血統徒然草

サラブレッドの能力を血統面から考察する我儘・自分勝手なブログ

私的名馬選 01(ウオッカ)

2019-04-04 23:28:07 | 私的名馬選
 今回の血統徒然草は、私的名馬選と銘打って、先日15年の早すぎる生涯を終えた稀代の名牝ウオッカについて書いてみたいと思います。

ウオッカ(タニノギムレット×タニノシスター by ルション)牝・04生

Ⅰ 主:7 結:6 土:3 弱:3 影:2 集:5 質:4 再:5 SP:4 ST:3 特:0
合計:(42/60)点 クラス:3B
Ⅱ 日本適性:□ 成長力:□
Ⅲ 距離適性
芝:S × M 〇 I 〇 C □ L ×
ダ:S × M 〇 I □ C × L ×
芝適性:〇 ダート適性:〇 重馬場適性:□
Ⅳ 開花率:△ 成長型:晩成

〇 主導      (7)

 主導はNashua5×6~Nasrullah6・7×5・6・7の系列クロス。次いで、Roman6・6×6。Alibahi6・7×6。この三者で、ウオッカのスピード・スタミナの核として機能している。似た配合馬としてナリタタイシン(3A 主導はNearco、Roman、Alibahi)が存在するが、ナリタタイシンほどに血の集合や連動がはかられておらず、その部分ではやや劣るもののウオッカの血統において有効に作用しているのは事実であり、主導としては明確な部類に入るだろう。

〇 結合      (6)

 主導たるNashua~Nasrullahと6代目までに存在するクロスである、RomanはSir Gallahadで、AlibahiはChaucerで、Blue Peterは、土台構造を形成するPharos(=Fairway)で、BoudoirはBlenheimで、Nativ DancerはSickle~Phalarisで、それぞれ主導と結合している。やや間接的な結合に頼る部分が強く、極めて強固にとは言えないものの、血統全体の連動性は取れていると言って良い。しかし、7代目以降に存在する、Blue Larkspur、Man o’war等の結合が果たされていないのは明らかにマイナスで、主導がNashuaである点を踏まえても惜しまれる点である。

〇 土台・血の流れ (3)

 土台構造は、Pharos(=Fairway)14連で形成。次いで、Sir Gallahad(=Bull Dog)9連がサポートする形態。ほぼ全てのブロックに存在し、血の流れ自体は良好だが、やや連数に欠けるのが惜しまれる。

〇 弱点・欠陥   (3)

 血統全体においてこれといった弱点や欠陥は存在しない。ただし母内Lalun内のように連動しない血で固めた部分もあり、極めて良好にとはいかない点が惜しまれる。

〇 影響度バランス (2)

 影響度バランスは(5-3-7-4)とBMSルションを強調。血の集合から見てもこのバランスは比較的良好だと言える。

〇 血の集合    (5)

 当馬の血の集合は、父内ブライアンズタイムにおいてはかられている。惜しむらくは、ブライアンズタイムの影響力がルションより下回る点で、当馬の血統構成を考える上でややちぐはぐな部分であると言える点か。

〇 質       (4)

 祖母エナジートウショウは、シスタートウショウ(2A)の全姉でHyperionを主導とした非常に優秀な配合。BMSルション(3B)はSir Gallhad(=Bull Dog)主導であり、その祖母の優秀性を引き継いだものでは無いものの、質の高い血を重ねている。また父タニノギムレット(1A)も非常に血の質が高い。当馬の血統においては、その全てを生かし切ったとは言い難いものの、クロスした血の質も総じて高く、底力勝負可能な血統構成だと言える。

〇 再限度     (5)

 再限度に関しては、母・祖母共にHyperion主導であり、決して良好だとは言えないものの、父のNasurllah・Roman主導、Graustark(自身においてはクロスしないものの、その中のAlibhaiが能力参加)のアシストをしっかりと生かしているのは、ウオッカの能力形成に一役買っていると言える。比較的良好だと言って良い。

〇 スピード    (4)

 スピードは主導内Nasrullahを中核に、Romanがアシスト。主導たるNashuaへとしっかりと補給されている。また血統の奥にあり、結合も非常に弱いが、Sundridgeが隠し味的に切れ味を補給している。この部分の引き出しに関しては、紙面上においてかなり疑問ではあるが、当馬の現実の走りを見る限り、ある程度成功したと考えて良い。

〇 スタミナ    (3)

 Alibahi~Hyperionを中核にした配合。また、Romanの影響が強い為、明確なスタミナ勢力としての機能はやや弱いものの、Sir Gallahad(=Bull Dog)がPlucky Liegeを伴い、スタミナを主導へと直接補給。また、Hurry On、Prince Rose等もクロスし、結合こそしないもののスタミナの再現に一役買っている。決して距離延長が得意といったタイプでは無いものの、マイルから中距離でのハイペース対応は十分に可能だと言える。

