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伊東良徳の超乱読読書日記

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実務解説改正労働者派遣法対応マニュアル

2012-12-13 21:50:39 | 実用書・ビジネス書
 2012年改正後の労働者派遣法について、派遣会社、派遣先企業、派遣労働者から見た業務の順序にあわせて手続を解説した本。
 著者は派遣元責任者講習の講師という立場から、派遣法の逐条解説ではなく、実務手続に沿った解説の方がわかりやすく聞く方も関心が持てるという考えでこの本の構成を組み立てていて、その点では概ね成功しているように思えます。
 ただ私は労働者派遣の現場からの解説を期待して読んだのですが、現場での実務手続に関する情報は必ずしも多くなく、例えば契約書等も厚労省や労働局のサイト掲載のものを用い、法規制に関する解説内容も厚労省の業務取扱要領の解説が大部分を占めています。
 著者の主張が出ている部分も相当ありますが、そこは労働者派遣業が当然に認められるべきもので、日雇い派遣しかできない人がいるのに禁止するのはけしからんというような思考パターンが中心になっています。企業はより安くて簡単に切れる労働力を欲するから日雇い派遣を認めれば正社員のニーズは減り日雇い派遣のニーズはできるということで、日雇い派遣、さらには派遣が許されていなかった時代は、著者のいう日雇い派遣しかできない人は派遣以外の形で働けていたのだと思います。ニワトリ・卵かもしれませんが、現状を当然の前提として議論することには疑問を持ちます。また、著者の主張で、非正規雇用の賃金の安さに関して、「あなたの賃金が低いのは自分の望む時間に働く自由を得るための代償であることを認めますか?」というのが「本質的な質問」(13ページ)という発想にはぶっ飛びました。ネットカフェ難民もホームレスも自由になるためにやってると解釈されそうです。そして派遣問題の最終的な解決は派遣労働者が個人事業主になることだそうです(261~262ページ)。著者の主観・目的はわかりませんが、その発注者になる企業からすれば、労働者を請負の形にして労働者としての保護まではずそうという、企業形態の派遣・請負とは別形態の「偽装請負」になるだけでしょう。
 解説部分では、派遣受入期間の制限がある業務の抵触日(期限が来て派遣ができなくなる日)の1か月前から抵触日の前日までに抵触日の通知をすることになっているが、1か月前では対応ができず遅すぎるという批判を繰り返しています(派遣会社のところでは142ページ、派遣先のところでは192ページ、派遣労働者のところでは235ページ)。しかし、そもそも抵触日は派遣先が当然に把握しており、労働者派遣契約締結までに派遣先が派遣会社に通知するものですし、労働者にも就業条件明示書で知らされていなければなりません。派遣開始前にわかっていることで、その後の対策はむしろ最初の時点から考えるべきことというのが法律の立場です。抵触日の前に通知するのは抵触日の通知ではなく抵触日以降は派遣を停止するという法律の規定上は当然のことの通知です。それが1か月前では遅すぎるというのは、むしろ派遣開始前の段階でやらなければならない抵触日の通知やその就業条件明示書への記載が現実には行われていないからではないかと勘ぐってしまいます。さらにいえば、著者が1か月前では遅すぎると「制度」を批判している派遣停止通知も、実際行われてるかかなり疑問に思っています。派遣受入期間経過後の労働契約申込義務が問題になった裁判の事例でも派遣停止通知は行われていませんでしたし。現場に精通している立場の人の本では、派遣会社の利害を主張するよりもそういうことも含めた実務の実情をきちんと書いて欲しいなという気がします。


小松太郎 レクシスネクシス・ジャパン 2012年11月30日発行
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