。財界の御用聞きのような姿勢で進められる日本の「司法改革」では、アメリカと違って、民事陪審とか懲罰的賠償といった大企業に打撃を与える可能性のある制度は絶対に導入されませんから、大企業相手の損害賠償がそういう場になることは考えられませんけど。弁護士業界のどこか自嘲的で投げやりな最近の雰囲気もあり、久しぶりに読むグリシャムがちょっと身に染みました。
デイヴィッドが、自分で見つけた最初の事件で、不法入国の外国人を最低賃金以下の賃金で週80時間こき使っている建築請負業者から高額の和解金を勝ち取った場面で「大法律事務所で5年も働いていたが、弁護士になったことがこれほどまでに誇らしく思えたことは一度もなかった」(下巻91ページ)というあたりには、庶民の弁護士としては(また労働者側の弁護士としては)共感するところですし、弁護士業界にとって救いに思えるところです。
このデイヴィッドの成長部分を評価して、「解説」ではこの作品を「原告側弁護人」(原題:The Rainmaker )の系譜に位置づけています。しかし、大企業を訴える弁護士たちを貶めて製薬会社に理があると描く姿勢は、「甘い薬害」(原題:The King of Torts )と共通し、The King of Torts とこの作品の2作品でグリシャムはかなり大企業サイドに歩み寄ったスタンスを確立したように、私には見えます。デイヴィッドが終盤に担当する玩具会社との訴訟の描き方とあわせ、中小のアウトローの企業は悪者でも超大企業は悪者ではないという印象を与えているように見えるのです。The Rainmaker で巨大企業(保険会社)の悪辣さ加減を指弾した時代のグリシャムとはずいぶんと距離があるように、私には思えます。そして、正義感に燃える若い弁護士も、The Rainmaker での暴れぶりと比べると、いかにもお行儀がいい。私には、この作品は、The Rainmaker と類似のテーマと展開を持ちながら、グリシャムの加齢と保守化を示すものと読めました。

原題:THE LITIGATORS
ジョン・グリシャム 訳:白石朗
新潮文庫 2014年3月1日発行 (原書は2011年)