〇 特別配点    (-)

 特に無し。

〇 短評

 以上が、2007年に行われた東京優駿を牝馬として64年ぶりに制した、稀代の名牝ウオッカに対する血統面からの考察であります。当馬の血統構成を考えた時に、まず目につくのがNashua~Nasrullahのクロスからくる、主導の明確性だと思いますが、当馬の血統において大きな役割を果たしたのはRomanのスピード、Alibahi~Hyperionのスタミナのアシストがしっかりと明確に機能した事実であると考えます。また、父タニノギムレットが抱えた、Hail to Reason内の米系が、母内ルション・トウショウボーイと連動した事により、生かされた点も指摘しておかなくてはいけない部分だと考えます。本来配合とは、父母両者の血を外交的に抱え、かつ集合させ、特定の部分の生かし方が良い物を目指すのが本道だと考えていますが、ウオッカの血統構成はまさにこれにかなった内容で、サンデーサイレンスやNorthern Dancerに頼る事なく、全てを組み立てる事に成功した、とても美しくある血統だと言えるでしょう。過去の名馬達にも当てはまりますが、本当に強い競馬を、古馬になっても安定して見せるサラブレッドの血統は美しいものが多く、ウオッカの血統構成は名馬のそれだと言って差し支え無いでしょう。
 先日残念ながら、15歳という短い生涯を終えたウオッカですが、幸いな事にタニノフランケル(3B)やタニノミッション(3B)等の優れた配合馬を送り出しています。両馬ともいまだ大きな勲章を得てはいませんが、晩成傾向のある血統構成で、古馬になっての更なる活躍を期待するものです。
 また、引退後すぐ欧州にわたったウオッカですが、仮に国内に残った場合、おそらくサンデーサイレンスの血を入れる配合を試されたと思いますが、もしディープインパクトを配した場合、致命的に悪いとは言わないまでも、母が持つ血の流れが生きた内容では無い事を指摘しておきたいと思います。もし、許されるならば個人的には以下の配合が見てみたいと考えていました(また、別の方が考えた配合ですがベーカバドとの交配なら、欧州で通用するような1A級の中距離タイプが出せたと思います)。

(セイウンスカイ×ウオッカ by タニノギムレット)-・-生

Ⅰ 主:8 結:5 土:4 弱:3 影:3 集:5 質:3 再:5 SP:4 ST:4 特:0
合計:(44/60)点 クラス:1A
Ⅱ 日本適性:□ 成長力:〇
Ⅲ 距離適性
芝:S × M 〇 I 〇 C 〇 L ×
ダ:S × M □ I □ C × L ×
芝適性:〇 ダート適性:□ 重馬場適性:□
Ⅳ 開花率:△ 成長型:遅め

 主導はNever Bend5×5の系列クロス。次いで、Gray Sovereign、Hyperion。前者の結合は血統全体で10連ある父Nasrullahで強固に連動し、後者はその仔Owen Tudor内Pharosを通じて連動している。この両者のスピード・スタミナを軸に、主導内Djebel~Tourbillon、Blue Larkspuを生かし、重厚な血統を作り上げている。更に、本来結合しにくい、Princequillo系も、サイアーライン上のForliや父母内に存在するRibotと連動した為にPapyrus~Traceryとクロスしそのスタミナの裏付けをより強固にした上で、Ribot内Pharosを通じ間接的にではあるがスタミナを強固に補給している。この部分においては、本来マイル~中距離タイプであった父母よりも強靭で、ステイヤーでは無いものの距離適性の幅は広いタイプだと言える。惜しむらくはRaise a Nativeの結合が果たされていない点だが、Pharos(=Fairway)26連から来る土台構造の堅牢さや血の流れの良さから見て、安定感ある血統構成。

 父は残念ながら、2008年に種牡馬を引退した為、仮にウオッカが国内で繋養された場合においても、決して見る事が叶わなかった血統ですが、Northern Dancerを一滴含むものの、サンデーサイレンスに頼らない血統を、あえてウオッカの仔で見たいという個人的な願望で考えたものです。また、私の友人で、ウオッカをトウショウボーイだと評した方がいらっしゃいましたが、ウオッカ内のトウショウボーイの生かし方は素晴らしく、まさに言いえて妙だと感じたものです。この配合でもトウショウボーイはその役割をしっかりと果たしています。

 稀代の名牝ウオッカに捧げる文章として、駄文なのは重々承知の上で書き上げました。あの時の東京優駿は私の競馬観を粉々に砕いて、美しく再構成してくれました。本当にありがとう。ただそれだけです。どうか安らかに。

 今回の血統徒然草はこのあたりで筆を置きたいと思います。相変わらずの乱筆乱文をどうかご容赦ください。



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