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伊東良徳の超乱読読書日記

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Q&A労働者派遣の実務 平成24年改正法と企業実務

2012-12-11 21:10:12 | 実用書・ビジネス書
 2008年秋以降の派遣切り問題から当初は派遣労働者の保護のために登録型派遣・製造業派遣の禁止を打ちだしていたものの結局はそれらが見送られて小幅改正となった2012年労働者派遣法改正を受けて、専ら使用者側の視点から、改正後の労働者派遣の実務を解説する本。
 実務的な問題意識に徹していて、弁護士の目にはとても実用的な本に仕上がっています。弁護士以外が読み通す気になるかはわかりませんが。
 労働者側の弁護士にとって、労働基準監督署の使用者への行政指導や、それに対応するために使用者側の弁護士がどのような助言をしているかは、直接経験できないので、使用者側の弁護士が書いた本は大変興味深いところです。
 著者が嘆いているというか憤っている、派遣受入期間の制限がない専門26業務のうち「事務用機器操作関係業務」についてかつては「データ入力」を重視していたのに2010年5月28日発表の「専門26業務に関する疑義応答集」でデータ入力はもはやこれに当たらないと判断しているようである(78ページ)、派遣受入期間の制限は業務取扱要領では3か月以上の空白期間をとればリセットできるように書いていたのに製造業派遣の派遣受入期間が満了する2009年問題に関する通達では期間満了後もその業務が必要なら直接雇用するか請負によるべきであるとしている(87~88ページ)、派遣労働者(この場合派遣ということよりも有期雇用という点がポイントだが)の育児休業の可否について通達上は休業期間中に契約期間が切れ一度更新してもその期間も切れるときは育児休業の要件を満たさないはずなのに労働局は派遣労働者にもできる限り育児休業を認める方向で指導している印象を受ける(156ページ)などの点は、労働者側からは不満が多い厚労省もそれなりにがんばっているのかなと思いました。専門26業務は法律の規定上も「専門的な知識、技術または経験を必要とする業務」なのですから今どきデータ入力や普通のパソコン業務がこれに当たらないと解することはむしろ当然だし、育児介護休業法の規定では「引き続き雇用されることが見込まれる者」とすると同時に括弧書きで「当該労働契約の更新がないことが明らかである者を除く」という規定の仕方をしていてもともと1年以上引き続き雇用されていることが要件となっているのだから「更新がないことが明らか」といいにくいことからすれば、法律の規定に沿った行政だというだけと、私は思いますけど。
 また、著者が厚労省の態度が変わったと指摘する事務用機器操作関係業務の派遣労働者にお茶くみや銀行等への入金、郵便物の振り分け等の一般事務もあわせて行わせたときに全体として専門26業務扱いか自由化業務扱いかについて、業務取扱要領(91ページ)、Q&A(92~93ページ)、疑義応答集(96~97ページ、277~278ページ)を比べ読んでも、厚労省は「付随的」に自由化業務を行わせるときには就業時間の1割以下ならかまわない、事務用機器操作関係業務の「付随的」業務になるのはそれが派遣労働者の仕事とされている場合のゴミ捨て、用紙補給、電話応対まででお茶くみや銀行等への入金、郵便物の振り分け等はこれに当たらないという点で一貫してると思います。
 派遣労働者が産休・育児休業・介護休業を申し出た場合の処理について、派遣元が代替労働者を派遣しないときは派遣契約を解約してよいと述べている(151、157、161ページ)もののわりと処理に困っている様子が感じられ、労働者側としてはもっとどんどん申し出ようというべきかなと思いました。


五三智仁 民事法研究会 2012年7月2日発行
コメント
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