金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

外債投信も良いがリスク・コストは分かる範囲で

2010年04月14日 | 金融

今日(4月14日)の日経新聞一面トップは「投信残高3年ぶり増加」という見出しで、ブラジルなど新興国で運用して毎月高い分配金を受け取る商品に人気が集中してると報じている。

この記事には皆さん目を通されていると思うので、たまたま昨日FTに乗った同様の記事Japanese invesors think Brazil assets the real dealのポイントを紹介しよう。

まずこのタイトル。real dealとは「本物、半端でない」という意味だから、「日本の投資家はブラジルの資産は半端でない価値があると考えている」と言う意味だ。たまたまブラジルの通貨レアルrealとも掛け言葉になっている。だがrealという言葉にFT流の皮肉を感じないでもない。

FTによると3月末のブラジルなどラテンアメリカの株式・債券に投資する投信の残高は2兆3千億円(投信協会)である。レアルは日本の個人投資家にとって、米ドル、ユーロ、豪ドルに次4番目に人気の高い通貨で、ブラジル投信はインドや中国のそれを凌駕している。2007年までレアル建ての投信は数少なかったが、2008年に急増した。

ブラジル投信が人気がある最大の理由は8.5%強という金利の高さだ。流行の「外為証拠金取引」について私はたまにドル円で少し遊ぶ程度で余り詳しくないが、レアルは取引対象になっていないようだ(ざっとみた限りでは)。従ってレアルに投資したい人は投信(ボベスパ連動のETFも日本で上場されている)のような器を使う必要がある。無論米国株式市場に上場しているブラジル株インデックスや個別銘柄のADRを買う方法があるが、やや一般的ではないかもしれない。

そこでレアルなど高金利通貨に投資したいという個人投資家のニーズをとらえた商品が登場している。「通貨選択型投信」と呼ばれる商品だ。昨年の初め、野村アセットがこの商品を投資家に販売を開始してから急速に伸び、JPモルガンは債券型の通貨選択権投信の残高を274億ドル(約2兆5千億円)と推定している。

「通貨選択型投信」の基本は、典型的にはドル建債券などの資産を買い、その資産を担保としてドルを借入て、高金利通貨に投資するというものだ。つまりドルをファンディング通貨としたキャリートレードだ。通貨の先物市場は二つの通貨の金利差で決まる。ドルの金利を1%とし、レアルの金利を8%とすると、金利裁定からレアルの先物価格は7%程度先安になる。低金利通貨で高金利通貨をヘッジする場合、これをヘッジコストと呼び、高金利通貨で低金利通貨をヘッジする場合はヘッジプレミアムと呼ぶ。このヘッジプレミアムを実現利益として受け取りながら、ドルのリスクをレアルのリスクに変えるというのが、「通貨選択型投信」の高い利回りの仕掛けだ。

何も複雑なことをせずに、アウトライトでブラジルの実物資産を買えば良いと思うが、レアル、南アのランド等複数の通貨を投資家がスイッチすることが可能というのが、このタイプの投信の売りなのだろう。しかし投資アドバイザーの中には「商品の仕組みや手数料の点から合理的とは言えない商品」と批判する人がいる。詳しく知りたい方はこちらへ → http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/trend/yamazaki/20091002-OYT8T00339.htm

仕組みは複雑になればなるほど、取引コストがかかる。期待収益は予想に過ぎないしリスクも又予想に過ぎない。確実なものはコストである。期待収益とリスクが同じとすれば、コストの少ない運用の方が、最終的にはトータル・リターンが高くなるというのは当然の話。この観点から私は新興国投資についてもETFが一番良いと考えているのだが、日本は不思議な商品が売れる国である。FTは多少の皮肉をこめてブラジル資産はreal dealだと表題をつけたのかもしれない。あるいはこれは深読みし過ぎだろうか?

コメント
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