特別定額給付金の給付手続の遅れから、マイナンバーカード制度の整備の遅れを指摘する声が高くなっている。
曰く、ドイツでは申請してから数日で給付金が支給されたのに、日本では今月末頃にならないと紙ベースの申請用紙が送付されないなど・・・だ。
日本の個人番号制度はものすごく遅れている。個人番号と銀行口座を紐づけして一気通貫の支払事務を行うには行政が真剣に取り組んでも何年もかかるだろう。だが先進国のレベルにキャッチアップできないことはない。
社会インフラのIT化で本当に遅れているのは相続問題だ、と私は思う。何が遅れているか?というとまず遺言書の電子的作成が認められていない。今回の民法改正で財産目録のパソコン作成は認められたが、本文は自筆で書いてハンコをおさないといけない(自筆証書遺言の場合)。
この情報化社会の中で「手書きでないと遺言書は認められない」といっているのは日本だけである。私の知る限り。
諸外国では遺言書のテンプレート化が進んでいる。つまり数千円相当の費用を払って、PCでテンプレートをダウンロードして、そこに相続財産や相続人の氏名、渡したい財産や配分比率を対話式に入力していくと完成する仕組みだ。その遺言書をプリントして、公証人(日本と違って公証人はあちこちにいる。郵便局の中にも公証人がいるところもある位)にところにいって署名の認証と日付の確定をすれば遺言書の効力が発生する。
ところがこれが日本ではできない。何故できないのか?私は最大の理由は、司法書士・弁護士・税理士・公証人など遺言書の作成にかかわる人々が商売が減ることを懸念して遺言書のテンプレート化に反対しているからだ。学者を含め専門家は「パソコンで遺言書を作成すると偽造される可能性が高い」という。
では日本以外の国では遺言書の偽造が横行しているとでも専門家は言うつもりなのだろうか?それとも日本人は諸外国の人に較べて悪人が多いと言いたいのだろうか?
もっとも私は総ての遺言書がテンプレート化できるなどとは考えていない。事業を行っている方や多くの不動産を持っている方、相続人が多数でしかももめることが明らかな場合などは早い段階から専門家に相談するべきだ。
だがそのような相続は比率的にはそれほど多くない。むしろこれから発生する相続の大部分は「自分の住宅+銀行預金+有価証券を子を中心に2,3人で分ける」というシンプルな相続で「争いごとはないが、相続人も高齢化しているので手続きが大変」というものだ。
このような相続は法的に有効な遺言書があれば相続手続きは早い。実際アメリカやカナダの相続キットを見ても、相続財産が30万ドル程度(3千万円強)以下なら相続キットを使うのがよく、それ以上は弁護士に相談しなさいとアドバイスをしている。
遺言書を自筆で書くのに苦労したり、苦労の挙句止めてしまったりする人は多いだろう。その結果は相続人が相続手続に振り回されることになる。その社会的コストは膨大なものになるはずだ。
コロナ問題で多くの人の耳目はマイナンバーカードの遅れに集まっているが、日本の社会インフラの遅れはそれだけではないのだ。